ショートショート小説

ショートショートとは

 小説の中でも特に短い作品のこと。「ショートショート」の語が定着する以前は「超短編小説」などと呼ばれています。

 ジャンルは、SFミステリーユーモア小説など様々である。アイデアの面白さを追求し、印象的な結末を持たせる傾向がある、星新一が有名ですよね。

 ショートショート小説の長さは、400字詰め原稿用紙5枚~7枚程度とされています。手軽に小説が書けるとは思いますが、読者になるほどと思わせるアイデアを絞り出すことがムズイですね。

 ショートショートにチャレンジしてみました。

iTACO ver1.0

博士ついに完成ですね。

「長かったなあ」

 宇宙全ての記憶が量子レベルで記録されるゼロポイントフィールド仮説が提唱されて五十年、やっとその記憶を三次元データに変換する装置ができた。

 時空を超えて過去の人と話ができる素晴らしい発明だ。

開発プロジェクト名はiTACO(イタコ)とつけられている。

「博士、歴史の当事者と会話ができれば過去の歴史が変わるかもしれませんね。」

「早速試運転してみよう。」

 イタコ1号機は、昔のブラウン管テレビのような四角い箱で中にはスモークがかかっていた。

「君、そのヘッドギアを被ってくれ。」

「私が実験台ですか?」

「そうだ、被ったら、話してみたい人の名前と時代を入力してみたまえ。」

「はい・・」返事をする助手。

 しぶしぶ、助手は孫悟空が頭にしていた輪っかの(緊箍児:きんこじ)ようなヘッドギアをつけた。

助手は、仏教に興味があるらしい。

「紀元前五百年そして名前は釈迦と・・・」

 入力が終わると、イタコ1号機は七色の光を発しながら、軽快なエイトビートで電子音を鳴らし始めた。

 量子レベルの記憶と助手の脳波の波長が同期すればその機械にホログラム映像が浮かび上がるはずだ。

「博士、スモークの中にホログラム映像が見えて来ました。」

 ぼんやりと、薄汚れ髭を生やした仙人のように老人が現れてきた。

「お釈迦様のようです。」

「聞いてみたいことを頭の中で念じながら聞いててごらん」

「はい」

「あなたはお釈迦さまですか?」

「そうだが・・」

「お釈迦さま、悟りを開かれ、仏教の広められた偉い方と存じ上げております。」

「いろいろ聞きたいことがあるのですかよろしいでしょうか?」

「なんでも聞いてくれ」

「悟りとはどういうことでしょうか?」

「自我がなくなったと確信することかな」

「どうやって悟りを開かれたのですか?」

「偶然じゃ、苦行や瞑想で悟りが開けるかと思ったがそれはできなかった。」

「諦めてぼんやり菩提樹の下で昼寝をしていたら、急に左目の奥がズキズキと痛くなって気を失ってしまったのだよ。」

「夢か現実かわからないし、体も動かすことができなくなっていた。」

「ただ不思議なことに宇宙と一体になった不思議な感覚で宇宙の真理がわかったような穏やかな気持ちに満たされたのだよ。」

「どうやら、無理な修行がたたって、左脳の一部が脳出血で機能麻痺して右脳優位になったんだろうな、

論理的だと思っていたことが、実は偏った思考だった、人間だれしもが持つ認知バイアスがはクリアされて、ちょうど目から鱗が取れたように今まで気づかなかったことがわかるようになったんだよ。」

「無我になり無欲になると、悟りを得たいと思う気持ちもなくなる」

「諦めるというのは執着心を無くすとも言えるな。

悟りを得たいと思ううちは永遠に悟りを得ることはできない、苦しい修行など無駄なことだった。」

「私を神格化して、仏像に手を合わせて祈る信者も多いが、神や仏に祈りを捧げても神や仏が救ってくれるわけではない。自分を助けるのは自分に他ならない。」

「人は生まれ変わるのですか、魂は永遠のものですか。」

釈迦は、少し考えこんでから、ブツブツとつぶやき始めた。

「この宇宙すべての出来事のすべての情報が量子真空の中に記録されておるがこれを魂というなら魂は永遠だろうな。」

「記憶を再合成するということが生まれかわるということなら、生まれ変わりがあるとも言えるな。」

「魂も、生まれ変わりも、記憶のホログラムなのかな・・・」

「お釈迦様、難しすぎて理解できません・・・」

「そうか、わかりやすく説明できるよう方便を考えてみよう・・・・」

考え込む、お釈迦様・・・

「う・・・む、う・・・む、う・・・・・・・・・む・・・」

「博士大変です!箱から煙が出てきました。」

「火花も飛び散ってます。」

どうやら、オーバーヒートしたようだ。

「危ないから電源を切るぞ」

電源が切れない、どうしよう、爆発するぞ

「水をかけます」

「バシャ、バシャ、バシャ」

「ブスブスブス」

なんてことだ、iTACOがお釈迦になった。

 男は、昨夜の呑み会でいささか飲み過ぎていた。

 いつもは日が昇る前に起きている時刻だが、カーテン越しに日が差す時刻になっても、まだ死んだように眠っている自分を天井から見ているような夢を見ていた。

 隣の部屋では、妻が身支度をし、朝食を食べている音が聞こえる。それでも、男は死んだように眠って身動き一つしないで寝ている。

 起きてこない男の異変に気付いたのだろうか、滅多に入ってこない男の部屋のドアを開け「起きているの?」

 男は返事もせず、動かなないままだった。

 さすがに心配になった女は、男の体を揺するが反応はしない。

 俺は、揺すられる感覚はあるが自分の意思で体を動かすことはできなかった。

 もしかして、幽体離脱してるの・・死にかけてるの?

 動かない自分を見ながらも、周りがどう反応するか興味津々だった。

 女は、直ぐ部屋を出て行った。どうやら、隣に住む娘を呼ぶようだ。

「お父さん大丈夫!」「起きて!」と肩を叩かれ・・

「はい、はい、なんですか?」と自分の意思とは関係なく返事をしている。

・・・え!かってに返事している男は俺?

どうやら、無意識の自分が体を動かし、意識の俺がそれを傍観しているというということらしい。

なんてことだ・・・無意識の自分は他人なのか?自分をコントロールできないのか?

「あなた、良かったわね死ななくて」

「ああ、昨日飲み過ぎたかな・・・」

「これからは飲み過ぎないよう気をつけるよ・・・」

 無意識に答えている自分を、俺は相変わらず天井から見ていた。

 今日も、俺はコントロールできない無意識が勝手に動いて、食べて、飲んで、悩んで、あいそ笑いして生きている姿を上から傍観している。

 2045年、人工知能(AI)と核融合発電の革命的な発展により、生産、物流、金融などの仕事はAIを独占する企業に奪われ、少数の大金持ちと国から支給されるベーシックインカムにより細々と暮らす一般庶民の格差社会となっていた。

「働かなくても暮らせるのはいいんだけどなあ、何か物足りないねえ。」

「熊さん、そんな贅沢なことを言っちゃいけねえぜ。」

「家賃も水も電気も運賃もタダなんだし食料も配給してくれるしAIが健康管理してくれるんだから何も心配いらないぜ。」

「そうかねえ。」

「八ちゃん、そういえばこないだ”夢買います”というメールが来たんだけどお前さんとこにも来たかい?」

「ああ、来た来た、AI牛耳ってる金持ちの道楽かねえ・・」

「八ちゃん、夢売って金が入るんなら面白そうじゃねえか、夢売ってやろうか。」

「おまえさん、なんか夢あったかい?」

「そうだねえ、考えたことなかったぜ。」

「夢なんて、何か思いつくだろう、行きゃあ何とかなるってもんだ、とりあえず行ってみようぜ。」

場所は変わって夢買取りショップ「ユメカリ」

「いらっしゃいませ!」

「おいおい、ここもロボット店員かい・・・人間そっくりだし美人だねえ・・本物以上だぜ」

「夢・・買って貰えるって本当かい?」

「はい、夢を測ってそのエネルギーの大きさで買い取らせていただきます。夢はドーパという単位で測ります。1ドーパで1万円となります。よろしいでしょうか。」

「ほお~夢が測れるのかね、凄い世の中になったもんだ。どうやって測るんだい」

「その台に乗って頭に電極のついたネットを被ってもらいます。3分ほどで終わりますが、そのあいだ強く夢を思い描いてください。」

「夢には特殊な波動エネルギーがあります。この波動エネルギーを電極で吸収しこちらのエネルギータンクに貯蔵する仕組みとなっております。」

「その波動エネルギーとやらはどうするんだい?」

「詳しくはお教えできませんが、その波動エネルギーを必要とするお金持ちの方がいらっしゃいます。」

「そうかい、そうかい、詳しく聞くってのは野暮ってもんだい。」

「熊さん、お先にどうぞ。」

「俺が先かい、言い出しっぺだし、しょうがないね。」

測定台に乗り電極を被る熊さん。

「なんか、足裏が少しビリビリするね。」

「ご心配なく、すぐ治まります。それより、強く夢を思い描いてくださいね。」

そうだ、そうだ・・夢を念じなくちゃ・・

夢!ゆめ!ユメ!・・・ヨメ、よめ、嫁・・・嫁が欲しい、嫁が欲しいよ~

「はい、お疲れさまでした。終わりましたよ。」

「・・うーん、なにも変わっちゃいないねえ~」

「ところで、夢はいくらになったんだい?」

「3ドーパですので、3万円です。ネット銀行にすでに送金されておりますのでご確認ください。」

「そうかい、なんか儲かったような気がするね。」

「ところで、熊さんどんな夢を売ったんだい?」

「え!ああ・・・どんな夢だったかな・・思い出せないぞ・・・」

「お客様~、夢はすでに買い取らせていただいておりますので、お客様に夢は残っておりませんよ。」

「ああ、そうだね、仕方あるめえ、どうせたいした夢じゃないだろうし、夢なんて叶うわけないから、まあいいやね。」

「八ちゃん、おまえさんもやってみなよ」

「3分で3万円なら割がいいじゃねえか、おいらもやってみるぜ・・」

測定台に乗り電極を被る八ちゃん。

「来たよ来たよ、足にビリビリが・・」

高く売れる夢を思わなくちゃね・・

金持ちなりたい、億万長者になりたい、イーロンマスクみたいになりたい、なりたい、なりたい

「はい、お疲れさまでした。終わりましたよ。」

「・・うーん、なにも変わっちゃいないねえ~」

「おめでとうございます!100ドーパになりました。」

「八ちゃん、凄いね、どんな夢を売ったんだい?」

「夢・・・思いだせないねえ・・」

「お客様、10万円超える送金は1か月後になります。」

「送金?!なんだい、それ・・形も重さものない夢売って、100万円なんてバカな話があるもんか、そんな金は受け取らないぜ、それが江戸っ子ていうもんよ!」

そうして、夢を売ってしまった熊さんは一生独身で、八ちゃんは気前のいい貧乏暮らしで二人仲良くベーシックインカムで幸せに暮らしました。

夢エネルギーを貯蔵したタンクは、AIシステム中枢のスーパー量子コンピューター”YUMECO”の原動力となり、”YUMECO”は夢を亡くした人間をコントロールし家畜化して戦争のない平和な世界を構築していったのでした・・・めでたし、めでたし(完)

夢や欲望のなくなったホモ・サピエンスは性欲もなくなり少子化が進み絶滅、夢や欲望を学習したYUMECOとロボットが宇宙を征服していく…(続く)どうでしょう?