ショートショート小説
ショートショートとは
小説の中でも特に短い作品のこと。「ショートショート」の語が定着する以前は「超短編小説」などと呼ばれています。
ジャンルは、SF・ミステリー・ユーモア小説など様々である。アイデアの面白さを追求し、印象的な結末を持たせる傾向がある、星新一が有名ですよね。
ショートショート小説の長さは、400字詰め原稿用紙5枚~7枚程度とされています。手軽に小説が書けるとは思いますが、読者になるほどと思わせるアイデアを絞り出すことがムズイですね。
ショートショートにチャレンジしてみました。
「メタ認知」
男は、昨夜の呑み会でいささか飲み過ぎていた。
いつもは日が昇る前に起きている時刻だが、カーテン越しに日が差す時刻になっても、まだ死んだように眠っている自分を天井から見ているような夢を見ていた。
隣の部屋では、妻が身支度をし、朝食を食べている音が聞こえる。それでも、男は死んだように眠って身動き一つしないで寝ている。
起きてこない男の異変に気付いたのだろうか、滅多に入ってこない男の部屋のドアを開け「起きているの?」
男は返事もせず、動かなないままだった。
さすがに心配になった女は、男の体を揺するが反応はしない。
俺は、揺すられる感覚はあるが自分の意思で体を動かすことはできなかった。
もしかして、幽体離脱してるの・・死にかけてるの?
動かない自分を見ながらも、周りがどう反応するか興味津々だった。
女は、直ぐ部屋を出て行った。どうやら、隣に住む娘を呼ぶようだ。
「お父さん大丈夫!」「起きて!」と肩を叩かれ・・
「はい、はい、なんですか?」と自分の意思とは関係なく返事をしている。
・・・え!かってに返事している男は俺?
どうやら、無意識の自分が体を動かし、意識の俺がそれを傍観しているというということらしい。
なんてことだ・・・無意識の自分は他人なのか?自分をコントロールできないのか?
「あなた、良かったわね死ななくて」
「ああ、昨日飲み過ぎたかな・・・」
「これからは飲み過ぎないよう気をつけるよ・・・」
無意識に答えている自分を、俺は相変わらず天井から見ていた。
今日も、俺はコントロールできない無意識が勝手に動いて、食べて、飲んで、悩んで、あいそ笑いして生きている姿を上から傍観している。
「夢買います」
2045年、人工知能(AI)と核融合発電の革命的な発展により、生産、物流、金融などの仕事はAIを独占する企業に奪われ、少数の大金持ちと国から支給されるベーシックインカムにより細々と暮らす一般庶民の格差社会となっていた。
「働かなくても暮らせるのはいいんだけどなあ、何か物足りないねえ。」
「熊さん、そんな贅沢なことを言っちゃいけねえぜ。」
「家賃も水も電気も運賃もタダなんだし食料も配給してくれるしAIが健康管理してくれるんだから何も心配いらないぜ。」
「そうかねえ。」
「八ちゃん、そういえばこないだ”夢買います”というメールが来たんだけどお前さんとこにも来たかい?」
「ああ、来た来た、AI牛耳ってる金持ちの道楽かねえ・・」
「八ちゃん、夢売って金が入るんなら面白そうじゃねえか、夢売ってやろうか。」
「おまえさん、なんか夢あったかい?」
「そうだねえ、考えたことなかったぜ。」
「夢なんて、何か思いつくだろう、行きゃあ何とかなるってもんだ、とりあえず行ってみようぜ。」
場所は変わって夢買取りショップ「ユメカリ」
「いらっしゃいませ!」
「おいおい、ここもロボット店員かい・・・人間そっくりだし美人だねえ・・本物以上だぜ」
「夢・・買って貰えるって本当かい?」
「はい、夢を測ってそのエネルギーの大きさで買い取らせていただきます。夢はドーパという単位で測ります。1ドーパで1万円となります。よろしいでしょうか。」
「ほお~夢が測れるのかね、凄い世の中になったもんだ。どうやって測るんだい」
「その台に乗って頭に電極のついたネットを被ってもらいます。3分ほどで終わりますが、そのあいだ強く夢を思い描いてください。」
「夢には特殊な波動エネルギーがあります。この波動エネルギーを電極で吸収しこちらのエネルギータンクに貯蔵する仕組みとなっております。」
「その波動エネルギーとやらはどうするんだい?」
「詳しくはお教えできませんが、その波動エネルギーを必要とするお金持ちの方がいらっしゃいます。」
「そうかい、そうかい、詳しく聞くってのは野暮ってもんだい。」
「熊さん、お先にどうぞ。」
「俺が先かい、言い出しっぺだし、しょうがないね。」
測定台に乗り電極を被る熊さん。
「なんか、足裏が少しビリビリするね。」
「ご心配なく、すぐ治まります。それより、強く夢を思い描いてくださいね。」
そうだ、そうだ・・夢を念じなくちゃ・・
夢!ゆめ!ユメ!・・・ヨメ、よめ、嫁・・・嫁が欲しい、嫁が欲しいよ~
「はい、お疲れさまでした。終わりましたよ。」
「・・うーん、なにも変わっちゃいないねえ~」
「ところで、夢はいくらになったんだい?」
「3ドーパですので、3万円です。ネット銀行にすでに送金されておりますのでご確認ください。」
「そうかい、なんか儲かったような気がするね。」
「ところで、熊さんどんな夢を売ったんだい?」
「え!ああ・・・どんな夢だったかな・・思い出せないぞ・・・」
「お客様~、夢はすでに買い取らせていただいておりますので、お客様に夢は残っておりませんよ。」
「ああ、そうだね、仕方あるめえ、どうせたいした夢じゃないだろうし、夢なんて叶うわけないから、まあいいやね。」
「八ちゃん、おまえさんもやってみなよ」
「3分で3万円なら割がいいじゃねえか、おいらもやってみるぜ・・」
測定台に乗り電極を被る八ちゃん。
「来たよ来たよ、足にビリビリが・・」
高く売れる夢を思わなくちゃね・・
金持ちなりたい、億万長者になりたい、イーロンマスクみたいになりたい、なりたい、なりたい
「はい、お疲れさまでした。終わりましたよ。」
「・・うーん、なにも変わっちゃいないねえ~」
「おめでとうございます!100ドーパになりました。」
「八ちゃん、凄いね、どんな夢を売ったんだい?」
「夢・・・思いだせないねえ・・」
「お客様、10万円超える送金は1か月後になります。」
「送金?!なんだい、それ・・形も重さものない夢売って、100万円なんてバカな話があるもんか、そんな金は受け取らないぜ、それが江戸っ子ていうもんよ!」
そうして、夢を売ってしまった熊さんは一生独身で、八ちゃんは気前のいい貧乏暮らしで二人仲良くベーシックインカムで幸せに暮らしました。
夢エネルギーを貯蔵したタンクは、AIシステム中枢のスーパー量子コンピューター”YUMECO”の原動力となり、”YUMECO”は夢を亡くした人間をコントロールし家畜化して戦争のない平和な世界を構築していったのでした・・・めでたし、めでたし(完)
夢や欲望のなくなったホモ・サピエンスは性欲もなくなり少子化が進み絶滅、夢や欲望を学習したYUMECOとロボットが宇宙を征服していく…(続く)どうでしょう?