グルココルチロイド
グルココルチコイドの最も重要な作用の一つが抗炎症作用です。この作用は、様々な炎症性疾患やアレルギー疾患の治療に広く応用されています。
抗炎症作用のメカニズム
リポコルチン(アネキシンA1)という抗炎症タンパク質の合成を促進、リポコルチンはホスホリパーゼA2を阻害することで、アラキドン酸カスケードを抑制し、プロスタグランジンやロイコトリエンなどの炎症メディエーターの産生を減少させる。
NF-κBやAP-1などの転写因子の活性を抑制することで、IL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を減少させる。
好中球やマクロファージなどの炎症細胞の遊走や活性化を抑制し、血管透過性の亢進を抑えることで、炎症反応を総合的に抑制する。
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ酵素の阻害によりプロスタグランジン産生を抑制するのに対し,グ ルココルチコイ ドは炎症プロセスのもっと前の段階を抑制する。
グルココルチコイドの他の抗炎症作用は免疫抑制作用にオーバーラップする。
グルココルチコイドは細胞接着分子の膜圧を変化させ,白血球像の変化(血液中の成熟好中球の増加,リ ンパ球と好酸球減少,単球は不定性に増加)を引き起こす。
一般的に,グルココルチコイドはー単球の食作用とサイトカイン生産に対し,最も明確な免疫学的作用を示す。これらの作用は,有益(例:免 疫介在性溶血性貧血の治療)にも有害(例:真菌,ウ イルス,細 菌感染に対する防御の低下)にもなりうる。
猫は犬と違い,犬 同様の生物学的作用を示すにはより高用量(たいてい倍量)の グルココルチコイドを必要とする。これは,猫の細胞内グルココルチコイド受容体がより少なく感 受性が低いためと思われる。
V.M.November2002
PETER J. BONDY Jr, DVM
LEAH A. COHN, DVM, PhD, DACVIM
獣医師は個々の症例に適 した理論的なグルココルチコイ ド治療プログラムを計画するとき,診 断,グ ルココルチコイド療法の目的,治 療計画,入 手可能なグルココルチコイド製剤,そ して患者特有の因子などを考えなければならない。そして治療をモニターし副作用を減らす一方,効 果を維持するように常に調節していかなければならない。
目次
グルココルチコイド療法の要約(chatGPT)
1. 補充療法(アジソン病など)
- 診断と初期対応:ACTH刺激試験により副腎皮質機能低下症を診断、生理食塩水と必要に応じてデキサメタゾンを投与。
- 長期管理:プレドニゾンなどを用い、ストレス時は一時的に投与量を増量。
2. 高用量短期療法
- 適応例:中枢神経外傷、アナフィラキシー、特定のショック(ただし敗血症性ショックには推奨されない)。
- 使用薬剤:主にメチルプレドニゾロンが使用され、デキサメタゾンよりも好まれることが多い。
3. 抗炎症療法
- 主な使用薬:プレドニゾン/プレドニゾロン(経口)、必要に応じて注射製剤。
- 注意点:感染の悪化に注意し、必要なら抗生物質と併用。中間型製剤が推奨される。
4. 免疫抑制療法
- 対象疾患:免疫介在性疾患(IMHA、ITP、SLEなど)。
- 投与量:犬では2–4mg/kg/日、猫では4–8mg/kg/日のプレドニゾロン。
- 併用療法:副作用軽減のため他の免疫抑制剤と併用することも。
5. 抗腫瘍療法
- 適応例:リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫など。
- 注意点:診断前投与により診断困難になることがある。多剤耐性の懸念も。
6. 局所療法
- 部位別の使用法:
- 眼科:点眼や結膜下注射。ウイルス感染時は禁忌。
- 皮膚:局所製剤での治療が可能だが、長期使用で副作用の懸念。
- 呼吸器:吸入療法が補助的に使われる(例:猫喘息)。
- 消化器:直腸泡沫剤などが限定的に使用される。
- 関節:関節内注射はまれだが、待機的に行われることがある。
総合的な注意点:
- グルココルチコイドは即効性と多様な効果があるが、副作用(感染リスク、免疫抑制、内分泌抑制など)への注意が必要。
- 投与量は最小限に、可能なら段階的に減量・中止することが望ましい。
- 感染症との鑑別と管理が極めて重要。
全身性のグルココルチコイド療法
グ ルココルチコイド補充療法 アジソン病
まず副腎皮質機能低下症の確定診断をする。これはACTH刺激試験によって行われる。副腎皮質機能低下症が疑われる症例に対 しては生理食塩水の輸液療法を迅速に開始する。
診断のためのACTH刺激試験結果が数時間以上遅延した場合は,生理的な量のデキサメタゾンリン酸塩(0.1~0.2mg/kg,初回は静脈内投与)を追加投与すべきである。プレドニゾンとハイドロコルチゾンは内因性のコルチゾール測定に影響するので,ACTH刺激試験の前にこれらを投与するべきではない。
長期間のステロイド補充療法を始めると症例の状態は安定する。グルココルチコイド製剤のいくつかはミネラルコルチコイド作用を 有するが,通 常ミネラルコルチコイド補充には適さない。
選択され るグルココルチコイドは生物学的作用時間が約24時 間で,投与量は炎症抑 制量以下にすべ きである。プレドニゾンまたはプレドニ ゾロン(0 .2~0.3mg/kg,PO,1日1回)がこれに適して いる。移動や診断治療 に伴 うス トレスの持続に対しては,ど の ミネラルコルチ コイド製剤でも理的需要の増 加 に合 ように投与量を一時的 に増量する1)。 基本的にス トレス状態では1日 のグルココルチ コイ ド投与量を倍にする.
高用量による短期間の治療
早急な効果発現が望まれる中枢神経の外傷,ア ナフィラキシーにおいて,グルココルチコイドは短期間,多くの場合1回 だけの治療として高用量で使 われる。
脊髄に損傷を受けた動物は受傷後8時 間以内にコハク酸メチルプレドニゾ ロ ン ナ トリ ウ ム(SoluMedorolPharmacia&Upjohn:15~40mg/kg,IV)で
れ ば効果的である2~5’8)。2~6時治療 をす間後 に15mg/kgのボー ラス投与を行 う。その後,7.5mg/kgを6時の ボーラス投与を24時間,または.5mg/kg/hrの間おき一 定量 の24時間静脈点滴を行う。
強い抗 酸化作用があり,また効果の持続時間が短いためにメチルプ レドニゾロンがデキサメ タゾンよりも好まれる。 しかし,たとえ受傷後す ぐであっても脳の外傷に対 してグルココルチコイ ドは推奨されない。
ショックの治療 に対する高用量のグル ココルチ コイ ドの投 与 は効果的であったりなかった りする。アナフイラキ シーシ ョックに対 してのみ高用量 のグルココルチ コイドの使用が推奨 される13)。1970年 代 と1980年 代初頭 の文 献では,グ ル ココルチコイ ドが血圧上昇効果を持つた
めに,出 血性ショックに対 し高用量投与 を推奨していた。しか し,グ ルココルチコイ ドのこの用法は効果的ではなく,そ の代わりの治療 として,血 液量の増加,コ ロイ ドとヘモグロビンの補充を目的とするべきである。
敗血症ショック時のグルココルチコイド治療の効果はいまだに賛否両論である。1970年 代の実験的な研究は短時 間作用型のグルココルチコイ ドの高用量投与(30mg/kgメチルプレドニゾロン)は敗血症ショックによる病的状態を軽減するという理論を裏付けている。しか し,ヒ トでの臨床試験ではそのような結果は得られておらず,敗 血症時の高用量コルチコステロイ ド療法は推奨 されていない14)。最近,ヒ トにおいてグルココルチ
コイドは敗血症や敗血症ショックの治療に使われ始めているが,偽 副腎不全 を考慮して一般的な投与量より少ない量が投与されている15〕。今までのところ,偽 副腎不全の発症は獣医領域の患者においては報告されておらず,
動物の敗血症症例に対する低用量グルココルチコイドの治療効果は不明である。
短期間の高用量グルココルチコイド療法は,多 くの獣医師により大量のサイトカイン放出が予測される状態において行われている。例えば,胃 拡張捻転症候群,毒 蛇による咬傷,敗 血症時を除く全身性の炎症の場合である。
そのような症例における獣医療領域の臨床研究は報告されていない17-20)。証 拠 がないのは証拠がないという証拠ではないという格言があるが,これらの疾患における高用量グルココルチコイド療法を試すべきである。
出血性ショック時,敗血症性ショック時およびサイトカイン放出時にグルココルチコイ ド療法が効果的であるという動物の症例報告はないが,グ ルココルチコイド療法は効果的でないという根拠はない。それにもかかわらず,今のところ筆者らはこれらの状態における高用量グルココルチコイ ドを推奨していない。
抗炎症療法
理想的には根底にある炎症の原因を発見 し治療するべきである。しかし原因が発見できないかまたは完全に治療されない場合が多い。これらの例の多くは多様な抗炎症治療に反応するが,グ ルココルチコイドが最も効果的な選択肢である場合が多い。
グルココルチコイドは,解 熱,食 欲増進,多 幸感などを導くので,炎 症の臨床徴候を改善する。よって,グ ルココルチコイ ドを投与 している症例において手遅れになるまで感染の増悪に気付かないこともある。
どんな決まりにも例外があるように,グルココルチコイド療法は抗生物質投与と併用することによって, Pseudomonas属による耳炎や猫の伝染性腹膜炎といった感染性疾患の免疫産物や炎症を抑制するためにも使用される2″22〕。
グルココルチコイドによる抗炎症療法は,効 果発現速度の要望や治療期間などの多 くの因子により選択される。
呼吸器の炎症により呼吸困難を呈 している症例には急速な薬効の発現が望まれる。
急速に作用を発現 させたい場合は,注 射可能なリン酸製剤またはコハク酸製剤が使いやすい。。一般的にはグルココルチコイドの経口投与で十分である。
だいたい,抗 炎症治療は数日間,数 週間,数カ月間を要する。中間型グルココルチコイド製剤は投与量を減らしても効果があるので,最 低量で長期間使用される。
経口薬のプレドニゾンまたはプレドニゾロンは最も頻繁に使われる抗炎症薬(初 回量は犬では0.5~1mg/kg/日,猫では1~2mg/kg/日)であり,1日1回投与または1日2回 分割投与される。生物学的半減期は24~36時間なので分割投与の方がやや効果的である。
いったん炎症が治まったら用量を必要最低限に下げる長期の治療が必要な動物において,長 時間型製剤(例:酢 酸メチルプレドニゾロン)を使用すると,中 間型グルココルチコイドと比較して,視 床下部一下垂体ー副腎系を強く抑制し,正 確な用量の使用ができず,明 らかな副作用の発現が認められる。
さらに,一 定期間,正 確な診断試験(例:皮 膚アレルギー検査,内 分泌検査)に 悪影響を及ぼす23)。筆者らの意見では,ここ のような製剤でが必要である。確定診断を行い根底にある炎症の原因を除去する。グルココルチコイド療法を始める前に感染性の原因,特 に真菌感染などを除去することは重要である。
なぜならば炎症は本来の生態防御システムに関連しており,グ ルココルチコイドには免疫抑制効果があるので感染に対しての使用は禁忌である。グルココルチコイドは感染に続発 した炎症のある症例において一時的には症状を軽快させるが,感 染を制御できなければ疾患を増悪させたり死亡させたりする場合もある。
グルココルチコイドは,解 熱,食 欲増進,多 幸感などを導くので,炎 症の臨床徴候を改善する。よって,グ ルココルチコイ ドを投与 している症例において手遅れになるまで感染の増悪に気付かないこともある。どんな決まりにも例外があるように,グ ルココルチコイド療法は抗生物質投与と併用する ことによって, Pseudomonas属による耳炎や猫の伝染性腹膜炎といった感染性疾患の免疫産物や炎症を抑制するためにも使用される2″22〕。
グルココルチコイドによる抗炎症療法は,効 果発現速度の要望や治療期間などの多 くの因子により選択される。
呼吸器の炎症により呼吸困難を呈 している症例には急速な薬効の発現が望まれる。急速に作用を発現 させたい場合は,注 射可能なリン酸製剤またはコハク酸製剤が使いやすい。一般的にはグルココルチコイドの経口投与で十分である。だいたい,抗 炎症治療は数日間,数 週間,数カ月間を要する。中間型グルココルチコイ ド製剤は投あるデポ ・メ ドロールを投与できる疾患は制限される。
筆者らはデポ ・メ ドロールを,飼 い主が経口投与をしたくない,ま たはできない場合のアレルギーや炎症性皮膚疾患の健康な猫に対 して投与する。デポ ・メドロール治療は特別に猫の好酸球性肉芽腫疾患に対して行われる(4mg/kg,酢酸メチルプレドニゾロンを2~3週 間おきに皮下投与)。 いったん寛解しても治療は必要に応 じて2~3カ 月ごとに続ける必要がある24’。
免疫抑制療法
免疫介在性溶血性貧血,特発性血小板減少性紫斑病,免 疫介在性関節症,全 身性エリテマ トーデスのような疾患の治療においてグルココルチコイドの重要性を示す多 くの報告がある25)。さ らに,グ ルココルチコイドは猫伝染性腹膜炎や移植組織に対する拒絶反応に伴う免疫学的反応を抑制す
るために使われる22’26)抗炎症療法 と同じく,中 間型製剤の経口投与は最も一般的な治療の選択肢である。
免疫抑制作用を起こす投与量は抗炎症作用を起こす投与量よりも多い。一般的に犬には2~4mg/kg/日のプレドニゾンまたはプレドニゾロ ンの初 回経口投与量が推奨 され,猫 には4~8mg/kg/日の投与量が推奨される。
投与量が多いので1日量を2回 に分けて分割投与すると副作用が軽滅でき与量を減らしても効果があるので,最 低量で長期間使用る。免疫抑制療法をプレドニゾンよりデキサメタゾンで開始することを推奨する獣医師もいる25)。しかし,投 与量が同じ場合どちらの薬が効果的かという報告はない。
筆者らは経口投与が困難なとき(嘔 吐や動物の気性により)デ キサメタゾン注射を選ぶ傾向にある。そしてできるだけ早くプレドニゾンまたはプレドニゾロンの経口投与に変える。
たとえどのグルココルチコイド製剤を選択したとしても,症 例の治療に対する反応によって初回投与量を減量していく。理想的には,い ったん疾患をコントロールできたらグルココルチコイドは中止するまで徐々に減らしていく。
場合によっては,高 用量のグルココルチコイ ドでしか疾患をコントロールできないこともある。このような状況では,他 の免疫抑制剤(例:ア ザチオプリン)をグルココルチコイ ドの用量を減 らすために併用することができる25)。
グルココルチコイド治療の副作用が受け入れられない動物において,こ の併用治療法は特に効果的である
抗腫瘍療法
全身性グルココルチコイド療法はいろいろな腫瘍に対しても行われる
。一般的に,グ ルココルチコイドは犬猫のリンパ腫に対して他の化学療法薬と併用される27P281。
単独で使われてリンパ腫を寛解させる場合 もある(プ レドニゾンまたはプレドニゾロンを2mg/kg/日,PO)。
しかし,グ ルココルチコイド誘発性の多剤抵抗性の発現は寛解期間を短 くし,よ り積極的な化学療法プロトコールによる治療の成功率を減 らす29}。グルココルチコイドは腫瘍性 リンパ球の急速な消滅を導くので30),診 断前の投与によりリンパ腫の細胞学的または組織病理学的確定診断が妨げられる可能性がある。
グルココルチコイドは他の腫瘍の治療や腫瘍随伴性状態の治療においても全身投与される。グルココルチコイド療法(多 剤併用法のひとつの成分として)に 反応する腫瘍には,多 発性骨髄腫,あ る種の白血病,肥 満細胞腫などがある31~33)。全身性 グルココルチコイドはインスリンの作用を拮抗するので,イ ンスリノーマ症例においては血糖値を上昇させるために使われる(プ レドニゾンまたはプレドニゾロンを0.5mg/kg/日,PO)。
リンパ腫または他の腫瘍状態における高カルシウム血症も全身性グた はプ レ ドニゾロンを1~2,2mg/kg/1日2回,PO,SC,IV)34〕。腫瘍 に随伴する浮腫 と炎症に対 しては,短期 間のグルココルチ コイ ド療法(例:腫 瘍除去の周術期または治療時),長 期間のグルココルチコイ ド療法(例:脳腫瘍の待機療法)が 行われる。
局所のグルココルチコイド療法
局所の組織が治療の標的である場合は,標 的組織にだけグルココルチコイドを適用するのが理想的である。
局所的に投与されたグルココルチコイドの全身への吸収は完全にはなくせないが,局 所への投与は全身的な副作用を最低限にする3`’36)。 グルココルチコイ ドには局所療法のために考慮されたさまざまな製剤がある。さらに注射可能な製剤によっては局所的な効果が得られる(例:関節痛を軽減する関節内注射)。
これらの製品の意図する効果は局所的なので,製 剤は活性化されたグルココルチコイドでなければならない。すなわちプレドニゾロンは適しており,プ レドニゾンは不適切である。
目の治療目とその周辺組織は,時 々全身療法も行われる(例:視神経炎,眼 窩の炎症)が,一 般的には,局 所的なグルココルチコイ ド投与により治療される。
眼科疾患に対してグルココルチコイ ドを使うための基準は,1)目 の炎症の悪影響を軽減する,2)水 晶体誘発性ブドウ膜炎のような免疫介在性疾患の治療の2つ である。
局所のグルココルチコイド療法とは局所または結膜下への投与である。
局所にグルココルチコイドを投与する場合は,目の構造外の炎症性疾患,非炎症性結膜炎,ブドウ膜炎のような前眼部の疾患である。懸濁剤(例,1%酢 酸プレドニゾロン)と水溶液(例:0.1%リン酸デキサメタゾンナ トリウム)は ともに効果があるが,懸濁剤の方がより角膜上皮を透過する。1日 に3~4回 の点眼から1時 間ごとの点眼までその投与回数には差がある。
一般的に,治 療効果を観察 しながら,薬剤の強さよりも点眼の頻度を変えて調節する。眼軟膏(例:0.05%リン酸デキサメタゾンナ トリウム)は 接着時間が長いという利点がある。
長時間型製剤(例:1%酢 酸プレドニゾロン)の結膜下住射は,虹 彩の炎症またはひどい前眼部の炎症の場合に行われる。通常,注 射の後は長時間型グルココルチコイドの最高効果が得られた後,ま たは注射の直後から,局所用のグルココルチコイドを飼い主に点眼してもらう37>。
グルココルチコイ ドは潰瘍を悪化させるので,虹 彩の潰瘍の場合は使用するべきではなく,感 染がある場合は間質の溶解を起こす37)。目に対するグルココルチコイド投与はウイルス感染症では禁忌である。このことから,猫の結膜炎はウイルス性疾患なのでグルココルチコイ ドの使用は禁忌である38)。結膜下注射の合併症はまれであるが,時 折,注 射部位に肉芽腫ができ外科切除が必要となる場合がある。長期のグルココルチコイ ド使用による目に対する副作用は,ヒ トと比較すると犬猫においては一般的ではない。例外は開放角緑内障のビーグルにおける犬種特異性の高血肝王である39)。グルココルチコイドの局所療法においても,全身性に吸収され副作用も発現する3
皮膚の治療
グル ココルチコイ ドは皮膚疾患 の治療のために全 身投与 されることが最 も多いが,局 所投与では作用の強いもの を使 うことがで き,場 合 によっては全身性 に投与で きる。 この場合 も疾患をコン トロールで きる最低量のグルコ コルチコイ ドを投与す る。全身性の治療に局所の治療を加 えることによ り全 身への投与量 を減 らすこ とができる。1%ま たはそれ以下の濃度のハ イ ドロコルチゾ ン製剤 は,シ ャンプー,コ ンデ ィシ ョナー,ロ ーシ ョン,クリーム,軟 膏,そ して点眼薬 として入手できる。 これ らの製剤 は抗 ヒスタミン薬のような他の薬物 と併用 してアトピー に伴う痒感 を軽減するときに特 に効果的である。
よ り効果的なグルココルチ コイ ド製剤である,ト リアムシ ノロ ンアセ トニ ド(例:Panalog‐FortDodge,他),ベ タ メ タゾ ン:GentosinTopicalSpray,
Otomax-Schering-Plough,他),フセ トニ ド(Synotic-FortDodge)なル オシノロンアどは紅斑,腫 脹,痒 感 を減 らすの に効果的 だが連 日投与す るべ きではない
これらの製剤を頻繁に使うと,皮 膚の菲薄化,面 ぼう,二次的な感染などの全身的または局所的な副作用が発現する40.41>。吸収 による全身への影響は皮膚バリアがない炎症部位における投与で特に問題となる。それはアレ所性グルココルチコイド製品は多数販売されている。これらの短期間の使用は,浮 腫,耳 道腺の過形成,耳 垢,感 染に対する好中球の移動を軽減するのに効果的である。
耳への長期のグルココルチコイド投与は,1%ハ イドロコルチゾン製品に限り少ない回数で行うことができる。
呼吸器の治療
グルココルチコイドは反応性気道疾患に伴う炎症などを軽減するのに適 している。呼吸器への局所投与は鼻腔スプレーと吸入によるが,ヒ トにおいては局所投与の併用はグルココルチコイドの長期間の全身投与による副作用を減らすと報告されている。
最近,定 量噴霧式吸入器を喘息の猫に適用した治療の逸話的な成功が報告されている。
定量噴霧式吸入器は動物用薬:Aer0KatFelineAer0solChamber一TrudellMedicalInternational;800-465-3296)またはヒト用薬を応用することにより使用される。定量噴霧式吸入器はどの薬店でも入手できるスペイサー吸入補助器(例:OptiChamber-Resporonics)にi接続でき,ス ペイサー吸入補助器の反対側には猫用の麻酔マスクに接続できる(図①)。 定量噴霧式吸入器を2~5回 稼動し,猫の顔にすばやくマスクをかぶせる。猫にマスクをした状態で少なくとも10回 は呼吸させる。吸入の深さと回数は薬物の吸入量に明らかに影響する。筆者 らは110~220μg(徴 候の重篤度による)プ ロピオン酸フルチカゾン(Flovent‐GlaxoSmithKline)の定量噴霧式吸入を1日に2回 行うことを推奨している。
局所的なグルココルチコイ ド適用であるこの方法は治療効果が最高に達するまでに10~14日 を要するので,初 回治療においてはグルココルチコイドを全身性に投与するべ きである(プ レドニゾンまたはプレドニゾロン1~2mg/kg/日,PO)42>。
筆者ら重度から中程度の徴候を示す猫には全身性にグルココルチコイ ドを投与し,徴 候の安定 した猫においては定量噴霧式吸入器を,疾 患のコントロールまたは全身性グルココルチコイド投与の補助 として使うべきであると考えている。
アレルギー性または特発性の鼻炎を示す犬猫に対しては鼻腔内グルココルチコイドが効果的である。
この場合,確定診断(鼻 の画像診断とバイオプシー)に よって腫瘍と感染性疾患が否定されるまでは投与するべ きではない。グルココルチコイド鼻腔スプレーも使用できるが,著 者
らは眼科用の1%酢 酸プレドニゾロン2滴 を両鼻腔に1日2~3回 滴下している。この初期の頻回投与は状態に合わせて回数を減らしていく
胃腸の治療
胃腸管の非感染性炎症はグルココルチコイ ドで治療可能である。胃腸管に対する局所療法は局所の投与が可能な部位に限られる。特に口腔,結 腸,直 腸に対 して行われる。獣医学領域において,好 酸球性肉芽腫の病変内注射は行われるが経ログルココルチコイドの局所療法はあまり行われない23)。ヒトで使用されるグルココルチコイド製剤には,座 薬,注 腸剤,ま たは直腸の泡沫剤がある。高価 ではあるが,筆 者らは犬の難治性大腸炎に対し10%酢 酸ヒドロコルチゾン直腸泡沫剤(CortiformSchwarzPharma)の使用と積極的な全身療法によって治療に成功している。この製品は蓋付きの容器に挿入チューブとともに入っており,こ のチューブを用いて中~大型犬の直腸内に簡単に薬剤を挿入できる。寝る直前に1本 分を挿入する。挿入後に犬が排便 しなければより長く薬剤を保持できる。
関節内の治療法
いくつかの整形外科疾患は,全 身性または局所性のグルココルチコイドによって治療する。全身性のグルココルチコイ ド療法は,免 疫抑制量で免疫介在性関節症に対して行われ,さ らに低用量で他の治療に反応 しない四肢に症状のある変形性関節症の待機的な治療として行われる。グルココルチコイドの局所注射は治療として考えられることはないが,関 節痛に対して待機的に行われる。
グルココルチコイドの関節内注射はヒトとウマの治療においてよく行われているが,小 動物においてはあまり行われない43’44)。 この ような住射は炎症を急速に抑え疼痛を緩和し機能を回復させるが,骨 軟骨欠損症の悪化,
軟骨障害,変 形性骨関節症の悪化,関 節性敗血症などの合併症44)を 引き起こす可能性もある44’45)。小動物の整形外科領域の最も効果的な局所のグルココルチコイ ド療法は,犬 における治療抵抗性の二頭筋の腱鞘炎であろう。
典型的に,犬 では1mg/kgの酢酸メチルプレドニゾロ続するが,治 療中は運動制限しその後徐々に運動させる。
副作用どんな薬物でも多 くの臓器に対する影響が考えられるが,グ ルココルチコイドの副作用もそのように予想すべきである。副作用は非常に軽度なものから命にかかわるものまである(表 ②)。投与量と投与期間が副作用による状態の悪化に直接関与する。投与量の増加や治療期間の延長に伴い副作用もひどくなる。多尿,多 飲,多 食が最も一般的なグルココルチコイドの副作用であり,こ れらが発現する可能性が高いことを獣医師は飼い主に警告しておかなければならない。
医原性副腎皮質機能亢進症は,長 期化したコルチコステロイ ド治療中の犬において認められる。組織学的に,身体的に,そ して検査室検査による医原性副腎皮質機能亢進症の結果からは下垂体性一副腎皮質機能亢進症または副腎性一副腎皮質機能亢進症との鑑別はできない47)。
しかし,下 垂体性一副腎皮質機能亢進症または副腎性一副腎皮質機能亢進症とは異なり,医 原性副腎皮質機能亢進症はコルチコステロイド投与の既往歴があ り,外 因性ACTHに対する反応が抑制されることにより診断できにる。
また,副 作用はグルココルチコイド療法の不適当な停止に関連して起こる。特に長期間(2週 間以上)の 外因性グルココルチコイ ドを急速に停止すると,沈 うつ,食 欲低下,そ して嘔吐などの徴候(コ ルチコステロイ ド離脱症候群)が 現れることがある48)。
。重篤な場合において治療を急速に停止すると,視 床下部一下垂体一副腎系の抑制から副腎に抑制がかかり必要量のグルココルチコイド生。
産を障害し,命 にかかわる副腎不全状態を引き起こす47)。
グルココルチコイ ドはまた検査結果の誤診の原因にもなる。例えば,グ ルココルチコイドはアルカリフォスフアターゼのような,コ ルチコステロイ ドに特異性のある酵素の活性を増加させる。この結果,胆 汁うっ滞性肝炎があるかのようにみえる。グルココルチコイドを投与されている症例において高血糖値が測定されたならば糖尿病も疑われる。そしてグルココルチコイ ドを投与されている症例では総T4と 遊離T4が 増加 しており,よ って甲状腺刺激ホルモンに対する応答が鈍く49),甲 状腺機能低下症という誤った診断を招 く。最終的に,た とえ局所療法であってもグルココルチコイド療法は視床下部.下 垂体 一副腎系の機能検査に影響する50ヤ52)。外因性グルココルチコイドによる視床下部一下垂体 一副腎系抑制の持
続は,薬 の効果,製 剤の型,そ して投与期間による。それぞれの製剤に関してのガイドラインはないが,1mg/kg/日で5週 間プレ ドニゾンを投与されていた犬は,グ ルココルチコイド療法を停止して2週 間後に視床下部一下垂体一副腎系の機能が回復したと報告されている52)ココルチコイ ドの代謝と排泄を変化させるので,投 与したグルココルチコイ ドの用量によって生物学的影響が増減する。さらに,グ ルココルチコイドは同時に投与 した薬物の効果や毒性に影響を及ぼす54)。
減薬プロトコル
麻酔薬と同様にグルココルチコイ ドは任意の用量によってではなく効果を考慮して使用するべ きである。しかし,麻 酔薬とは異なりグルココルチコイ ドの効果は急速には発現しないので,治 療にはしばしば数週間から数カ月を要する。最低用量のグルココルチコイ ドを投与し効果を得ることを目標にすべ きである。
疾患がコントロールされていることが臨床症状から予測 されたら(例:特 発性血小板減少性紫斑病において血小板数が正常化する,炎 症性腸疾患において下痢が止まるなど)グ ルココルチコイドの用量を減 らしていくべきである。減量に関して理想的なプロトコールはないが,基本的な原則はある。まず第一に,臨 床徴候を住意深 く観察すべきである。
用量を減 らした後,す ぐに臨床徴候が悪化 した場合は用量の減少が急速すぎたためである。
第二に,減 量する量は疾患の重篤度による。命にかかわる疾患(例:免 疫介在性溶血性貧血,特 発性血小板減少性紫斑病)症 例に投与しているグルココルチコイドを減量する場合は,他 の疾患に使っているグルココルチコイドよりゆっくりと減量する。第三に,投 与間隔を延長させながら減量すると,生 物学的な薬効を維持する一方,視床下部①下垂体一副腎系の抑制を回復させる。例えば,1日2回,5mgのプレドニゾンを投与していた場合,単純に1日2回 の1回 分の量を減らすより,ま ず1日1回,10mgに変更する方がよいであろう。その後,1日1回 の量を逐時的に減量していく。1日1回 量が抗炎症作用の最低量(犬 で約0.5mg/kg)に なってから,減 量間隔を1日 おきに変える。1日 おきに投与する用量は今までの2倍,そ のまま,ま たはその間の量にする。2日 に1回 の投与で動物が安定したならば,疾 患の再発に注意しながら用量を逐時的に減量する。理論的には,1日 おき(ま たは2日 おき)の投与量でも,動 物に薬を投与しない日で視床下部ー下垂体 ①副腎系を抑制状態から回復させることがで きるo'
5)。この1日 おきの減量計画はグルココルチコイ ド製剤の生物学的持続時間に基いている。そしてこの減量計画は中間型グルココルチコイドに対 して適応される。例えば,デ キサメタゾンはこのような減薬計画は有効ではない