誰も教えてくれなかった診断学

獣医

著者:野口 善令 / 名古屋市立大学医学部卒業、豊田地域医療センター総合診療科 教育顧問

著者:福原 俊一/ 北海道大学医学部卒、 東京大学教授、福島県立医科大学副学長を兼務

 獣医臨床実習でお世話になったM教授に薦められた本。医者向けの本であるが基本的な考え方は同じなので獣医にも十分参考になる。

 名医の診断の思考方法(診断推論)を指導医が研修医に実例で教える形で分かりやすく説明されている。

 今の獣医大学では当たり前のように教えているのだと思うが、獣医大学を卒業した約40年前EBM(根拠に基づく医療)や診断推論の方法について学んだ記憶がない。たぶん、診断の考え方に道筋があることを教える方も教わる側も知らなかった。

勉強になったので忘れないように要点をメモ

診断に重要な思考力・判断力の3つの軸

  • 頻度・確率の軸:問診触診聴診など五感で得た情報から確立の高い病気を推定し(仮説演繹法) 検査の選択や結果の解釈に臨床疫学を活用する
  • 時間の軸:病状は 刻々と変化していく。検査や治療には適時があり,そのタイミングを逃せば価値は半減し,時に有害でさえある.治療のゴールデンタイム
  • アウトカムの軸:治療のタイミングを逃すと重大かつ非可逆的なアウトカムをきたす疾患や,逆に治療によってよりよいアウトカムをもたらす疾患がある。

 患者から能動的に情報を引き出すことは高度に知的な作業。症状を問題解決のため分類するため患者の言葉を医学情報化(共通の用語)に変換しインデックス(キーワード)を作る。

 症状から可能性の高い疾患を3~5個鑑別疾患リストを想起する(生きカード、死にカードがでるが正解はないし機械的にはできない)トレーニングをし最終的に自分で一例一例のカードを作り出す能力を養う。そこまでにいたるのに次のステップがある。

①鑑別疾患が出てこない→②臨床症状に関係なく多くの疾患名が上がる。→③臨床症状に応じて絞った鑑別診断が上がる。

失敗の原因

  • カードを引こうとしない(考えない、直感的に浮かんだ疾患を当てはめてしまう)
  • カードを持っていない(知識不足)
  • 誤ったカードを引く
  • カードが多すぎる(死にカードをひく)
  • カード内容の誤り(知識の誤り)

 事前確率(検査前確率)から疾患を絞るため検査を行うが、検査が多い方が良いという思い込み(疾患を見逃したくない、どうして検査してないの症候群)がありがち。徹底的に検査を行い検査所見を読む態度は診断能力の向上に寄与しないことが認知心理学の研究から明らかになっている。

 稀な病気(シマウマ探しにはまらない)でも治療せずに放っておくと危ない疾患を見逃さない(鑑別疾患リストに上げないまでも頭の隅においておく除外診断リスト)

 検査方法・種類によっての感度(疾患を持った人のうち、その所見がある人の割合)と特異度(疾患を持たない人で、その所見がない人)の割合は違う。2×2表

 名医の秘伝をClinical Pearlという

 ・髄膜炎(発熱+意識障害)を疑ったら髄膜炎として治療せよ

検査は万能ではない、検査数値は目安と考え確率が低・中・高の3段階に分類し半定量的に把握することが臨床では大事、検査を疑うことも必要。検査前確立が低い意味のない検査はしない(擬陽性の場合判断を誤る)

 診断をつけても治療法がない、治療しなくても自然に治る ゴミ箱的診断仮説はリスト上部に持ってこない。

 新たな変化RedFlagSignを見逃さない。知っていて見つけようとしている人にしか見えない。

 適切なカードにたどり着く訓練(多くの症例のカンファレンス)を繰り返すことで直感的な診断推論に達する名人の域(パターン認識)に達する。

なるほど、なるほど

 診断能力アップには、数多くの症例を仮説演繹法で解いていくというトレーニングを繰り返し行うにつきる。やがて、非言語的に右脳にパターン認識され検査や症状の違和感に何か違うといった第6感が働く名医になれるのではないでしょうか。

 反復訓練を行うにはその作業が好きにならないと続かない。診断推論オタクにならないと名医にはなれないのかもしれません。たしかに講演会でよくお見かけする講師の先生はオタクっぽい感じの先生が多いような気がします。

参考

疫学用語の基礎知識

仮説演繹の使われ方