サピエンス全史(文明の構造と人類の幸福)/ユヴァル・ノア・ハラリ

読書

 2016年初版、2017年ビジネス書大賞受賞、全世界2500万部突破の帯のとおり目から鱗が落ちるような本でした。読みやすい翻訳でしたが中身が濃くて読み返さないと理解できないところもあり。内容の解説は下巻最後の7ページに渡る訳者あとがきが秀逸でこれに勝るものはないと思う。本屋で立ち読みするなら下巻の訳者あとがきから読むのが良い。

 宇宙からの視点で地球という星のホモ・サピエンスという生物の文化的な進化の歴史を客観的に分析している。宗教の起源に通じるところもあり。

 135億年前手のひらサイズの超高密度超高温のエネルギーが爆発(ビッグバーン)して宇宙が始まり、45億年前に地球ができ38億年前有機物が生まれ200万年前人類が進化し30万年前火が使われるようになり、ホモサピエンスに認知革命と言語の発明(虚構・想像の始まり)集団生活の拡大と道具を使い1万年前狩猟採取生活から定住化と栽培と動物の家畜化など農業革命を起こした。5千年前文字、貨幣を発明し宗教が始まり、五百年前科学革命、二百年前産業革命が起き、もうすぐ人類を超えた人口知能が開発されるかもというところまで来ている。そして、人はこの先バイオテクノロジーで不老不死の神になるホモ(人)・デウス(神)になるのではと著者は別の本で書いている。

 非力な先祖は獣が食べ残した動物の死骸や木の実食べて細々と暮らしていたが、虚構を信じる(共同の主観を持つ)ことができるという他の動物が待たない能力で宗教・政治・貨幣経済を発明し戦略に勝る部族が動物(大型哺乳類、他の類人猿、他部族)を殲滅し家畜(奴隷)として利用し今や地球の動物の80%が人と家畜で占められている。

 この虚構を信じるのが大事な点なのです。客観的には存在しない神を信じることで生活の規範が守られ、銀行口座の数字データの価値が変わらないということを信じ、経済は限りなく成長すると信じているから経済が成り立ち、想像上のヒエラルキー(階級社会)と不正な差別で複雑な人間社会が成り立っている。金を崇拝する資本主義/貨幣経済は万国共通の宗教のようだ。

 狩猟採取で自給自足していた時代と現代人とどちらが優秀で幸福だったのか・・・昔の人の方が優秀だったらしい。なぜなら、自分でエサを探し罠をかけ採取し調理し、服を作って保温し外敵から身を守ることが出来なければ死んでしまう。現代人は分業化が進み、豚を見つけても捕まえてと殺し肉にして火を起こして調理することはできない。仕事(狩猟採取)をする時間も、昔の方が短かった今日の食料得るために数時間しかかけてない。現代人は毎日8時間以上働いている。

 多くの類人猿、動物種が人によって絶滅し、家畜化された動物は不自由で不自然な生活を強いられている。物質的には恵まれ飢餓や病気に悩まされることは少なくなったが、人種差別、搾取、格差社会の拡大、孤独化と精神疾患の増加といいことばかりではない。

 科学革命以降西洋の軍産複合体はアジア、アメリカ諸国を調査研究し周到な戦略で騙し打ちし、内紛を起こさせ、武器を売り征服するという常套手段で帝国を作り上げてきた。現在のウクライナやガザの戦争も背後には同じ構造があるのではと疑心暗鬼になる。人の命をもてあそんで、誰があぶく銭を得ているんだろう。

 科学的に人間の心理を研究し作り上げた幸福を満たすための大量消費、ギャンブル、アルコール、ドラッグ・・・経済成長が止まると資本主義が崩れる自転車操業がいつまで続くやら・・・

虚構の力と恐ろしさを感じさせられた1冊でした