てんかん

定義:大脳灰白質の神経細胞の突発性過剰発射(てんかん性放電)に由来する反復性の発作(てんかん発作)

「焦点性発作」は「部分発作」とも呼ばれ、左右いずれかの大脳半球の特定部位に起因すると考えられるものを指す。この種類の発作は、臨床的には体の一部位の反復運動や明らかな幻覚、自律神経障害(例:暇吐)として現れる。

「全般発作」は、左右両方の大脳半球が関与すると考えられ、多くの飼い主がテレビの医療番組で目にするような古典的ないわゆる強直間代性発作がこれに含まれる。

てんかんと混同されやすい疾患
失神(心疾患に起因)、振戦症候群(頭部振戦、特発性振戦症候群など)、重度の頚部痛の発現(倒れて横臥状態になることが多い)、前庭障害による発作、運動障害(ジスキネジア)などが含まれる。これらの疾患とてんかんを区別するには、慎重な病歴聴取がしばしば役立つ。また、飼い主が撮影した発作のビデオを提供してもらうと非常に役立つことが多い。

犬の特発性てんかん(IE)の臨床的特徴

てんかん犬の多くは1歳から5歳までの間に初回発作を起こす。

IEの犬は、安静時に発作を起こす傾向があり、睡眠中まは睡眠からの覚醒中に発生することが多い。
発作前および発作後に一過性にみられる異常を除くと、発作と発作の間は神経学的に正常である。

IEの犬では、臨床検査(全血球計算、生化学検査、脳脊髄液検査)および画像検査の結果はすべて正常である

大発作

  1. 部分運動発作(Jackson型発作)
  2. 巣性てんかん発作
  3. 小発作、欠神(放心状態、absence)
  4. 神運動性発作(てんかん)
  5. ミオクローヌス発作(チック)

てんかん重積状態を,「十分な時間発作が持続,もしくは,発り,脳の正常な恒常性が失われるだけでなく,他の組織や器官にも影響を与えることがある。てんかん重積状態のモデル動物による実験では, 全身性強直間代発作の開始後30分以内に, ほとんどの動物の動脈血圧,体温,心拍数,大脳皮質血液循環,大脳皮質酸素消費量が増加し,pH と動脈血酸素分圧の減少が認められている〕。30分を越えると,血圧の低下が起こる。代謝状態が悪化し,脳内圧の上昇,アシドーシス,発熱,心不整脈, そして大脳皮質の虚血が生じる。作間に回復が起こらないほど十分な頻度反復するけいれん発作」であると定義している 。残念ながら「十分な持続時間」や「十分な頻度」は, それぞれの医師によって様々に捉えることが可能である

発作闘値

  • 多くの個体は一生涯を通じ発作を生じない
  • てんかんを呈する動物はこの闘値が低く、何らかの外的刺激に反応して発作を生じる
  • 闘値とその感受性は遺伝的な素因を持つ
    • ヒトの欠神では特異的脳波異常がその子孫で50%に見られ常染色体優性遺伝が疑われている
  • 症候性てんかんの一つの役割を担うと考えられる

てんかん闘値に影響を与える 因子

  • 遺伝的素因
  • 低酸素
  • 低血糖
  • エストロジェン(発情)
  • 発熱
  • アンモニア血症(食餌)


治療
治療の開始時期:単発発作が6週間1回以上、複数の発作が8週間に1回以上

発作がなくなるのは、てんかん症例の50%未満である

・発作を起こさせない
・薬剤の副作用を最小限に
・経済的負担を考慮す


  • フェノバルビタール 神経膜電位の低下
  • 臭化カリウム 神経膜電位の低下
  • ジアゼパム
  • ゾニサミド 神経膜電位の上昇の抑制
  • プリミドン
  • ガバペンチン
  • フエルバメート
  • レベチラセタム
  • プレガバリン


抗てんかん薬の漸減
・1)発作freeであれば・可能であれば6ケ月の間隔で

・2)他の薬物への置換
副作用などで変更する場合Combinationで

発作に対する標準的な救急処置法
・眼球圧迫一試す価値あり(迷走神経刺激で発作抑制)
・ジアゼパム静脈投与(または他のベンゾジアゼピン)
・ペントバルビタール静脈投与
・フェノバルビタール静脈投与
・ブロポフォール静脈投与
・全身麻酔(イソフルラン)

てんかん重積の治療

  1. 低血糖が疑われる場合は50%ブドウ糖液1~2ml/kgを生食で2倍に希釈しゆっくり静脈内投与する。
  2. ジアゼパム0.5~1.0mg/k9(投与量上限犬10mg、猫5mg)を静脈内投与する。この投与量では15分の間に2回繰り返し投与が可能である。抗唾鐙効果は15~30分継続する。
  3. ジアゼパムの単回投与で発作がおさまらない場合は、ジアゼパムの持続点滴を行なう。
  4. 0.1~2.0mg/kg/hr(最低容量から始め発作が抑えられるまで徐々に投与量を増やす。)ほとんどの動物は0.25mg/kg/hr以下で反応する。
  5. シリンジポンプで直接投与するか、0.9%生理食塩水か5%ブドウ糖液で希釈し微量点滴。ジアゼパムには光で分解される性質とプラスチックに結合する性質がある。
    • 使用時には2~4時間分の量のみ準備する。投与前に注射液でラインを洗浄し、光を通さないようにアルミホイルで覆う。12時間以上発作が無い状態を維持したら、4~6時間ごとに半減し最終的に中止する。
    • ジアゼパムの持続点滴で発作がおさまらない場合、もしくはジアゼパムの持続点滴が行なえない場合はペントバルビタールナトリウム3~15mg/kgを発作が治まるまでゆっくり静脈内投与する。反応が無ければ周期的に投与を繰り返すか、ペントバルビタール2~5mg/kg/hrの持続点滴を行なう。
  6. すでにフェノバルビタール内服治療を行なっていた患者は、内服が可能になり次第、それまでの投与量と投与間隔で内服を再開する。(内服が不可能であれば皮下投与か筋肉内投与を行なう。)
  7. それまでフェノバルビタール内服治療を行なっていなかった患者は、フェノバルビタール4~5mg/kgを30分間隔で4回静脈内投与し血中濃度を安定させ、その後12時間毎に2.5mg/kg続ける。*国内のフェノバルビタール注(薬品名フエノバールー藤永製薬)は皮下・筋肉内投与用のみで静脈内投与用のものは無い。フェノバールは静脈内投与した場合、血液中で析出し微小血管において塞栓症を起こす可能性がある。近い将来、ノーベルファーマより静脈投与用フェノバルビタールが販売される予定である。また、フェノバルビタールは静脈内投与を行なっても、効果発現までに約30分かかる。
  8. 以上の治療を行なっても、てんかん重積が反応しない場合は下記のどちらかの治療を行なう。(呼吸・心拍・血圧のモニターを必要とする。)
  9. プロポフオール0.1~0.6mg/kg/minの持続点滴(副作用:低酸素症・無呼吸症・心機能抑制)
  10. イソフルラン吸入麻酔(人工呼吸と厳密なモニタリングが必要となる。
獣医

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