ブックレビュー「世界は誰かの正義でできている/原貫太」
内戦と貧困と理不尽な暴力による支配で苦しむ人々を救うには先進国の人々に事実を正しく伝え感心を持ってもらい意識を変えてもらうことがが不可欠と命がけで現地を取材しYouTubeで配信を続け現在ではチャンネル登録者が33万人を超えるまでになった。この本は、生きるとは何かということを考え抜きたどり着いた記録である。
できればYouTubeチャンネル登録をしていただき余裕があれば本を買って応援していただきたい。
本にある著者の足取りをたどると、頭脳明晰でASD・ADHD傾向の性格が災いし小学3年生から不登校、中高一貫の進学校逗子開成高校に進学。
高校英語教師を目指し早稲田文学部に入学大学1年の時にフィリピンへ6日間のお試し国際協力に参加、そこで物乞いする少女の現実と世界の不条理を目の当たりにする。
交換留学で米国で国際関係論を学び国際協力のNGOを死に物狂いで立ちあげるが極度の過労とストレスで適応障害となり立ち上げたNGOを離脱。
しばらく無力感にひたりながら休息し、自分自身の弱さを受けいれる勇気をもつことでYouTuberとして復活というジェットコースターのような人生である。
さて、著者の伝えたいアフリカの凄まじい現実、危害と拘束、性暴力による支配・・性暴力は支配するにはコスパの良い武器・手段なのだそうだ。
夫の前で妻をレイプする、息子に母親をレイプさせる。当然、上官の絶対命令で民兵が銃をもって強制する。その民兵も同じ部族や親戚であったりもする。麻薬で薬漬けにされ正常な精神でないものもいる。
こんな状態で人とコミュニティは深い恐怖と絶対的無力感と心の傷を負い、家族・住民同士の信頼関係を破壊する。そして、人は逆らうことができなくなり民兵として奴隷のような生活を強いられる。
コンゴは、金・スズ・レアメタルなどの鉱物資源に恵まれる。その富を奪う合うため120を超える武装勢力がしのぎを削る。
武装勢力にも言い分やそれぞれの正義がある。自分たちの土地を守るため、そして生活のため農業や小規模ビジネスを営むために戦うのである。
マラリアと戦い、素手で泥水から砂金をすくい一日にとれる砂金は数グラム。上納金と不正と汚職で中抜きされ月収は1,600円、レアメタルはスマホやパソコンの必需部品として武装勢力の資金源になり先進国は恩恵を受ける。
コンゴは皆が貧しい訳ではなく金持ちと貧困の2極化しており世界の縮図。
世界も経済格差が拡大し、汚職も賄賂も性暴力による支配もDVという形であるではないか。足るを知らない強欲な人間の本質は先進国も後進国も同じような気がする。
子供を誘拐し民兵にされた12歳の少女の話がある。当然、暴力でコントロールされ、脱走すれば鞭打ち200回の罰、逆らうことを諦め強制結婚させられ子供と銃を持ってジャングルを休むことを許されず走らさせらた。14年後救出解放され自由になったのが救いでありホッとさせられる。
先進国から送られるタダの古着がアフリカの繊維産業を破壊する。アフリカに必要な支援はメシではなく自立してメシを稼ぐ技術であり智慧なのである。
インフラも安全も心もとないが、先進国の時間に追われ、何かしなければという焦燥感や暗黙の了解やルールがアフリカにはない。
日本のこうあるべきという過剰な倫理・公序良俗・コンプライアンスは人間らしさを失わさせシステム化された社会が主体性を奪う。
日本で生きづらさを感じる者がアフリカで生きやすさを感じると著者が実感している。
アフリカは危険な地域である。マラリアもあれば、未知のウイルスもある、医療もインフラも整っていない。武装勢力に拘束されるリスクもあるが現地で自動車事故に会うリスクの方がはるかに高いそうである。そういえば、大学の同級生が青年海外協力隊で派遣されたアフリカで交通事故死していることを思い出した。さもありなんである。
が、死が現実的になればなるほど不思議と恐怖感が薄れ死を冷静に受け止められるようになる。そして、命の儚さを感じながら目の前の一日一日に感謝しながら精一杯生きるアフリカ人に学ぶべきことがある。
世界は正義と悪の二元論では語れない、トランプもプーチンもゼレンスキーもそれぞれの正義で戦っている。生き馬の目を抜く国際社会で生き残っていくため世界の現実を冷静に分析し戦略を立てるのは国の仕事であるが、ますます広がる格差社会をどう生き残っていくかは自分たちの仕事なのである。
著者は自身の正義と信念で行動して成果を上げているが、ASD・ADHD傾向という性格だからこそできることではないかと思うのである。生きやすさとは社会の期待に無理に合わせようとせず自分らしくいられる環境に身を置くことであり、著者はフリーランス国際協力師に自分の居場所を見つけ頑張っているのです。
そして、なぜこの世界はこれほど不条理なのだろうとMr.Childrenの「タガタメ」を聞きながら一人静かに涙を流す著者なのです。
自分の目で確かめる虫の目(ミクロ)と俯瞰的にみる鳥の目(マクロ)で社会を見て自分で考えることが大事なんですが、知れば知るほど世界平和が遠のくような気がするのは僕だけでしょうか・・・