犬の角膜潰瘍

 角膜潰瘍は初期の表在性病変であれば治癒は比較的早い病気です。しかし放置していると深部性に移行し、なかなか治癒しなくなり、最悪失明という結果に陥ることもある怖い病気です。また単純な結膜炎からでも二次的に起こります。

 進行性の角膜潰瘍は眼球の破裂、全眼球炎、二次性ブドウ膜炎、眼球癆、最終的には視覚喪失に陥ることがあります。視力が無く疼痛を伴う場合は眼の摘出が必要となることもあります。

角膜の構造
眼球の一番表層の部分を角膜といいます 。タマネギの皮のような層状の構造であり 表層から 、 角膜上皮、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮から構成されています。

犬の角膜潰瘍
角膜潰瘍は、犬において一般的な眼疾患であり、特に短頭種の犬(例:パグ、シーズーなど)に発生が多い疾患です。
犬での発症は一般的に角膜の外傷により起こります。また、睫毛(まつげ)や眼瞼(まぶた)の異常、涙の産生異常(例:乾性角膜炎 、感染症、眼瞼を完全に閉じることができな )い場合(例:緑内障による牛眼 、先天性角膜疾患、その他 )(異物、薬品など)の原因により起こります。

表在性角膜潰瘍(角膜上皮の欠損)

隣接する上皮細胞が遊離し数時間のうちに上皮欠損部の上を覆います。数日以内に上皮の細胞分裂が起こり、正常の角膜に修復され、1日約1mmずつもしくは1週間程度で治癒します。表在性角膜潰瘍が1週間以上治癒しない場合、原因が改善していないか、もしくは難治性角膜潰瘍であると考えられます。難治性角膜潰瘍は外科療法で治療します。表在性角膜潰瘍は2ー3日毎に検査します。


 深部性角膜潰瘍の治癒には時間がかかり、治癒過程は複雑となります。角膜実質の損傷が軽度であれば角膜上皮の遊走と細胞分裂のみで修復が可能です。稀に上皮や実質の再生が正常の角膜の厚さまで修復される前に角膜上皮が潰瘍を覆ってしまうことがあります。この非潰瘍性のクレーター様の病変を角膜ファセットといい、角膜潰瘍とは区別します。深部性角膜潰瘍の多くは、線維や血管の侵入によって数週間かかって治癒します。

フルオレセイン染色で辺縁のみが染まり中心部が透明な場合:このようなクレーター状の病変はデスメ膜瘤です。デスメ膜瘤は前方に隆起しているのがみえることがあります。

点眼療法

 角膜潰瘍の治療の基本は点眼療法。潰瘍の程度によって数種類の点眼薬を併用。

 角膜のさらなる損傷を防止するためエリザベスカラーの装着が必要。

 角膜潰瘍の初期では疼痛感が強いため点眼を嫌がる犬もいます。

  1.  点眼した薬物の希釈や相互作用の防止のため、1つの薬物の点眼後は少なくとも5-10分位は間隔をあけて次の薬物の点眼を行います。
    抗生物質:損傷した角膜組織への細菌の二次感染を防止する目的で抗生物質の点眼
    • 投薬の回数は症状と使用する薬剤により異なりますが1日3回程度の点眼が必要となります。
  2. コラゲナーゼ阻害薬:蛋白分解酵素およびコラーゲン分解酵素阻害作用により角膜障害を改善する目的で、角膜潰瘍の治療に処方します。
    • 通常1日10回程度の点眼が必要となります。
  3. 還元型グルタチオン製剤:角膜コラーゲンの合成促進とコラーゲン分解酵素阻害作用により角膜障害を改善する目的で、角膜潰瘍の治療に処方します。
    • 通常1日5回程度の点眼が必要となります。

外科療法

角膜実質の半分以上までおよぶ潰瘍やデスメ膜瘤では緊急手術が必要になることがあります。

角膜縫合術、瞬膜弁被覆術、結膜弁被覆術、眼瞼縫合術
眼瞼やまつげの異常が原因している場合は、異常を取り除くための外科療法が必要となります。
難治性角膜潰瘍は表在性の病変ですが、内科療法に反応が悪いため、接着の緩い上皮を外科的に除去し、格子状角膜切開術や点状角膜切開術などを実施します。

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