超俗語訳源氏物語
ペンネーム 紫の敷布
目次
はじめに
源氏物語は貴族社会の叙事詩と言われていますが当時の平安貴族の御家存続をかけた熾烈な出世競争という背景があり、男女の恋もこの厳しい競争を抜きにしては語れません。
互いに二股・三俣も当たり前の世の中で、権力に対する欲望がとぐろを巻いており、まるで「紫の巨塔」のような世界で(田宮二郎は自殺してしまいますが(-_-;)、
光の君(光源氏)の運命はどうなるのでしょうか(ドキドキ (#^^#))
第一話 桐壺
光源氏(光の君、二の宮)は、帝と桐壺更衣(こうい)の間に生まれた帝の2番目(二の宮)の子供で、玉のように美しい姿で生まれてきました。ということは一の宮がいるわけで、その母が弘徽殿(こきでん)女御です。
桐壺更衣は帝の妃で最も身分が低いのですが(上から中宮(ちゅうぐう)、女御(にょうご)、更衣の順)、大変な美貌でその息子の二の宮(光の君)も玉のお姿、帝は弘徽殿と一の宮にはあまりかまわず桐壺と二の宮ばかりを可愛がります。
まさに宮中のシンデレラガールです。この様子を見て臣下たちは玄宗皇帝と楊貴妃の例のように国が乱れるのではないかとひどく心配します。
そのとおり宮中の女性は皆、帝を事実上一人占めしている桐壺に激しく嫉妬するようになります。出る美人は打たれる??
一番心を乱していたのは弘徽殿で、女として帝に「今夜一緒にねんねしょ~、どすぇ」と誘ってもらえず次の子供を授かる機会がもらえません、また帝の後継に一の宮ではなく二の宮が選ばれるのではないかという妄想が加わり、このままでは自分より卑しい女に将来の帝の母(皇太后)という富と権力を奪われることにもなります。
「桐壺め、殺してやる」
と強い殺意も芽生えたことでしょう。コナン君がいない平安時代でもさすがに宮中で殺人事件を起こすわけにもいかないため、女性陣が寄ってたかって桐壺をいじめ倒し、哀れ桐壺は精神を病みこの世を去ります。
どうやっていじめたのか、2例が物語に書かれています。
女性陣が桐壺に一番頭にきていたのは、帝とのお寝んねだったようで桐壺が帝の寝室に嬉しそうに「おまたぁ~」と言いながら入っていく様子を想像しながら
「何がおまたぁ、じゃ。この下品なダブルお・ま・た 女めとでも思っていたかもしれません。(どっちが下品かわかれへんどすぇ)
桐壺が帝の寝室に辿りつけないようにするため、寝殿への渡り橋の上にうんちをまき散らしておき、それを踏んだ桐壺の着物がうんちまみれ!!(平安京には街灯が無く暗かったので気がつかなかったのでしょうね、でも匂いでわからないのかなぁ?)
またある時は平安京にあまたある建物を抜けて桐壺が寝殿に行くルートにある廊下を塞いで閉じ込めます。朝まで出られなかったと思われます。
余談ですが、弘徽殿はどうやってうんちを手配したのでしょう。平安京には建物の外に男性用のトイレはありましたが、女性は十二単を着ている関係で着たままおまるに跨って用を足していました。
おまるを運び掃除する少女が宮中にいたので、いわゆるこの糞バイトさんに申しつけたと想像します。ちなみにお尻は木のへらでお掃除していたようで、痔持ちは大変だったでしょうね。シャワートイレに感謝です。
自分のうんちで桐壺の十二単を汚した様子を想像して、弘徽殿女御は胸がすっとする思いだったのかもしれません。うんちを他人に投げつける事があるゴリラの血筋ですかね。
このようなひどい仕打ちを受けながらも、健気な桐壺は帝に余計な心配をかけたくない一心で決して帝の耳にはいれませんでした。
心の底から帝を愛していたのでしょうね。帝もそれが分かっていたからこそ、桐壺のみを愛したのだと思います。(涙)
桐壺亡き後、帝はなかなかそのショックから立ち直れません。政にも気が入らず、臣下はこの世が乱れてしまうと心配します。
一方、光の君は学問に優れた才能を示すだけでなく琴や笛にも非凡な才能を示し、周りから神才と敬われます。
そこで帝は光の君が国を治める最高位にふさわしいかどうかを、高麗の人相人に判断させます。
「お答えします。光の君は国の最高位に上がる人相ですが、そうすれば国が乱れます。」
帝は光の君を次の帝にするのをあきらめ、源の姓を名乗らせて臣下にすると決心しますが、亡くなった桐壺に光の君を親王にできなかった事で申し訳ない気持にさいなまれます。
またまた落ち込む帝を見かねて、典侍(ないしのすけ、常に天皇の側にいてお仕えする女官)が桐壺に生き写しで超別嬪さんの藤壺を帝の妃に推挙します。
藤壺は先帝の娘で中宮となるので弘徽殿女御より位が高いため、帝が桐壺のように藤壺を愛しても弘徽殿は手を出せずいじめ問題は起きない事を見込んでの判断です。グッドジョブ!!
(気になるのは、藤壺は先帝の娘なので今の帝とは異母兄弟?と思うのは間違いで、当時は皇室が冷泉系と円融系の二つに分裂しかけていた時機で、天皇は両系から交互に出る仕組みになっていました。ここでも現在の天皇とは比較的血縁の薄い「先帝」の存在が想定されます。藤壺も桐壺帝とは従兄弟の子ぐらいの関係だったと思われます。
源氏物語の難しさは登場人物の複雑さにありますね)
やがて光の君は12歳になり、元服して名が光源氏になり左大臣家の娘、4歳年上の葵の上に娘婿として迎え入れられます。
当時の貴族の婚姻は婿入りという形式が一般的でした。しかしながら、光源氏は実母桐壺の死後、帝の妃となった藤壺を自分の理想の女性として恋心を持ち続けます。
この気持ちが、後年藤壺に自分にそっくりの男の子(のちの冷泉帝)を生ませてしまいます。
桐壺帝は光源氏の子供を自分の子と思ったままこの世を去ることになります。
恐ろしきかな源氏物語、凄いストーリです。
なお、絶世の美男子でスーパスターのような光源氏の妻となった葵の上は、キャーまるで夢どすぇと喜んだかといえば、若く美しい光源氏よりも4歳も年上であることから「夫と比較すると自分がみじめに見えて何だか恥ずかしくていやどすぇ」と冷めた反応で夫婦むつまじい仲ではありませんでした。
いつの時代もスーパスターの奥様は大変な気苦労があるようですね。
ここまでの光る君メーター(光源氏の女性遍歴数):01
第二話 帚木(ははきぎ)
帚木とは長野県阿智村園原にあるヒノキの名木で、草帚(コキア)の形をした巨木が、遠くからはよく見えるけれど、近づくとどこにあるのか分からなくなるという「不思議な木」とされ、人の心のうつろい、迷い、不確かなものの例えとして多くの都人の歌に詠まれてますどすぇ。
副題:雨夜の品定め
(この項は男性の情報が手に入りにくい平安貴女のために、どのような女性が男にモテルのかを伝えるために書かれたと言われていますが、紫式部はいったいどうやって男性が好む女性の情報を集めていたのでしょうね。
きっと男性側にも幅広い情報網を構築していたのでしょうけど、ほんとに凄い女性ですねぇ)
17歳の光源氏は宮中の宿直所で大の親友の頭中将と女性談義に花を咲かせています。
頭中将は光源氏の妻、葵の上の兄で右大臣の娘四の君に婿入りしています。四の君は桐壺をうんちまみれにしたあの弘徽殿の妹という設定なので、お姉さんに似て美人だが気が強くて意地悪かもという匂いを漂わせています。
面白いのは光源氏と頭中将は出世を争うライバルでもあり、星飛雄馬と花形満、あるいはあしたのジョーと力石徹みたいな関係ですが光源氏はクール、頭中将は情熱的に描かれているようです。
もっとも星飛雄馬と花形満が二人で熱心に女遍歴の話をしていたら、ぶっ飛びますね😅
きっと二人とも明子姉さんにバットでしばき倒されることでしょう。
頭中将は光源氏にいままでもらったラブレターを見せてくれとせがみます。
(当時のラブレターは、「あおいちゃん、だぁーい好き、好き、好き❤」ではなく香を焚きしめたりした薄手の和紙に和歌を書き記します。
和紙は貴重だったと思いますので、何度も書き直しているともったいないことするなと怒られていたのかもね。
ちなみに源氏物語には凡そ800首が納められていますが、紫式部の天才ぶりが感じられますね)
「差し障りのないものならいいよ」
「差し障りのあるやつを見たいのだけど」
「そんなもんこの棚に有るわけないじゃん」
頭中将は光源氏が女性からもらった恋文をみながら、この恋文はあの女からでしょうと送り主を推測しますが、あまりに図星なのでびっくりして
「あなたの方が沢山の恋文をもってるやん」と返します。
他人の恋文を読んでそれが誰か分かるなんて頭中将のプレーボーイぶりは生半可ではありませんね。
現代人がLINEのポップアップを盗み見みされて浮気がバレるのとは次元が違います。
恐るべし、頭中将😮 気を付けよう、スマホのポップアップ。
頭中将は
「(多くの女性と関係してきて)ようやく分かったのは、理想の女性(容姿も家柄も性格も完璧な女)は滅多におらへんわ。上流の女性は誰からも大事にされて欠点も人目にさらされず格別だが、中流の女こそそれぞれ個性がはっきり出ていて面白い、下流には興味ないなぁ」
この二人にプレーボーイで有名な左馬頭(ひだりのうまのかみ、官馬の調教、飼育や、御料の馬具などのことをつかさどる役人の長官、従五位上相当)と藤式部丞(とうしきぶのじょう、帚木のみに登場する架空の人物でそのモデルは清少納言の夫として知られる橘則光、紫式部の兄または弟とされる藤原惟規、紫式部の父親藤原為時(藤原氏であり式部大丞の地位に就いている)の説がある。)が加わり俄然話が盛り上がります。
4人でどんな女が理想かの談義が始まるが、光源氏は主に聞き役で
「やっぱ俺には藤壺しかないなぁ」
と考えています。しかし、妻の葵の上とはいまだにしっくりいっていない。
藤式部丞の語る女性体験
「かしこき女」と呼ばれる女性との経験を語るが、これは紫式部自身の自虐ネタとも考えられています。藤式部丞が文章生であった頃に師の娘のもとに通うことになり、結婚を前提に付き合うことになった。
その娘は才能ある人で、閨房の語らいにも、漢詩文を作ることなど朝廷に仕えるのに役立つ学問的なことを教えてくれて感謝していたが、普段の語らいの中でも学問に関する問いかけをされることがたびたびあり、それに答えられないことが度々あったため心休まる妻としては考えられないようになり、次第に通う間隔が長くなった。
久しぶりにたまたま訪れた際
「今は風邪のため薬草(ニンニクらしい)を服しているので体から臭い匂いがする。匂いが抜けた頃にまた来てほしい」
と言われたのを強引に会うとものすごい匂いがしたので逃げ出してしまいそれきりで関係が切れてしまった。
恋愛でニンニクの匂いを気にするのは、1000年前でも今でも同じなのですね。人間の代謝でニンニク臭を消すには約16時間かかるとされていますので、藤式部丞もあと1日待ってあげれば良かったのにねぇ。残念。
左馬頭は、妻として完全な女などない。家を治めるのは国よりもむずかしい。
妻選びに苦労するのは好色からだけではないが、真実な心の女が望ましいといい、体験談として嫉妬深い女が左馬頭の指に食いつき、これに腹が立ちケンカして互いに意地を張ってかえりみなかった。
それでも内心は別れるつもりはなく、加茂神社の祭礼の予行で夜遅くなった晩にこの女を尋ねたら綿入れの衣が温めてあり、私が来るのを待っていた様子だがその夜は実家に泊まりに行ったと言われて逢えなかった。
その後も何度か手紙をやり取りしたが、あなたが心を入れ替えない限り逢わないという。
私も意地を張っている間にその女は死んでしまった。
嫉妬さえなければよい女であったのに惜しいという。
同じころ通っていた女は人柄もよく歌や琴も達者なのだが、どうも派手で馴染まない。実はこの女には他に情を交わす男がいて、別れたという。
女の二股が分かった理由が傑作で、内裏から退出した夜にその男から私の車(フェラーリは跳馬で二人乗りだが、平安はウシ(牛車)で4人乗り、何のこっちゃ🤷♂️)に相乗りしてこれから尋ねる女の家に送ってほしいと頼まれ、着いた先がなんとその女の家。
その男は着くなり笛を吹き始め、すると中から女が琴を奏でて答える。そして何ともエロっぽい歌を互いに詠み交わす。
左馬頭もさぞかし唖然としたでしょうね。そんなバナナ!!(きっと彼のバナナも萎えたでしょう。お下品どすぇ)
しかし平安貴族のデートの盛り上げ方は想像以上に優雅だったようです。
笛が吹けなければ男じゃない、琴が弾けなければ女じゃない、即興で歌が詠めなければ人じゃないといった感じでしょうか。
で、結論としてそのときどきに必要な良識や判断があって、でしゃばらない謙遜している女がよいという。
頭中将は、女性と付き合うなら「中の品」(中流)の女性が一番よいと前置きし、子までもうけた内縁の妻の話をする。その女は頭中将の正妻(出ました!弘徽殿女御の妹)の嫌がらせにあい、現在も行方がわからない。(
やっぱりねぇ、姉妹揃って意地悪美人なのでした)女児がいたため今も忘れられず、思い出すと悲しいと語る(後に内縁の妻が夕顔、子供が玉鬘だということがわかる。
ちなみに帚木で語られた全ての女性は全て今後の登場人物の前ぶりになっており、紫式部の構成力に驚かされますね。)
夕顔が失踪する前に頭中将に送った歌は
「うち払う 袖も露けきとこなつに 嵐吹きそふ 秋も来にけり」
(夜離れの床の塵を払う袖も 涙で濡れるこの私にいっそう辛い秋がやってきます、とこなつは撫子の異名で、頭中将とやりとりした歌中では撫子が子供、とこなつはその母親を意味し、古文の知識が無い人には解説が無いと普通に読んでも絶対意味はわかりませんどすぇ。
ちなみに撫子は子が入るので子供、その異名のとこなつはその親を指すことは平安貴族には現代人のバナナと同じように常識どすぇ)
さて宮中での宿直で女性談義をして少しテンションが上がった光源氏は、葵の上とお寝んねしようと婿入り先の左大臣家を訪ねます。別の女性宅に行かなかったのは素直に褒めてあげていいでしょう。
葵の上「お勤めご苦労様です。長雨が上がって暑くなりました。お体にお気を付けられますよう」
光源氏は「葵の上こそ皆が品定めでよき妻として語っていた実のある女性だ。けれどあまりにきちんとされていて打ち解けにくいお方だ」と感じます。
自分の配偶者が完璧主義者だとパートナーにも完璧を求められているようで、精神的にきついですよね)そこに女中さんが現れ、
「せっかくのお出ましですが、今夜は方角が悪うございます」
「こちらに出入りしている紀伊守の家が近頃水を庭に引き入れて涼しいと思います」
と提案し光源氏はではそこへ方違(かたたがえ)しようと素直に従います。(葵の上と対面し、バナナ剥けずに萎えちゃいました。わかるなぁ~この気持ち🤣)
方違とは平安時代から江戸時代まで行われた陰陽道の俗信のひとつで、忌避すべき方角へ向かう場合には前日のうちに必ず吉方の家に赴いて一夜を明かしました。
また方違に来た客を饗応する習慣がありました。
紀伊守は「父の伊予介の家で忌事があり、女どもが参っております。狭いところで失礼になるや知れません」
と心配しますが、光源氏は女沢山と聞いて俄然元気が出て
「彼女たちの几帳の陰にでも泊めてくれ」
と嬉しさと期待感を丸出しにします。
ニヤニヤ、すっかり葵の上の事を忘れておりこの気持ちの切り替えの早さが光源氏の真骨頂ですね。
さて紀伊守の家の庭には川が流れ、蛍が飛んでいます。女たちは光源氏の来訪を知り、なんか凄くねぇ、で色んな女性の元にお忍びで通っているそうよ、と噂話で盛り上がっています。
紀伊守は義母の弟(紀伊守の父伊予介の後妻の弟)の小君を光源氏に紹介します。
伊予介は後妻をさぞ大切にしているのでしょうと紀伊守に聞くと
「それはもう、身分違いの妻を得たのですから。でも好色がましいことで皆は不服に思っています」
と正直に話します。老いた父伊之助が若くて美しい妻を得たことを、周りは快く思っていません。
「では紀伊守、お前が彼女を妻にしたら?」
と光源氏は紀伊守をからかいながら、この女君を自分がご馳走になろうかなと考えています。(ちなみに伊之助は高齢のため、まだ若い妻を抱いた事がありません。平安時代にはまだバイアグラは販売されていませんでした。)
光源氏は皆が寝静まるとその機会をうかがっています。
女君が(女中の)「中将はいますか」
と声をかけると別の女中が今下屋に湯を浴びに行っていますと答えます。
このやり取りで女君がどこに寝ているかを悟った光源氏は、女君のお布団に忍びより
「いま中将をお呼びになりましたね。」
と言って、女君を抱きしめます。
実は、この時の光源氏の官職が中将だったので、中将とはきっと私をお呼びになったのでしょうという凄い言いがかりです。そして
「前々からお慕い申しておりました。やっと願いが叶いました。」
「お人違いを・・・(呼んだのはあなたと違いおすぇ、あれぇ~~)」
光源氏は女君を抱きかかえて自分の寝所に運んでいきますが、途中で当の女中の中将さんに見つかり彼女に
「明日の朝、女君を迎えに来てやってくれたまえ」
と堂々とした態度で命じます。
まだ逢ったこともない女性に「ずぅ~と好きだったんだぜぇ」と平然と言える神経が凄いどすぇ。今なら強制性交罪ですよ😮(強制性交等罪とは、13歳以上の者に対して、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交をすることをいい、5年以上の有期懲役に処せられます。)
しかしながら、女君は光源氏に心を開くことはありませんでした。
「身分が違いすぎるし、だって私ひと妻なぁ~んだもん!」
後日、光源氏は女君の弟の小君(10歳弱くらいかなぁ?)に姉ちゃんにこの文を渡してと頼みます。
子君から文を受け取った女君は
「まさかあの夜の事をまだ幼いこの子に話したの?」
とドッキリします。文には
「見し夢をあう夜ありやとなげく間に 目さへあはでぞころも経にける」
(先夜の夢に再び逢う夜があるだろうかと思い嘆いているうちに 逢えないばかりか 目さえ合うことなく(要するに眠れないということ)幾日も経ってしまいました。
女君はこのような文は受け取れませんと子君に伝えます。
小君は光源氏に報告しますが、つれない女君やなぁと言ってまた別の文を託します。
光源氏はその後何度も文を送りますが、
女君の返事はいつも「Noどす、どす、どす!」
そんなやり取りをしている間に、光源氏は
「私は伊予介より先に姉君を知っているのだよ」
と子君に話してしまいますが、子君がその意味をどこまで理解していたかは分かりませんが、
「そんなことだったの!」と健気に答えます。
ある日、内裏に勤務していた光源氏は、お女中に今日は方塞(かたふさがり)であると告げられます。
方塞は陰陽道の金神や天一神のある方角なので、方違(かたたがえ、前出)をしなければなりません。
では左大臣邸に退出しようと葵の上の元に行こうとしますが、途中で思い直して紀伊守の邸に向かいます。
光源氏は、紀伊守にこのすばらしい庭を見たくて来たと話し紀伊守を喜ばせますが、勿論女君がお目当です。
光源氏が来たのを知って女君はびっくり仰天、建物の渡りにある小部屋に隠れます。
姉ちゃんを連れてきてと光源氏に頼まれた子君は家じゅうを探し回り、女君を見つけ出します。
「幼い子供がこのような取次をしてはダメです!!疲れているので、大勢の女中に囲まれて体を揉ませていると申し上げなさい。」
と伝えると光源氏は
「そこまで私を嫌っておいでか・・・、この文を渡してくれ」
「帚木の心をしらでその原の 道にあやなくまどひぬるかな」
(近づくと消えてしまう帚木の正体も知らずに 園原に行って埒もなく道に迷ってしまいました。)
さすがにうまい、座布団1枚!
女君は
「お返事だけはいたしましょう。数ならぬ伏屋に生える名のうさに あるにもあらず消ゆる帚木」
(物の数でもない卑しい伏屋にいる私は 身の情けさに帚木のように消えてしまいたいのです)
この返歌はもっとうまい!!座布団2枚!
この夜、
「悲しいことだ。そなたは私を見捨てないでおくれ」
と言って、なんと子君を抱いて寝ます。
えぇ~~、光源氏はなんと二刀流だったのです!!(紫式部、恐るべし!!)
(余談:子君が将来 宮(旧)ジャニーズ事務所に入りたかったどうかは不明ですが、もしそうであったなら宮ジャニーズ事務所でめっちゃ寵愛され、きっと平安の大スターになっていたかもしれませんねぇ、ほんとか??)
ここまでの光る君メーター:計測不能
第三話 空蝉
光源氏(17歳の夏)は女君(空蝉)のことが頭からはなれません。女性の元に通い拒絶されたのはなんせ初めての経験で、だからこそ何とか手に入れたいと心を燃やしています。
女君の弟の子君に、なんとか逢えるように計らいを頼んでいると、子君が
「紀伊守が任国へ下りました。残った女たちがのんびりとしています。私の車で夕闇に紛れて紀伊守邸に入りましょう」
と提案します。(旦那が単身赴任中は奥様がのんびりできるのは、1000年前から変わらないようです)
よし、やったね!と光源氏は子君と共に邸内に入り込みます。子君が姉ちゃん(空蝉)に「こんばんは」と話しかけると、姉ちゃんは軒端荻 (のきばのおぎ、紀伊守の妹で紀伊守の父伊予介の前妻の娘)と格子を降ろした部屋で碁を打っています。
格子を降ろして人目を避けた部屋で和気あいあい女同士で気兼ねなく遊んでいるので、軒端萩の着物は胸まではだけて超リラックスモードですが空蝉は着崩す事なくきっちりした身なりです。(平安にタンクトップがあれば結構売れたかもね)
光源氏は格子の隙間から中の様子をのぞき見して、
「なるほど軒端萩は父の伊予介が自慢するだけあって器量よしだが少し落ち着きがたりないなぁ(なんせ胸をはだけてますからねぇ)一方空蝉は不器量だがたしなみがあって誰もが目を引き付けられる」
とちょいブスの空蝉に益々引きつけられていきます。
光源氏は妻の葵の上をはじめ、多くの美人に囲まれているのでちょいブスが可愛らしく感じられたのもあるでしょうが、やはり優雅な身のこなしに心を掴まれます。
夜更けになり、子君が光源氏を空蝉の寝室に誘います。中は真っ黒です。
しかし空蝉は着物の香の匂いから光源氏が直ぐそばに居ると気が付き、着ていた衣を残したまま姿を消します。そうとは知らない光源氏は真っ暗の中、空蝉の隣で寝ていた軒端萩を抱きしめます。
「あれ、以前より少し体が大きい??太ったの?」と違和感を覚えますがまさか別人だとは思っていません。しかし、所作の違いから「しまったぁ。これ軒端萩じゃん!!」
と気づいた光源氏は咄嗟に
「あの・・・・、これまで方違で参ったのも実はあなたにお逢いしたい気持ちからです」
と口走ります。軒端萩にとって光源氏は初めて自分を求めて忍んできてくれた男性です。嬉しくないわけはありません。
「ついに来たぁぁ~❤️」、二人で朝を迎えることになります
(夜明けのコーヒーはまだ無かったので二人で朝何を飲んだのでしょうね?)
その後、軒端萩は光源氏にぞっこんとなり、恋文を送り続けることになります。
罪つくりな光源氏ですが、彼は単なるストライクゾーンが広いプレーボーイなのでしょうか。
何度も空蝉を読み返すうちに、これは軒端萩に対する思いやりの可能性もあるのではと考えるようになりました。
間違いに気が付いた時点で、「ごめんなさい。人違いでござる」といって退出したら、どれだけ軒端萩が傷ついていたことでしょう。
大河ドラマ「光る君へ」でまひろとまひろの親友のさわが石山寺詣でに行った旅先で、まひろと間違えてさわの寝床に男性が忍んできます。
間違いに気がついて直ぐに退散してしまうのですが、ひと間違いと告げられたさわはひどいショックを受け、自分は女性としての魅力が無くこの世に存在する価値がないと自信喪失してすねてしまいます。
ちゃんと朝までお付き合いして軒端萩と契った光源氏はむしろ女性に優しいのではないでしょうか。(男の勝手な言い分かも😅)
ここでこれをお読みの令和貴女のあなたにアンケートがあります。あなたが軒端萩だとしたら、
A : ひと間違いで嘘を言われても私と契ってほしい(光源氏派)
B : ひと間違いだと正直に告げて退出してほしい(大河ドラマ派)
C : A,B どっちも嫌なのでXXXXXしてほしい
(A,Bどっちも傷つくのでその他の方法で何とかしてほしい派、できればXXXXXの内容も教えてね。A+木綿のハンカチーフを貰うなんか情緒がありますねぇ。ドライに慰謝料請求もありどすぇ😮
今後の超俗語訳の参照にさせて頂きますので、どしどしご回答をお寄せくださいどすぇ。
さてこのような状況でも、空蝉の衣をちゃっかり持って帰ってくるところはさすが百戦錬磨の光源氏ですねぇ。逆境でも落ち着いて対処できる才があります(初めて光源氏を見習いたいと思いましたよ。凄い~👏)
一方空蝉は、その朝さっそく弟の子君を問い詰めます。子君は昨晩、闇にまみれて光源氏を招き入れた事を白状します。
「なんと情けない弟」と空蝉がなじると、
すかさず子君が1枚の書きくずし(メモみたいなもの)を姉ちゃんに渡します。なんと光源氏は逆境の中、歌まで書き残していたのです。(さすが二刀流スターはやることが違うどすぇ⚾)
「空蝉の身をかへてける木のもとに なほ人がらのなつかしきかな」
(蝉が抜け殻を残して行ってしまった木の下で 取り残された私はなおもその人柄を懐かしんでいます。加えて衣を持ち帰った行為がさらに光源氏の本気度を輝かせています。恋愛の天才どすなぁ)
それを読んだ姉ちゃん、いや空蝉は光源氏の本気度を感じ取り私が人の妻でなかったならば(二人は結ばれていたのに)と感涙しその書きくずしの余白に
「空蝉の羽におく露の木(こ)がくれて しのびしのびにぬるる袖かな」
(蝉の羽に置く露が 木の間に隠れて見えないように 私も忍び忍びに涙で袖を濡らしています)と書き入れます。
空蝉も本心は光源氏に惹かれていたのです。
以上で第三話空蝉は終わりですが、何気ない物語の語りの中に平安貴族の生活を垣間見ることができます。
例えば光源氏が碁を打っている様子を格子の隙間から覗いているシーンでは
「なるほど軒端萩は父の伊予介が自慢するだけあって器量よし」と話しますが、
伊予介が娘を回りに自慢していたのは単なる親バカだけではないことが平安貴族の婚約手順から見てとれます。
平安貴族の女性たちには気軽に外出する習慣がなく、男性と出会ったりナンパされたりする機会もほとんどありません。マッチングアプリや結婚相談サービスも無かったので娘が結婚適齢期になると、親や乳母などが娘の存在をアピールする必要がありました。
伊予介も娘を盛んにアピールしていたようです。男性たちはその噂を聞き、「どんなに素敵な女性であろうか」と女性の宅を訪ね、積極的にのぞき見(=垣間見)をしました。
家にいる女性は万が一でも大股開きでよだれ垂らしてお昼寝しているところなんぞを見られたら人生が終わるので、外が明るいうちは家に居てもある程度緊張感のある生活をしていたと思われます。
なんか毎日結構疲れそうですね。
一方、噂で聞いた魅力的な女性に振り向いてもらうために、男性たちは必死にアプローチしなければなりません。その方法が様々な趣向を凝らしたラブレター(和歌)を女性に贈ることです。
女性は男性の家柄(=品)や世間の評判(=聞こえ)、そして送られてきた和歌のセンスをもとに返事をするかどうか判断します。複数の男性から求婚された場合は、厳選した男性にのみ返事として、和歌を返します。
和歌のセンスが問われるのは、男性も女性も同じです。センスのあるうまい和歌を詠む教養のない女性は、乳母や侍女などに代詠してもらう場合も少なくなかったようです。大河ドラマの中でも、まひろが代筆屋でアルバイトしていましたね。
この和歌のやり取りが平安の男女交際で、交際をみとめられるには相手だけではなく女房役や乳母たちにも気に入られる必要がありました。
周りの反対が多いと、どんなに素晴らしい和歌でも姫君に届けられないことがあったようです。周りに交際が認められて二人の親密度が上がると顔合わせに進みます。
これは女房たちの手引きで、男性が女性の部屋に忍び込むてはずになっています。実際に逢ってみて、相性が悪いと感じたらその一晩で関係は終わります。
お互いに気に入れば、男性は通い続け三日目の夜になると女性側が婿に迎える証として「三日夜餅」の儀式が行われ餅がふるまわれます。この儀式が結婚式に相当し、晴れて二人は夫婦になります。
二人に子供が生まれると女性側が育てます。しかし、女性が正妻でない場合は男性が他の女性に夢中になると自然消滅することが多く、夫婦関係はとても不安定だったようです。
当時の結婚生活は男性が自分の母親の里邸や宮中で寝泊まりし、婿入りした邸宅に通う通い婚スタイルで、光源氏は実母の亡き桐壺更衣の里邸を元服した際に伝領した二条院に住んでいます。
ここには後、光源氏と関係のある多くの女性が暮らすことになります。まるでハーレムのようです。
婿を迎い入れた女性宅では、通ってくる婿さまのために色々な気回しが必要です。例えば婿が通って来ても、正妻が旗日の場合もあるでしょう。
そんな時、もう1枚新たに旗を作るような不粋はせず代わりに召人が一夜のお相手を務めました。召人とは平安時代においては、特に主人と男女の関係にある女房のことをさします。
正妻のお世話をする女房が自分のご主人のセフレも兼ねていたのですから、令和人には想像もつきませんどすぇ😮
このような事情もかんがみ、第一話で考案した光る君メーターはあえなく計測不能という結論に至りました。平安時代をなめたらあかんどすぇ!!
もう一つ気になるシーンは空蝉が着物の香の匂いで、光源氏がすぐ近くにいると悟るシーンです。平安貴族は香水のように自分のお気に入りの香を着物にスモークしていたようですが、このあたりの事情はまたの機会に紹介してみたいと思います。
著者 紫の敷布 近景
紫の敷布ご愛用敷布・・・2820円でゲット、「平安の夢、コスパ最高で手に入りますどすぇ」
第四話 夕顔
光源氏は、高貴な未亡人 六条御息所(ろくじょうのみやすどころ、光源氏より7歳年上)を愛人に加え六条に通っています。六条御息所は光源氏の兄と16歳で結婚し、皇太子妃となりますが不幸にも春宮が早くに亡くなったので20歳で未亡人になります。六条御息所が25歳の時に光源氏と恋仲になったようです。
物語には光源氏と六条御息所とのなれそめは語られないので想像するしかないのですが、六条御息所の女房が少しく過ごす主君を見かねて、光源氏に六条に通うように頼んだとすると今後の展開が理解し易くなります。
六条御息所は身分・教養・美貌と申し分なくエリート中のエリートで、気高く気品がありプライドも高い女性です。これと同じような感じの女性、既に登場しています。そう光源氏の正妻、葵の上です。
葵の上は年下かつ美貌の光源氏に劣等感を持っていますが、それを素直に告白できず光源氏との関係は冷めています。
光源氏は正直に素直に自分自身を表現してくれる女性には、その容姿にこだわらず和歌を送り続け関係を継続しています。
光源氏は六条御息所を最初に見てどう感じたのか、恐らく正妻の葵の上に似た性格であると悟っていたのではないかと想像します。
つまり光源氏の方から六条御息所に言い寄るとは考えにくいことになります。ではなぜ愛人関係になったのか。
六条御息所の女房が源氏を口説き落としたとすると、合点がいきます。
しかし、光源氏は自分の気持ちに素直に行動を起こす人物です。六条御息所との関係も、何度か通ううちに「やっぱり、無理!」となっていきます。
光源氏はこの六条に通う途中、まだ日が浅いので五条の自分の乳母が病気と聞いて見舞に訪れます。供人の惟光(これみつ、光源氏の乳母の息子、光源氏とは同じおっぱいを吸った乳母兄弟)に門を開けさせますが、なぜか門には鍵がかかっています。
出直すために大路を行くと、はかない住まいの垣根に白い美しい花が咲いているのが目にとまります。
惟光に「あの白い花、なぁ~んだ?」と問いながら愛用の葵のふぉ~んを手渡します。
惟光は慣れた手つきでグーグルレンズを操作し
「お答えします。夕顔と申します。このように怪しい(神秘的な)垣根に咲きまする。」
「哀れな(深いしみじみとした感動を表す)花だ。一房折ってまいれ。」
惟光が夕顔を手折ろうとすると、家の中から女性が扇を持って現れます。
「これにおのせ下さいまし」
惟光は夕顔を受け取った扇にのせ光源氏に手渡します。
扇には
「心あてにそれかとぞ見る白露の 光そへたる夕顔の花」
(高貴な男性に所望される光栄に 夕顔の花はあなたをどなたさまかと思い巡らせています)
と書かれています。
光源氏の所作や服装と乗っている牛車のグレード(今ならベンツのマイバッハかな)及び付き人の数を見て、どこのご貴族がひと花を所望されているの?と興味しんしんの様子です。
この和歌、素人の紫の敷布が読んでも素直でかわいらしい女性がいたずらっぽく微笑んでいる様子が生き生きと表現されていますどすぇ。
(これが朝ドラの寅子なら、
「はて??垣根の花を手折るとは、窃盗罪??」
となり光源氏のみならず誰もがドン引きしますおすぇ。男女問わず、モテル人とそうでない人の違いはこういった所にあるのどすぇ)
この和歌を読み、光源氏の自分の気持ちに素直な女性センサーがぴぴぴっと激しく反応し早速歌を返します。
「寄りてこそそれかとも見めたそかれに ほのぼの見つる花の夕顔」
(夕暮れ時にぼんやりと見た夕顔の花は もっと近くに寄って見たいものです)
いやぁ~、私もあなたに興味深々です。ぜひお近づきになりたいと伝えてバッチリ女性の思いに答えています。天才ですね。
さて所変わって、六条御息所邸。光源氏は「ご機嫌いかがですか」と御息所に挨拶しますが、「お久しゅう」と冷めた声で答えるだけで、「あんた私をほったらかしにしといて今までどこほっつきあるいとったんやぁ!!ほんま、何考えてんの!!」とご機嫌超斜めな様子です。
身分の高さに加え、容姿の美しさ・気品・教養全てを兼ね備えた完璧な女性の御息所はそのプライドから光源氏に「私だけ見つめて」(あたなは私だけのものよ❤️)と素直に甘える事ができません。恋にも超真面目なので、
「ゲンジはゲンジはかわいい年しぃたぁの男の子♫」
と鼻歌を歌えるような心の余裕も無くしています。
この時の六条御息所の気持ちを読んだ歌が
「袖濡るるこひぢとかつは知りながら おりたつ田子のみづからぞ憂き」
(袖が濡れるほど泣くことになる恋だと分かっているけれど、感情の沼にはまっていく自分が悲しい)
光源氏を深く愛するようになっていたのどすぇ。
しかし素直な態度を光源氏に見せることができず、完璧に振舞おうとする彼女に息苦しさを感じるようになります。
完璧な女性といえば正妻の葵の上が連想されますが、愛人として付き合い始めた女性が苦手な正妻の性格とやっぱりよく似ていたとなれば、足が遠のくのも自然の理です。
一方夕顔の宿の女君が気になる光源氏は、惟光にその素性を探らせます。
「身分を隠してあの家に住んでいます。昨日のぞき見をしたら、夕日の中で手紙を書こうとしていた女性はとても綺麗な人でした。憂いがあって傍にいる女房たちも忍び泣きしておりました。」と(惟光から)報告を受けます。
光源氏は、もう少し探るように伝えながら親友の頭中将が下(げ)の女性は相手にしないと言っていたのを思い出し、気になってしかたがありません。
18歳にして豊富な女性遍歴を持つ光源氏の野生の本能が、またまた目覚め始めています。
そんなある日、光源氏の二条院源氏邸に、伊予介(空蝉の夫)が任国の伊予から戻り挨拶に訪れます。
ここで伊予介から光源氏が空蝉と間違えて契ってしまった伊予介の娘の軒端萩が結婚することを知らされます。
「それは、めでたい」と返答しますが、その後も光源氏と軒端萩は文通(和歌のやりとり)を続けることになります。光源氏の女性に対するまめな様子が見てとれます。
さらに伊予介から今度は任地に妻の空蝉を連れていくことを聞かされます。
光源氏は空蝉とも和歌のやりとりを続けており、これでついに彼女との縁もなくなってしまうと悲しみます。
空蝉もおよよと悲嘆にくれますが、よく考えると当時でも使用人を使って文を遠隔地に届ける事はできたはずなので、遠距離恋愛という概念が無かったのかもしれませんね。
いずれにせよこのように、光源氏は何人もの女性との出会いと別れを同時進行で進める事ができるのでした。
さて、六条御息所では秋になってもいっこうに姿を見せない光源氏に対して
「あれほど執心されたあげく身を預ければこの夜離れ(よがれ、男が女のもとに通うのが途絶える事)・・・・夜の寝覚めにも恨めしく思われる」
と私は捨てられたと確信します。仲を取り持った女房も、見せる顔がありません。
いままでの一途の愛が深ければ深いほどより強い憎しみに変わるのは、どの時代でも同じ。お~、怖い。この怨念が、あとあと死人を招く大事件を引き起こすことになります。恨めしやぁ~~。
二条院源氏邸、惟光が新しい情報を手に入れて光源氏の耳にいれます。
「先日、夕顔の宿の前を頭中将の車が通りかかると、家の女房たちがあれは頭中将の車だと大騒ぎし女君に報告しておりました。」
「頭中将の車にかぁ・・・・・もしかしてあの宿の主は以前頭中将が雨夜の品定めで話した女性のことか」
と光源氏はピンときます。
「それでその女主人との逢瀬の算段はどうなっておる?」
「はい、ようやくなんとか。あそこの女房とちよっとありましてね。」
「惟光は抜け目がないのう」
「はい、光君のためならどのようなことでも」
さすが光源氏と同じおっぱいを飲んだ惟光、ただの供人ではありません。いつの間にか夕顔の宿の女房とねんごろになり、探偵ナイトスクープの探偵のように地ならしを終えていたのです。
光源氏が色道に邁進できるのは、惟光のように色道をもって色道を制すことができるような優秀な探偵のおかげどすぇ。
光源氏はあまり目立たないように粗末な狩衣に着替え、惟光から借りた馬に乗って夕顔の宿を連日訪れるようになります。
お供する惟光も粗末な狩衣姿です。惟光が夕顔の宿の女御を口説く際に、一張羅の衣装でかっこつけて逢っている姿を想像しながらにやにやと
「その恰好を相手の女房に見られるのが恥ずかしいのかい?」
と惟光をからかいながら進みます。惟光としては、自分のイメージダウンとなるような格好をさせられて内心は少し嫌だったでしょうね。
夕顔の宿、「また来てしまいましたよ」と光源氏。
「今夜も必ずお見えだと信じておりました」と女君。
光源氏は夕顔の宿に入ると身分を隠すために、いつも袖で顔を覆っています。
女房が
「これほど繁く参られるのにお顔をお見せにならないとは」
と少し不満を言うと
「これこれ、いけませんよ。」
と女君は女房を諫めます。
「私より女君のお身の上こそ隠されているのではありませんか」
と光源氏は返します。
女君は「この方はいったいどんな方なのかしら。粗末な狩衣などお召だけれどお体の感じは高貴なお方だわ」と感じています。
二人は互いに身分を隠しながら、逢瀬を続けていきます。
光源氏は
「気まぐれのつもりだったが、どうしてこうも心惹かれるのだろうか。どんな素性でもいい、二条院(源氏のお家)に引き取ってしまおうか」
と夕顔の宿の女君の素直さ、かわいらしさにどんどん引き込まれていきます。
中秋の名月の夜、光源氏と夕顔の宿の女君は臥所で抱き合いながら話をしています。
「今夜は中秋の名月、所を変えてゆっくりお話ししましょう」
と源氏が提案します。
「変ですわ。変わったおもてなし」
と夕顔の宿の女君。
「あなたと私、どちらが狐だろうね。とにかく私に化かされていらっしゃい」
と外に誘い出します。平安貴族では人を化かすのは狸ではなく狐だったのどすぇ。
さあ、光源氏のサプライズ計画、よぉ~いスタート!
(サプライズで彼女を喜ばせようとするのは1000年も前からあったのどすねぇ。ひょっとしてこれが記録に残る日本最古のサプライズ計画かも?よう知らんけど🤷♂️)
源氏に仕える人々が大勢夜に起こされ、夜中のお月見ピクニックの準備をにぎにぎしく始めます。うちの主人は、何考えてんのかねぇ?==>サプライズです。
支度が調った頃合いを見計らい
「さあ、外に出かけてゆっくり夜を明かそう」
「まあ、急なお話ですこと」
二人は牛車に乗って、近くにある廃屋になった邸宅(なにがしの院)に向かいます。牛車の供人は「南無当来導師・・・(弥勒菩薩のこと)」と未来の衆生(しゅじょう、生きとし生けるもの)の救済を願う祈りの言葉を唱えています。
光源氏、
「優婆塞(うばそく、出家しないで仏道修行をする人)が行ふ道をしるべにて 来む世も深き契りたがふな」
(優婆塞が祈っているのをしるべとして 来世までもこの深い約束を守って下さい)
夕顔の宿の女君、
「前の世の契り知らるる身のうさに 行く末かねて頼みがたさよ」
(前世の因縁の拙さが思いやられる身の上ですから、先のことは頼みにできません)
源氏から、これかもあなたとの深い愛を貫きたいとの歌をもらい、私には引け目に思う過去がありこの先々どのようになるのか不安ですと素直に正直に自分の気持ちを伝えています。
光源氏はますます夕顔の宿の女君を愛おしく思ったことでしょう。
自分の過去を棚に上げておいて、玉の輿を狙う女とは雲泥の差どすぇ。
なにがしの院に牛車が到着します。
(なにがしの院は源融(みなもとのとおる、822-895年)の別宅で10世紀には荒廃していた河原院がモデル。嵯峨天皇の皇子で、宇治に営んだ別荘は後々藤原道長の別荘を経て10円玉 いや平等院になるどすぇ)
「何だか気味の悪いところですね」
「月もかくれましたわ、何だか不吉」
と夕顔の宿の女君は不安になります。光源氏よ、サプライズなら何でこんなお化けが出そうな場所を選んだ?? 答えは人目を避けるためでした。
でもほんとうにお化けが出てくるとまでは思っていません。
「番人が御座(おまし、貴人の居室)をしつらえるのを待ちましょう」
番人、「整いました」 (はっやぁ!)
光源氏、「いきなりですまないね」
それも夜中に、そりゃそうだ!(紫の敷布、心の声)
惟光が
「お供の人数が少ないようですが、誰か呼びましょうか」
と問うと
「わざわざ隠れ家として来たのだ。内密にな」
と秘密にしておきたいので供の人数はこのままでよいと答えます。
光源氏は妻の葵の上や愛人の六条御息所、文通中の軒端萩などの女性たちの耳にいれたくなかったのでしょうね。
満月が再び顔を出し、荒れはてた庭園を照らし出します。
「うす気味悪いところになったものだ。しかし、私なら鬼だって見逃してくれるだろう」
「怖・・・・・い」
と夕顔の宿の女君、これから自身の身にふりかかる不幸を予感しているかのようです。
気を取り直し、二人でジョークを交えた和歌をやりとりして和やかで楽しい時を過ごします。光源氏は夕顔の宿の女君の膝枕でくつろぎながら、
「不思議だ」とつぶやきます。
「何がでございます」
「いや・・・」と光源氏は口ごもり
「内裏では私が参殿せず帝が心配していらっしゃるだろう。」
(なんと光源氏は仕事をさぼってまで夕顔の宿に通っていた!真面目に働け!)
「六条御息所にも足が遠のいて恨まれているだろう」
(そりゃそうだ!相手は年下の男の子さえ歌えないぞ!女房の顔も丸つぶれ!)
「左大臣家では葵の上をはじめ私は不義理ばかりしている」
(娘婿としての務めもさぼっている!マスオさんを見習いたまえ!)
けれどこの夕顔の女のいとおしさは何にも代えがたいものがある。
今少しこの女と・・・・・」
と少し反省しつつも、夕顔の宿の女君を抱こうとしたとたん
出たぁ~~~あ!!。女の姿をした怨霊が・・・
しかもしゃべった!!大阪万博のミャクミャクのように!
(ひこにゃんは鳴かないのにねぇ)
「おのがいとめでたしと 見てたてまつるをば 尋ね思ほされて かく ことなることなき人を 率いておはして 時ぬかしたまふこそ いとめざましくつらけれ」
と、とにかく怨霊は「めっちゃつらいのじゃ!!このボケ、カス!!」と超お怒りモード。
もっともお怒りモードでないと怨霊になる資格はありませんどすぇ。
それにしても、お化けにしては随分長いセリフなので、光源氏がどこまで聞き取れたか不明ですが、超ビビりながらも、
「何者」と刀を抜きます。
愛人との逢瀬でも、一応万が一に備え刀は持参していたようどす。
しかしふと夕顔を振り返ると、顔色なく気を失い倒れているではありませんか。
「夕顔、夕顔、夕顔」
と光源氏は必死に呼びかけますが、何の反応もありません。
(残念ながら、AEDも救急牛車もなく、蘇生法も習っていない光源氏にはなすすべがありません。葵のふぉ~んも役にたたなかったようです。)
こうして夕顔を失った光源氏は、茫然と「夕顔、夕顔」とまだ呼びかけています。
そこに夕顔の女房が現れ、涙ながらに夕顔の素性を語り始めます。
「女君の父君は三位中将でしたが、ご両親とも早くに亡くなられました。ふとしたことから頭中将さまのお目にとまり、三年ほどたつうちに姫君もお生まれになりました。
ところが昨年の秋右大臣さま(頭中将の義理の父で、頭中将の妻はあのうんち弘徽殿の妹)からの脅しがありまして身を隠されたのでした・・・」
最後に、夕顔が頭中将の話していたあの女性であったことが明白になります。
第四話 夕顔はこれで終わりですが、この怨霊は六条御息所との解釈が一般的なようです。しかし、源氏物語通に言わせるとそれでは辻褄の逢わない話がこの後にでてくるようで、六条御息所の女房の怨念説(女房はご主人とは一心同体であったため)、この廃屋の怨念性、
光源氏の心の中に巣食った怨霊などがあるようです。
紫式部としては読者の想像に任せるつもりだったのかもしれませんね。
なお夕顔の死因については、ドクターKのご見解をお聞きしてから追記したいと思います。
よろしくどすぇ。
第五話 若紫
若紫は、光源氏が子供の頃からずっと憧れていた父の後妻の藤壺に面差しのよく似た美しい少女です。
それもそのはず、若紫の父君の兵部卿の宮(ひょうぶきょう)は藤壺と兄妹、つまり藤壺の姪にあたります。
若紫の母は、いわゆる姑さんにいじめられて若紫が小さい頃に亡くなります。
(平安貴族の女性は、いじめられると精神的にきつくなりよく亡くなったりしたのですかねぇ?。 光源氏の母、桐壺更衣もうんち弘徽殿にいじめ倒されて亡くなります。平安の姫君は意外と打たれ弱い女性が多かったのかもどすぇ。いつの時代も過剰なストレスは大敵どす)
当時は母親側が子育てをするのが常なので、若紫は彼女の祖母の尼君の元で北山(京都市街の北部どす)で育てられています。
(若紫はのちの紫の上で、光源氏の正妻格として彼に連れ添うどすぇ。随分と年の差があるように思いますが、第五話は光源氏18歳、若紫10歳のお話なのでそれほどの年の差婚でもおまへんどす。
ちなみに光る君へのまひろ(紫式部)は973年生まれとすると26歳、夫の宣孝は47歳なので21歳の年の差があります。宣孝には既に3人の妻、5人の子供がいました。
まひろは藤原賢子(大弐三位)を生みますが、結婚して僅か3年で宣孝と死別しています。
当時の風習として、君主や家族、恋人以外に本名を明かすことはしないので、紫式部の本名もまひろかどうか分かりません。父親が藤原為時ですので「藤原」姓のみが分かっています。)
この北山に光源氏が病気の治療で訪れるところから第五話が始まります。
光源氏18歳の春、瘧病(わらわやみ、周期的に発熱する、マラリア説があるが春先なので違うと思われる)にかかり加持(仏力の加護を祈る)をしても効果がありません。
(当時はいわゆるシャーマンが病気を治していたようです。)
その様子を見て、供人が
「北山にうわさに高い聖(ひじり、高徳の僧)がおります。お試しになってはいかがでしょう。」と進言します。光源氏は北山に向かい、この僧に念仏を唱えてもらいます。
「物の怪がついているご様子、明日お発ちになりますよう」
と聖。
(明日お発ちとあるので、今夜はここで泊まるように勧めています)
「いかがでごさいますか」
と臣下が問うと
「尊い大徳(だいとく、高徳の僧侶の尊称)であった。気分もよい」
とすっかり治ったような様子。
病は気からと言いますが、18歳の若者の体調が長きに渡り悪かったのは昨年の秋に夕顔を亡くしたショックからまだ立ち直れないでいたと想像するのも遠くないように思います。その証拠に、この後若紫を見初めると、病気がコロッと治ったように元気100倍の行動に出ます。恋の力は今昔問わず絶大どす。
北山には多くの僧坊が立ち並んでいますが、光源氏がその中でもひときわ小奇麗な建物を見ながら
「あの坊は?」
と問うと
「ある僧都(そうづ、僧正に次ぐ僧官)がこの二年籠っております」
「女がおります」
「その僧都、女を囲っておりますな」と光源氏の供人。
その僧都は尼君の兄との設定で、ここで見た女性陣は若紫、尼君、乳母と思われますが遠くからなので、その容姿までは良く見えていないようです。
源氏物語ではこのようにいわゆるご縁者さんがこれでもかと総動員で登場してくるので、人物関連を理解するのが少し大変どす😮
話題が変わり
「こちらからは京が見える」
「こうしたところに住む人は、情緒を味わえてうらやましい」と光源氏。
世の中の素晴らしい景色の話となり
「富士の山」
(富士山は平安時代でも人気のスポットだったのどすぇ)
「都の近くでは明石がよい所でございます。」
(美しい海峡よりも、タコの方が有名どすなぁ🤿)
「明石といえば前の国司で出家した変わり者がおります。一人娘をそれは大事に育てておりまして・・・」
「ほう」
とすかさず光源氏のいい女センサーが反応して興味を示します。
「娘には必ず大出世をさせてやる。それが叶わなければ、海に身を投げよと遺言しているのです。」
と供人が噂を話します。
この会話は第13話の明石の伏線として書かれています。
散策を続けていた光源氏は、僧都の坊で美しい少女(若紫)がいたずらをしている様子を垣間見ます。
尼君(若紫の祖母)と乳母が
「どうしました?」
「雀の子を逃がされました」
「あの子がまた悪さを・・・、からすなどが見つけたら大変ですわ」
と話しています。
(子供が昆虫や小鳥の子を飼ったりするのは、昔も今もかわらないようどすぇ)
「実に可愛らしい子ですな」
と惟光。
「ほんとうに」
「心惹かれる人を見たものだ。好色な者たちはこうした出逢いを楽しんでいるのだろうな」
と光源氏はつい先ほどまで病気だった事も忘れ、早くも若紫に心惹かれています。
光源氏は僧都(尼君の兄)と対面しています。
「源氏の君がお籠りと知りやってまいりました。一言お言いつけならば、お宿も用意いたしましたものを」
「人に教えられて、急に参ったので」
と光源氏、そして
「夢を見たのですが、こちらにどなたかおいでですか」
と若紫の事を何とか聞き出そうとしています。あの美しい少女は誰と直接に聞かず、誰かがこの北山にいる夢を見たと言って切り出すところが秀逸どすなぁ。
僧都は「突然な夢語りでございますが・・」と急に夢に出てきたと言われてちょっとびっくりしながら、
尼君と自分が兄妹であること、若紫の母は身分の高い姑に気を使い心労から十年も前に亡くなったこと、尼君一人で若紫を育てていること、最近は若紫の父の兵部卿の宮が忍んで北山にくるようになったことを聞かされます。
光源氏は兵部卿の宮が藤壺と兄妹であることを知っているので若紫は藤壺の姪となり、どうりで藤壺によく似ている理由を悟ります。
僧都は続けて
「尼君(47歳くらい)は余命も短いことで幼い孫娘のことを気に病んでおります。」
と、このまま若紫が成人するまで面倒を見れるかどうか心配していると伝えます。
それを聞いて光源氏は
「その幼い方の世話役に私ではいかがでしょう?」
と自分が引き取ると言い出します。
「私には通う者もいるのですが、気持ちがそぐいません。独り身と同じなのです」
と凄い事を言います。要するに、正妻の葵の上とも愛人の六条御息所ともうまくいってないので自分は独身と同じだから、若紫を引き取って将来妻にしたいと言い切ったのです。この自分勝手な言い分と決断力は凄いどすぇ。😮😮😮
僧都は
「な、な、なんと、(今しがた話を聞いただけでいきなりそんな話は普通は言わんぞ~)
・・・(光源氏は桐壺帝の息子で偉い人なので、あんた阿保かキチガイでっかとも言えずに)・・・喜んでお受けしたいところですが、なにせまだ子供でごさいます。それに女人の気持ちは僧侶の手前ではどうも・・・(よく分かりません。)」
「祖母の尼君に相談してご返事いたしましょう」
「では手前はお勤めに・・・」
と咄嗟に長いものには巻かれろ発言して(男の私にはようわかりまへ~んと)と席を外します。世渡り上手なお坊様どすぇ。
その晩、光源氏は早速に若紫強奪大作戦を実行します。
若紫の女房がまだ起きているのを確認し、扇子をパチンと鳴らすと
「空耳かしら・・?」
と女房。
「仏の御みちびきは、暗いところに入っても、まったく間違うことがないと聞いておりますのに」
と光源氏。暗に姫君のところへ案内してほしいと女房に頼んでいます。
(法華経の「冥キヨリ冥キニ入リテ永ク仏名ヲ聞カズ」を踏まえている。冥い(くらい)ところより生まれ出て、やがて冥いところへ還る迄の永い人生を、如何に生きるべきか? と人は考えるものだが、仏名(真理)に出会うのは難しいものである。)
「まあ、どなたへのご案内でしょう?」
と女房。
「だしぬけでおかしくも思われるでしょうが・・・・こうお伝えください」
と返答し口頭で和歌を伝えます。
「初草の 若葉のうへを 見つるより 旅寝の袖も つゆぞかわかぬ」
(初草の若葉のように可愛らしいお方を拝見してからというもの、恋しさのあまり私の旅寝の衣の袖も 涙の露に濡れて乾く間もありません)
女房は
「そのようなご伝言を承ける方ないないとご存じのはずですが・・・」
「理由があるのだろうとお汲み取り下さい」
と光源氏。
女房は早速尼君に報告します。
「なんと無茶な」
「この姫君に男女のことがわかるとお思いなのかしら?」
尼君は横でぐぅぐぅと爆睡している若紫を見ながら、疑問を呈します。10歳の少女にプロポーズしているのだから当然ですぇ。
「お待たせするのも失礼かと」
と女房。
「ではこう返事なさい」
と尼君も口頭で歌を返します。
「枕ゆふ 今宵ばかりの露けさを 深山の苔にくらべざらなむ」
(あなたが旅寝の草枕に濡らす今夜一晩だけの袖の露けさを 深い山の中に住む私どもの苔の衣の露けさとお比べにならないでください。 露けさは涙、苔の衣は僧侶や隠者の衣どす。
あんたの涙とうちらの涙を一緒にせんといてんか!をどえりゃ~上品に歌にしてますどすぇ)
それを聞いた光源氏は
「このようなご伝言でのお取次ぎは初めての経験でして。尼君に折り入ってお話し申し上げたいことがあるのです」と話します。
女房は「どうやら光源氏はどえりゃ~本気だがねぇ~」
とさすがにここで名古屋弁はでなかったでしょうね。
「畏れ多いこと、参りましょう」と尼君は光源氏と直接話をしに行きます。
「私も幼い頃母(桐壺)に先立たれました。この私を亡くなられた母君の代わりとお考えいただけませんか」と光源氏。
「お言葉はありがたいのですが。娘はおりますが、まだ年端もいかぬ子でとてもとても」と丁重に断ります。
この会話で分かるのは、尼君の兄の僧都は光源氏からの依頼を妹の尼君と相談して返事しますとその場を繕いながら、妹には話していないことです。ややこしい話に巻き込まれたくないというのが本音でしょうが、少し頼りない兄ちゃんなのでした。🤦♀️
断られた光源氏は宮人(みやびと、宮中に仕える人)に次の歌を送ります。
「宮人に行きてかたらむ山桜 風よりさきに来ても見るべく」
(都にかえって宮人たちに語りましょう。この見事な山桜を散らす風が吹かないうちに来て見るようにと)
すると光源氏の親友の頭中将、帝からの見舞い人、左大臣家(光源氏の妻葵の上の実家)の見舞い人が北山を訪問して、お祈りをしてくれた聖、僧都、尼君に面会することになります。
光源氏としては、そうそうたるメンバーを揃えて私に若紫を任せてもらえれば、ちょう安心安泰どすぇとマウントを取りにいったのでしょうねぇ。
本来、北山には病気の治療にいったので、帝と妻の実家からはお見舞いにきたのはそうでしょうが、頭中将は光源氏に付き合いのよいナイスガイどすぇ。
見舞いを受けた当の光源氏がぴんぴんしている様子は、滑稽どす。知人が入院したと聞いて見舞いにいったら、リハビリステーションで元気に汗をかきながら筋トレしていたようなもんどすからねぇ。
まあ、聖の念仏が効いたということで健康問題は丸く一件落着。
さて、北山から元気一杯になって都に戻った光源氏は、久しぶりに左大臣邸(妻葵の上の実家)を訪れます。
左大臣は娘婿の光源氏が来たと聞き
「これ、葵はどうなされた。源氏の君がお越しじゃ。」
「一両日なこの邸でごゆっくりおくつろぎ下され」
「早くお呼びしなさい」と葵の上の女房を急かします。
葵の上が少し遅れて、すまし顔で登場。
「ようこそ」
と葵の上は光源氏との間に衝立を挟んだ位置で挨拶しますが、なんやら嵐の予感。
お互い、目も合さずに会話が始まります。
「病のため、北山まで出かけてまいりました。」
「そうですか」と葵の上は無関心な返答。
「時々は世の常の夫婦らしく打ち解けていただけませんか」
「ひどく患っておりましたのにどんな様子とも尋ねられないとは」
と少しムッとした光源氏は、思わず二つもの不満を立て続けに漏らしてしまいます。
この物言いはまずいどすぇ🤔。
光源氏も娘婿としての役割を果していない事は悪いなぁと常々思っているのですから、まずその事を最初に素直に詫びてからでないと妻との関係はうまくいくはずはありません。
で、この夫婦互いの意地がぶつかり合います。
葵の上は売り言葉に買い言葉で
「問わぬはつらきもの・・・」ときつい一言。
(問わぬはつらきもの・とは、古歌「君をいかで思はぬ人に忘られて問わぬはつらきのものと知らせむ」を踏まえての言葉で
(あなたにどうにかして、思いの人(ほかの女)を忘れさせて、訪れがないのは堪えがたいことだと知らせたいものだ)の意味どす。
ようするに、病気の具合を問わない事をつらくお思いになられたのですねと表面上は「ごめんなさい」と言葉にしながら、その真意は他の女を忘れてほしいし、男が女のもとに通ってこないのもひどい仕打ちやでとの非難が「暗」に込められているどす。
英才教育を受けてきた葵の上ならではの超きつい一言なのどすぇ。
同じく英才教育を受けてきた光源氏は葵の上の真意(爆弾発言)を直ぐに理解し、思わず立ち上がりながら (凡庸な夫なら、少しは分かってくれたのねで終わる場面ですが)
「これはまたひどいお言葉。正式な夫婦でそういうおっしゃりようはありますまい。」
「いつもの冷たいもてなしも、いつか思い直していただけると考えておりましたのに」
と言い捨てて、互いに取り付く島が無くなります。
二人は臥所(当時はまだお金持ちの邸宅でも回転ベッドは無かったようどす)を挟んで背中を相手に向けたまま、突っ伏してしまいます。
しぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
「難しいお方だ・・・・」と光源氏。今で言うセックスレス。
(宿泊費を節約するために、旅行先でラブホテルを利用していたカップルがどちらかの浮気がスマホのポップアップでバレて大喧嘩した場合、家まで帰るには遠すぎるしこの時間からだと他に泊る場所も探せないといった場合、一つしかないベッドでどのように朝まですごすのでしょうね。
光源氏と葵の上は、臥所で朝までどうやって過ごしたのか超俗語訳では大変気になるところどすぇ。🤔🤔🤔)
ところ変わって北山の僧都の庵
光源氏から尼君に文が届きます。
妻と大喧嘩しても、めげないところが今後大出世する大物の底力どすえ。
「昨日は十分にお話できませんでしたが、私の心をお汲み取りいただけたらどんなにか・・・・・」
そして若紫あての歌も添えられています。
「面影は 身をも離れず山桜 心のかぎり とめて来しかど」
(あの山桜の美しい面影が私の体から離れません。私の心はすっかりそちらに残してきたので)
「あの子へのお文、どういうおつもりでしょう」
と尼君。
「尼君からも僧都からもよいお返事はいただけない。なんとかならぬものか・・・」
と光源氏は思案顔です。
これを見て優秀な探偵の惟光は
「これはおもしろくなるぞ。」
とニヤリとつぶやいています。
その頃内裏(だいり、天皇の居所を中心とする御殿)では、桐壺帝が藤壺の体調が優れないと耳にします。
女房たちが
「藤壺の宮はお加減が悪く、三条のお里へ下がられたとか」
「それほどのご病気ではないようですが」
「帝は例によってご心痛あそばしておいででごさいます。」
などど話しています。
「帝が心配している」と聞いて、あのうんち弘徽殿が「ふん!(藤壺なんぞ消えてしまえ)」と不愉快そうに顔を歪めています(帝をめぐる女の闘い、お~怖)
藤壺が三条に移った事を耳にした光源氏は、若紫の事はいったん忘れて
「帝(自分の父どすぇ)のお気持ちを思うともうしわけないが・・・、さりとてこういう折ででもなければあの方にお逢いすることもできはしない・・・」
「私にはあの方しか・・・」と、これは藤壺への長年の思いをとげる千載一遇のチャンスと捉え実行に移します。
ところは三条藤壺邸
光源氏は、藤壺の女房 王命婦(おうみょうぶ)に会い、直談判しています。
王命婦「ほんとうにご本心でいらっしゃるのですか?」
光源氏「こうしたことで嘘があるものか」
王命婦「恐ろしいことになってしまいそう・・・」
王命婦は光源氏の執拗な頼みに負けて、藤壺の元に光源氏を手引きしてしまいます。
(さすがにこの件は、優秀な探偵の惟光にも知られたくなかったのでしょうね。彼に裏工作を頼まずに光源氏自身で実行していますどすぇ)
こうして光源氏と藤壺は一夜を共に過ごします。
(回転ベッド・・・・・かな? もうええかげんにしておくれやす!)
「今夜のことは夢だったのか、うつつだったのか・・・・・」
と光源氏。
(ちなみにこの後、藤壺は王命婦を暫く自分から遠ざけたようどす。)
二人は歌を読み合います。
光源氏「見てもまた あふよまれなる 夢の中に やがてまぎるる わが身ともがな」
(お逢いしましてもまたお目にかかれる夜はなかなかないので、夢の中に紛れて消えてしまいたいです)
藤壺「世がたりに ひとや伝へん たぐひなく うき身を醒めぬ 夢になしても」
(のちの世まで語り草に伝えられはしないでしょうか、この類なく辛い私の身を醒めない夢としても)
その朝、二人は夜明けのコーヒーを飲む余裕もなく、互いに自分の身の辛さを感じ合って嘆いている様子です。
「なんとおいたわしいお二人の宿世(すくせ、前世のこと)のご縁・・・」
と、宿世のご縁を導いた王命婦はその朝の二人の様子を見て悲しみます。
(さて俗世界に住む紫の敷布としては、光源氏と藤壺の恋つまり義母とか継母との恋をどこかで見かけた事があることに気が付きましたどすぇ。そう、アダルトビデオのタイトルどす。源氏物語が日本の風俗やアダルトビデオ業界に及ぼした影響を研究した論文があれば是非とも読んでみたいものどす。)
二条源氏邸
「例によって(藤壺から)お返事もいただけない。帝にも申し訳ない。・・・・ああ・・・」
とあの元気でやりたい放題(自分の気持ちに正直な)光源氏は藤壺と一夜を過ごした後、塞ぎ込んでしまいます。ほんとうにこれで良かったのか・・・・
それから4か月ほどたった三条藤壺邸
「帝からのお使者が早く参内なさるようにと」
と女房が伝えると
「気分がすぐれないのです」
と藤壺。
藤壺つきの女房たち(藤壺クラスになると何人もの女房がいます)がヒソヒソ話をしています。ちょっと盗み聞きしてみるどすぇ。
「それはまことのこと?」
「はい、もう三月はございません」
「けれど里下がりなされたのはもっと前ですよ。ちょっと、おかしくない?」
「日数が合わないのでは?」
それを小耳に挟んだ女房のボスの王命婦は
(あの夜、光の君を私が導いたばかりにこのような事になどと言ったら政権を揺るがす超大
大スキャンダルになってしまうので、落ち着いた様子で)
「御物の怪紛れで御徴(みしるし)がわからなかったのです。」
「それにしてもおめでたいことです」
と秘め事は墓場まで持っていく覚悟を示します。
当時は怨霊とか物の怪の存在が信じられていたので、何か不都合なことの言い訳にもうまく利用できたのどすぇ。
王命婦は、湯浴みの準備で着物を脱いだ藤壺のお腹が少し膨らんでいるのを目のあたりにして、心の中で
「恐ろしや・・・」とつぶやきます。
藤壺の懐妊は、二条源氏邸に勤める女房たちにも伝わり、
「藤壺の宮さまご懐妊とのお噂です」と話しています。
それを聞いた光源氏は
「!!」
(やってしもた!! 藤壺の宮との逢瀬だけでなく子供も生まれる。さらに大きな不義理を藤壺の宮にも背負わせてしまった、なんという運命、がぁ~~~ん。)
ところは内裏 7月 飛香舎(ひぎょうしゃ、藤壺の居る建物)
帝が息子の光源氏を呼び出しています。
「お呼びでございますか」
「うむ、笛を聞かせておくれ」と帝。
帝の隣室には藤壺も控えています。
光源氏は18番の笛を披露します。
「なんと清らかな笛の音であろう。お腹の皇子も気持ちよく聞かれたでしょう」
と帝が褒めたたえます。
「畏れ多いことでございます・・・」
と光源氏。
「まことに・・・・」と藤壺が小声で答えます。
帝の御前での隠し事、二人にとってはすごい修羅場どす。
この様子を控室で聞いていた王命婦は
「恐ろしや、おそろしや」と生きた心地がしなかったどすぇ。
修羅場の後のある日の内裏、淑景舎(しげいしゃ、光源氏の母桐壺更衣の居住の殿舎)
親友の頭中将が10月の朱雀院への行幸で披露する舞の練習をしています。
「行幸までいくらも日時がありません。早く上達しなければ。家に戻って練習いたします」
「お励み下さい」と光源氏。
そこに北山の様子を伺いに行かせた優秀な探偵の惟光が現れます。
「源氏の君さま、ただ今戻りました」
「あの尼君がお亡くなりになられたそうです。兄君の僧都さまからのお手紙です」
光源氏は「おいたわしい。頼りにしていた尼君が亡くなられて幼い人はどんなに不安がっておいでだろう。三歳の時、母にも祖母にも先立たれた私と同じようなお身の上がおいたわしい」
早速、若紫を引き取るチャンスとばかりに北山を訪れる光源氏。
若紫の乳母と面会しています。
「(亡くなられた)尼君は姫君のことばかりがお心残りのようで・・・・。
それで姫君はこれからどうなさる」と光源氏。
「父の兵部卿の宮がお邸にお引き取りになるとのことですが、亡き姫君(若紫の母)も思いやりのないつれないお方と思っていらしたくらいで・・・」
「亡くなられた尼君をもそれがご心配で・・・・どうすればよいかと困り果てております」
と若紫の乳母。
「それほどご心配ならなぜ私にお任せにならないのです。」
「私の真心は何度もお伝えしておりますのに。
こうなればじかに逢わせて下さいまし」
と光源氏。
「ですが姫君はいくらなんでもお年が(幼すぎます)・・・・」
と若紫の乳母。
そこにひょっこりと、姫君(若紫)が現れます。
「少納言(乳母のこと)、父宮がおいでなの?」
「いいえ・・・」と若紫の乳母。
「父宮ではありませんが、どうぞこちらへ」
と光源氏は若紫を誘います。
「あら、源氏の君・・・」
と若紫。
「このようにまだ幼いのです」
「もう夜遅いわ。御張(みちょう、寝室のこと)に行きましょう。」
と若紫の乳母は若紫を寝かせようとします。
すると
「ではご一緒に」と光源氏は若紫を抱きかかえてどこかに行こうとします。
光源氏は子君(空蝉の弟、帚木参照)で子どもの取り扱いには慣れてるどすぇ。
「あ、困ります」
と若紫の乳母。そりぁそうどす。まれで人さらいのようどすぇ。
「こんな幼い方をどうするものか、(子君を抱いておいてよく言うどすぇ!!)
私の気持ちを見届けてください。」
と光源氏。
その時、嵐のような突風が吹きだし若紫の乳母と女房は、御格子(格子戸)を慌てて閉めようと右往左往している隙に、
「幼い方がこの少ない人数でどうしてこのような嵐の夜をお過ごしになれるのだ」
ともっともらしい理由を付け、光源氏は若紫を寝室に連れていきます。
「あれぇ~、お二人で寝室に入られるとは・・・・」
と乳母はびっくり仰天。
すると光源氏は
「皆近くにおいでなさい」
若紫の乳母とおつきの女房を呼び寄せ
「さあ、楽しい絵やお人形で遊びましょう」
と若紫をあやし始めます。
そのまま寝室で朝を迎えた光源氏は
「一番どりが啼いたので退出いたします」
とさっさと北山を後にします。
(朝になると、日の光を嫌う狼男のように退散は早いのどすぇ)
「まあほんとうの男女の逢瀬のような事を幼い姫君にするとは、どういうお考えなのかしら」と乳母と女房は呆れています。
(だって未来の僕のお嫁さんなんだも~ん❤️、光源氏の談)
その晩、光源氏は妻の葵の上に逢いに左大臣邸を訪れます。
かあちゃん(葵の上)がお出ましになるまで、光源氏は琴を弾きながら小唄を歌っています。
「常陸(ひたち)には田をこそ作れあだ心・・・・・」
これは風俗歌で
「常陸には田をこそつくれ あだ心 や かぬとや君が 山を越え 雨夜来ませる」
(私は常陸で田作りに余念がないのに あなたは私を疑って 山を越えてこの雨夜においでになった)
恐らく田作りと(ほかの女との)子作りをかけているのだと想像しますが、あなたは私の浮気を疑って嵐の夜にもかかわらず(浮気の現場を押さえようと)突然やってきたという歌どす。妻の実家で妻を待つ間に、普通こんな歌、歌う???
紫式部のユーモアセンスはなかなかのもんどすぇ。
葵の上の女房が
「姫君さま、源氏の君がお待ちかねでございます」
と葵の上にお出ましになるように催促しますが、
「今夜はお逢いしとうない」
と一蹴(飛び蹴りですなぁ)。当然どす。
そんな変な風俗歌を歌いながら待っているだんなに、普通は逢いたくないでしょうね。
こじれてますどすぇ、光源氏と葵の上の夫婦関係💔
そこに優秀な探偵の惟光が慌てて駆け込んできます。
「大変でございます。兵部卿の宮さま(若紫の父)が明日あの姫君をお邸へ連れて行かれると聞き及びました。」
光源氏は「なんと! 兵部卿には何人ものお子がいらっしゃる。その中ではあの姫君がおかわいそうだ」
と言って脱兎のごとく左大臣邸を後にします。
その様子をうかがっていた葵の上に女房が
「あれぇ、源氏の君はいずこへお出かけになりました?」と吞気に問うと
「知りません・・・(知るか、そんなもん。このボケ、カス!!)」
と葵の上は超ブリブリモード。
自分から光源氏に飛び蹴りをくらわせはしたものの、それでも突然いなくなるとさらに無性に腹が立つ葵の上なのでした。
(別の女のところに行きよったと感づいてますどすぇ、お~怖い~怖い~)
さて光源氏は左大臣邸を出ると直ぐに優秀な探偵の惟光が準備しておいた愛車(牛車)に乗り、お供と共に北山に急行します。
「姫君は?」と光源氏。
「もうお休みでございます」と乳母。
「では綺麗な朝霧をお見せ申そう」
「さあ、お迎えですよ」
と若紫を抱きかかえ
「怖がることはありません」
と寝ぼけまなこの若紫に話しかけます。
騒ぎに駆け付けた僧都(亡き尼君の兄)もこれにはびっくり。でも頼りない兄なのでここでも何の役にも立ちません。
乳母も「なんとされます!!」と慌てています。
若紫をご自慢の牛車に乗せながら、乳母に
「父宮にはなんと申し開きをすればよいのでしょう?」と問われた光源氏は
「何も申さずともよい」乳母は慌てながらも
「わ・・・私も。姫君のお召しものを」と若紫の着物を手に牛車に乗り込みます。
光源氏は「惟光、二条(光源氏のお家)の西の対に調度をしつらえるよう」と命じます。
牛車の中で乳母は「なんということ・・・・私はどうすれば・・・・」と嘆いていますが
「少納言(乳母のこと)よ、それはそなたの気持ち次第。姫君はもう私がいただいたのだから」と答えます。
少納言(乳母)は二条源氏邸で若紫の成長を見守ることになるのでしょうね。
以上、お話てんこ盛りの第五話終了どすぇ。
伝土佐光起筆『源氏物語画帖』若紫
スズメが飛んでゆくほうを眺める若紫。尼君、侍女らがいる僧都の家を外から垣間見る光源氏、光源氏の隣に控えるのは優秀な探偵の惟光か。
10歳の若紫が成人女性(紫の上)のように描かれているのは、光源氏が将来の正妻格になる紫の上の姿を想像しているからかも?よう知らんけど🤷♂️
第六話 末摘花(すえつむはな)
時を戻そう。
(光源氏18歳のお話で、時期的には第五話 若紫と重なります。同時進行でこんなこともやっておりますぇ・・・・)
夕顔が亡くなってから半年ほど経過した内裏(だいり)の淑景舎(亡き桐壺更衣(光源氏の母)の住居)で、光源氏は大輔命婦(だいふのみょうぶ、内裏に勤務している、内裏では光源氏の世話もしている)と話しこんでいます。
彼女のお母さん(左衛門の乳母)は光源氏の複数いる乳母の一人で、光源氏も大切な人と重んじています。そんな関係なので、光源氏と大輔命婦はかなり親密な間柄という設定どすぇ。
彼女は「いといたう色好める若人」とあるので、大変な色好みだったのどす。
色好みというと、現在の好色人を指すのではなく風流人という意味どす。ですから、流行には敏感で、飛び切りのファッションセンスを持ち、男女交際が得意で、歌もうまいし、琴や琵琶の演奏もかなりの名手だったかもしれませんどす。
彼女の母は、父である兵部の大輔と別れ、再婚して筑前の守の妻となって、筑前の国にいます。彼女は、父のもとにいて内裏へ勤めていたんどす。
しかし、母と離れていて寂しかったのでしょうか、隣の邸の故常陸宮様の姫君(末摘花)と仲良しになり、部屋までいただいて、そこに住み着いていますどす。
源氏が、召し使う大輔命婦ですから、すぐに私的な話になります。「どこかにいい姫はいないかね」ということにでもなったのでしょう。大輔命婦は、末摘花にお世話になっていることもあり末摘花を紹介します。
「故常陸親王(ひたちのみこ)が可愛がっていらした姫君(末摘花)が父親王の亡くなられてあと、心細く過ごしていらっしゃいます」
「お顔も拝したことはありませんが、誰ともお付き合いはなく琴だけを友としておいでです」と大輔命婦。
ちょっと待った!! 同じ邸に起居しているのに、顔を知らないなんて絶対に嘘うそ。
この理由はこのお話の最後に明になるのどすが、紫式部お得意の伏線どすぇ。
「ほう、琴を友と。中国伝来の七絃琴を今時弾かれるとはおくゆかしい」
と光源氏。
(注:平安時代は六弦琴が主流で、七絃琴は廃れて古臭いものでした。末摘花のセンスがかなり古いことを暗示しています)
「お耳に入れるほどではございますまいが・・」と大輔命婦。
「ぜひ折を作っておくれ」と頼み込む光源氏に対して
「まあ、どうなることやら・・・」と大輔命婦は意味深に微笑みます。
さて故常陸親王邸(末摘花のお家)主人を亡くした(末摘花の父)邸なので、庭には雑草が生え構えも荒れています。
末摘花の叔母が彼女を自分の娘の教育係にしたいと申し出ますが、これを断ったため親戚からの援助も頼りにできず姫君なのですが生活は困窮しています。
光源氏が大輔命婦の部屋を訪ねて来ています。
「私の普段の部屋で申し訳ありません。」
「なに構いはしないよ。それより早く姫君に琴をすすめておくれ」と光源氏。
「では」と大輔命婦は西の対の寝殿に光源氏を誘います。
梅の香にまじっての琴の音か、なかなかおもしろい」
「大事に育てられた姫君でいらっしゃるのに、この荒れた邸でのお暮しはどんなにか心細いことだろう」と光源氏は琴の音に聞き入ろうとしますが、琴の音は直ぐに止んでしまいます。
「いかがでございました?」と大輔命婦。
「途中で止められたではないか、お手並みが分からない」と光源氏。
「お心細そうなご様子がおいたわしくて・・・・」と大輔命婦は琴を途中で止めた理由を説明します。
しかし実はこれ、光源氏の気を引こうと大輔命婦が末摘花に指示しておいたチラ聞かせ作戦です。
大輔命婦としては光源氏が末摘花と契ってくれて彼女のパトロンとなり、安定した生活を手に入れるのが目的です。
「しかたあるまい。行くべきところもあるから今日はこれで」と退出しようとします。
「ほほほ、帝(光源氏の父)が光る君は堅過ぎるとご心配なのがおかしゅうございます」
と大輔命婦は少し皮肉を込めて光源氏をからかいます。
しかし、それがほんとうなら帝も親バカどすねぇ。
邸の外に出る途中で、光源氏は垣根の隙間から末摘花の姿が何とか見えないかきょろきょろしていると、友人の頭中将にばったり出くわします。
「や!」と驚く光源氏に対して
「ははは、ご一緒に内裏を退出しましたのに途中でまこうとされるとは」と頭中将。
頭中将は何か怪しいと思い、そっと光源氏をつけていたのです。
「あとをつけておいでとは、人の悪い」と光源氏。
「私も常陸親王の姫君に文をお出ししてみますか❤️」
と頭中将はこの姫君をめぐりライバル宣言をします。
「勝手にシンドバッド」と光源氏。
後日、淑景舎で光源氏と頭中将が話をしています。
二人とも末摘花に歌を送りましたが、どちらにも返歌が来ていません。
「源氏の君、姫君からのお返事はありましたか?」
「さあ見たいとも思いませんが」と光源氏は返歌は来たがまだ見る気にならないと恋のライバルにカマをかけます。
「私のほうは全くの音沙汰無しですよ」とガッカリの様子の頭中将。
「わたしはもうあきらめましたよ」と敗北宣言。
光源氏の作戦勝ちどすぇ。
「頭中将はああ言っていたが、あっさり引き下がるとは・・・」とほっと一息。
しかし、依然として末摘花から何の音沙汰もないのでどうにかならないのかと大輔命婦に相談します。
「あの姫君はただもう内気でいらっしゃいますので・・・・」
と恋愛に長けた大輔命婦の焦らせ作戦が見事に的中!!
「あの夕顔のように子供っぽくいじらしい方なのだろう」
と光源氏はまだ見ぬ末摘花への思いに引き込まれていきます。
こうしてみると、光源氏はなかなかピュアな恋心の持ち主どすぇ。ピュアなだけに、素直な気持ちで接してもらえない妻の葵の上や愛人の六条御息所とはしっくりいかないのがよくわかりますどす。
既に春が過ぎ、夏も終わろうとしています。
いまだ末摘花からは何の音沙汰もありません。随分と手の込んだ焦らせ作戦どす。
「どういうことだ。何度も便りを差し上げるのに一度もご返事がない」
「こんなことは初めてだよ。とにかく私をあの荒れた簀子(すのこ)に佇ませておくれ」
と業を煮やした光源氏はとにかく直接訪問したいと大輔命婦に頼みます。
「姫君はとても思慮深いお方でして。はい・・・」
と大輔命婦は内心「ついにやったぁ~」と喜んで答えます。
8月20日過ぎのある夜の故常陸親王邸
「源氏の君が突然お見えになりました。せめて物越しにお話し下さいませ」と大輔命婦は末摘花に話しかけます。
しかし末摘花は光源氏の来訪を知らされ、恥ずかしくてたまらず、奥へ後ずさりします。
「でも私はひと様とどうお話ししてよいかわかりません」
「ほんとうに世間知らずでいらっしゃいますこと。まさか無理無体はなさらないでしょう。廂(ひさし)にお迎えします。」
と光源氏を招き入れ、簾(れん、すだれのこと)越しに対面させます。
「いくそたび 君がしじまに 負けぬらん ものな言ひそと いはぬたのみに」
(幾たびあなたの沈黙に負かされたことでしょう。何も言うなとあなたがおっしゃらないのを頼みとしてきました)
と光源氏が歌を詠みます。
「姫君お返事を」と大輔命婦は末摘花を促しますが
「でも・・・」と引っ込みじあんの末摘花は顔を隠して恥ずかしそうにもじもじするばかり。
その様子を見て、大輔命婦が代わりに返歌を詠みます。
「では私が」
「鐘つきて とち゛めむことは さすがにて こたへまうきぞ かつはあやなき」
(しじまの鐘をついてこれで終わりとしてしまうことはできませんが、さりとてお答えをすることもできませんのは私としましても不思議なものでございます)とどっちつかずの曖昧な返事。
末摘花自身は、身の置き場もなくすくむような思いで、何もわからない様子。
「自分でもふぅしぎぃ~なのぉ~🤷♂️🤷♂️」と返された光源氏は
「ご身分のわりにはなれなれしいな・・・?」
「えい、面倒な」「姫君ぃ~」と末摘花の部屋に押し入ってしまいます。
夜なので部屋の中は真っ黒。お顔の確認できません。
「無鉄砲なお方、もう知らないわ」と大輔命婦もびっくり仰天。ここで突撃するかぁ~😮😮🤷♂️
この場に及んでのこれ以上の焦らしは失敗に終わります。
光源氏は末摘花と契りうぶな方でいじらしい、と考えるものの、どこか腑に落ちません。
「なんか変だなぁ?」とため息をつきながら暗いうちに帰っていきます。
その日の朝、二条院源氏邸
頭中将が光源氏の元を訪ねて来ますが、まだ寝ていて臥所で面会しています。
「やけにごゆっくりおやすみだ。どんなわけがおありだか?」
「これは頭中将の君、宮中からですか?」
「朱雀院への行幸の件で楽人や舞人のご決定があったものですからね。」と頭中将。
「そうですか」と光源氏は眠そうに答えます。
「それにしてもお眠そうだ。昨夜はどなたと?」 と頭中将は昨夜光源氏が昨夜何をしていたのかとっくにお見通しどすぇ。
やってるやってるぅ~う。
契りを結んだ女性の元には翌朝、後朝の文(きぬぎぬのふみ)と言われるものを送るのが作法となっています。
ところが、光源氏にはもう通う気持ちがありません。
手紙だけは夕方に送ります。
一方、末摘花は昨夜のことを思い出して、恥ずかしさでいっぱいになっています。
朝来るはずの手紙が日暮れになったことが失礼であるということを、世間知らずな末摘花は気付いていません。
しかし、光源氏がそれから訪ねてこないことに、大輔命婦はじめ末摘花の女房たちは胸が潰れる思いでいます。焦らし作戦でここまできたのにぃ~🤣
「うちの姫君の将来はどうなるの😭😭😭」
末摘花は手紙の返事を書くよう勧められても、思い悩んで何も書けません。
大輔命婦乳が教えて歌を書かせますが、古めかしい筆跡です。
返事を受け取った源氏は、更にがっかりします。
平安でモテルには、字もカッコ良く書けないとだめどすぇ。
内裏で大輔命婦と光源氏が話をしています。
「秋も暮れてしまったのにお見限りとは姫君がおいたわしくて・・・・」
「行幸の準備で忙しかったのだよ」と適当にごまかす光源氏。
(頭中将は行幸での舞の練習で忙しそうにしていたのに、光源氏は特に何もしてなった様子どすぇ。彼は芸事には特に秀でていたので、少しのリハーサルで十分にこなせる自信があったのでしょうどすね。)
「人の情けがおわかりにならないあのお方をすこし懲らしめようと思ってね」と光源氏は続けます。
(末摘花は恥ずかしくて何も行動が起こせないことを光源氏は薄々感ずいていますが、それを人の情けがわからない人と言い訳してますどすぇ)
「まあ、お上手な(言い訳)」と大輔命婦。
さて冬になり、それでも末摘花の事が心に残る光源氏は
「しかしあの姫君の恥ずかしがりようは並みではない」
「暗がりの中ではどんなお顔かもわからない 今夜こそは」 と訪ねます。
修繕もままならず荒れた邸内では、末摘花のお付きの年老いた女房たちが
「ああ寒い冬だこと。長生きするとこんなつらい目に遭うのね」
「故宮がご生前の頃も時流に遅れられて辛くはありましたが、今ほどは・・・」
などと話しながら粗末な夕餉を食べています。
末摘花の時代遅れな古臭いセンスはどうも父親譲りのようどす。
そこに光源氏がトントンと格子戸をノックして現れます。
古女房たちは「あれ源氏の君ですわ」
「さあさあ」と喜んで招き入れます。
その晩、末摘花と一夜を過ごした光源氏は外が明るくなる頃を見計らい
「すばらしい空ですよ。遠慮だてはなさらずにお出になってごらんなさい」
と簾の外に誘います。
古女房たちは、恥ずかしがる末摘花に
「早くおでましに」
「素直になさいまし」と声をかけます。
末摘花は顔を左手の袖で顔を半分隠しながらゆっくりと簾から出てきます。
ついにごたいめぇ~~ん!!
末摘花の容姿を初めて明るみで見た光源氏は「目が・・点・・点・・点・・」になってしまいますどす。
平安貴族の美的感覚からは大きく外れており、ワンバウンドどころか大谷翔平のバットでも絶対に届かないバックネットオーバーの大暴投😮😮😮😮⚾🤦♀️
末摘花のご容姿は
・座高が高い。(十二単でも足が長い方がかっこいい?)
・象のような鼻で、先が垂れて赤く色づいている。(平安時代には像が知られていた?)
・顔は雪より青白い
・額はとても広く、顔の下半分も長い。
・ガリガリに痩せている。(当時はふっくらとした女性がモテタようどす、でも一夜を共にしているのでやせ型は光源氏も予測していた?)
・ただ、頭の形と髪の垂れ具合だけは見事な美しさ。(バックシャンどすぇ)
着衣も普通は男性が着る黒貂の皮衣(ふるきのかわぎぬ)を着て、袖で口元を押さえて笑うしぐさもぎこちないありさまどす。恥ずかしくてしかたがないのどすぇ。
(出典:一万年堂ライフ)
光源氏が歌を詠みかけます。
「朝日さす 軒の垂氷<たるひ>は 解けながら などかつららの 結ぼおるらん」
(朝日のさす軒のつららはとけたのに、あなたは張りつめた氷のようで、なぜ打ちとけてくれないのでしょう)
しかし、末摘花はすぐに返歌ができず「むむ」と笑うしかできません。
光源氏は愕然としますが、
「けれど私以外の男が辛抱できるのだろうか??これも故父宮のお導きなのだろう」
と世話をするのは自分しかいないと覚悟しますどす。
これ以降、末摘花と彼女付きの古女房たちが困窮しないようこまごました援助が、届けられますどすぇ。
一方、ピカピカの二条院源氏邸で若紫が光源氏と楽しく遊びながらすくすくと成長していく様子が困窮した生活をしていた末摘花との対比で描かれています。
何をして二人で遊んでいるのどす?覗いてみますどすぇ。
なんと光源氏は末摘花の似顔絵を自ら書き、自分の鼻にも紅を付けて
「このような人も世の中にいるのですよ。この紅を付けたように」
と若紫に面白おかしく話しかけ、それを見た若紫は福笑いを見たようにきゃっきゃっと喜んでいますどすぇ。
若紫の教育の一環なのどすかねぇ?
以上、第六話完どす。
第七話 紅葉賀(もみじが)
また時を戻そう。光源氏18歳の秋。
桐壺帝(光源氏の父)は最愛の藤壺が懐妊した喜びに酔いしれ、朱雀院での一の院の五十歳の誕生日の式典という慶事をより盛大なものにしようというご意向を示しているため、臣下たちも舞楽の準備で浮き立っています。
注:一の院・一説に桐壺帝の父親、光源氏の祖父
注:朱雀院(すざくいん)は、平安時代の天皇の累代の後院(退位した天皇の御所)のひとつ
要するに秋に盛大な祝賀パーティーが計画されているどすぇ。
ところが女御や更衣たち(帝の妻)は宮中の外での催し物を見物できないというルールがあるため、藤壺さんも見ることができません。
そこで藤壺愛の桐壺帝は、藤壺に見せるために宮中で盛大なリーハーサルを行いますどす。
場所は清涼殿(平安京内裏および里内裏の殿舎の一つ。天皇の日常の御殿)
リーハーサルで光源氏と頭中将が青海波(せいかいは)を舞っています。青海波は一人が押し寄せる波、もう一人が引き波を演じる雅楽の代表的な二人舞どす。
これを見ている女房連中は
「それにしても青海波を舞う源氏の君のなんとお美しいお姿でしょう😍😍😍」
「あの吟詠のお声のすばらしさ仏の国の迦陵頻伽(かりょうびんが、極楽浄土に棲む鳥)のお声とも聞こえます👏👏👏」
と光源氏を陶酔のまなこで見つめます。
光源氏は歌って踊れるスーパースターなのどすぇ。
頑張らんかぃ、頭中将!!二人組で人気が一人に集中するとみじめおすぇ。
(ちなみに1958年生まれの世界的なスーパースターはマイケルジャクソン、また紫の敷布とマドンナは同じ昭和33年の8月16日生まれどすぇ。物語になんの関係もないどす😅)
さてその様子を見ていたあのうんち弘徽殿女御(光源氏の母親の桐壺更衣を、いじめて倒して死にいたらしめたこわぁ~いおなご)は
「神などが魅入って(とりついて)神隠しでもしそうな容貌だこと、薄気味悪い」と偉そうに切り捨てます。
この反応に弘徽殿女御付きの女房たちでさえも
「まぁ・・(なんと意地の悪い)」と自分たちの御主人ながら不快感を示します。
嫌われ者、世にはばかるどすなぁ。
試楽(リーハーサル)が終わり、清涼殿で桐壺帝と藤壺が二人きりでお話中です。
「今日の試楽は源氏の青海波に尽きる、どうでしたか」と藤壺に問いかけます。
「はい、格別で・・・・」と小声で藤壺が答えます。
光源氏の子を身ごもっている藤壺は、良心の呵責にさいなまされていてもたってもいられない気持ちです。
「相手役の頭中将もよかった(光源氏の相棒もフォローするところが大人どす)。
しかし試楽であんなによい出来だと行幸当日は物足りなく思われるかもしれない」
「けれどあなたにお見せしたいと思ったものですから」と桐壺帝。
「・・・・ありがとうございます。」
と桐壺帝からの愛を感ずれば感ずるほど戸惑いが大きくなる藤壺。
さて、飛香舎(ひぎょうしゃ、清涼殿の西北方にあり、中宮や女御の住まい。庭に藤を植えてあったので藤壺ともいう。)に一人でいる藤壺の元に王命婦(光源氏と藤壺の不倫を仲立ちしてしまった女房)が光源氏からの文を届けにきます。
「昨日の舞をどのようにご覧になったでしょうか。 乱れる心地で舞ったのです」を歌にしています。
「もの思うに たち舞ふべくも あらぬ身の 袖うちふりし 心しりきや」
(もの思いに舞などできる身ではなかった私が、袖を振ってみせた心中を、お察し下さったのでしょうか)
藤壺の返歌です。
「から人の 袖ふることは 遠けれど たちいにつけて あはれとは見き」
(青海波という遠い唐の舞などは私は知る由もありませんが、あなたの舞のすべては感慨深く拝見しました)
これを読んで光源氏は
「舞楽の故事まで心得ていらっしゃる、何とすばらしい」
「すでにお后の風格を備えられたお歌だ」とさすが藤壺さんは違うねと感嘆するのどすぇ。
朱雀院行幸の当日、着飾った臣下が賑々しくパーティーを盛り上げ、源氏と頭中将は華麗に青海波を舞います。
光源氏はお祝いパーティーでの素晴らしいパフォーマンスが高く評価され、従三位(じゅさんみ)から正三位(しょうさんみ)に昇進、18歳では異例の出世どす。
頭中将も正四位下に昇進。
他の高官たちにも波及して昇進するものが多く、当然これも源氏のおかげであることを皆感謝しています。
芸は身を助くとはよく言ったものどす。
周りは、この世でこんなに人を喜ばしうる源氏は前生(ぜんしょう)ですばらしい善業があったのであろうと噂しています。
光源氏についていったら何かいいことありそうどすぇ。
左大臣邸(光源氏の妻、葵の上のお家)
光源氏は葵の上に通います。
左大臣(光源氏の義理の父)は盃を片手にご機嫌な様子で一杯やっています。
「行幸の折の見事な舞でわが君は正三位に上がられた」
「息子(頭中将)も一階を加えられて正四位下の栄に浴した、めでたいことじゃ」
と男目線で単純に喜んでいると、そこに北の方(帝の妹君、左大臣の妻)の強烈なストレートパンチが炸裂!!
「おめでたいのはあなたさまでしょう😤😤😤😤」
「なんと・・・・・🤐🤐😥」と驚く左大臣。
「源氏の君は二条院のお邸に誰やら女性(若紫)を迎え入れられたとか」
「わが姫(葵の上)へは夜離(よが)れてばかりなのですよ」
とどえりや~剣幕でまくし立てるのでいかんがねぇ。お~怖~い。
「それは・・・・」
と言葉を濁す左大臣。
「葵がかわいそうです」
と北の方はピシャリ!!。
こうしてみると、葵の上はお母さんによく似てるようどすぇ😮
左大臣も娘の葵の性格が自分の嫁に似ていると思っているので、なんとか娘婿の光源氏を庇おうとしたのかも知れませんが、一蹴されておますねぇ。
平安貴族でも、かあちゃんは強いのでした😅。
さて葵の上は緊迫した雰囲気に緊張した面持ちの女房二人を側に侍らせて、光源氏と格子越しに対面しています。
葵の上は挨拶さえもせずに、つんとすましています。
(若紫の噂を聞いて、激怒しておすぇ👹)
「素直に恨みごとでもおっしゃればいいのに・・・・・(なぜ私に素直に今の自分の気持ちをぶつけてこないのかなぁ?)」
「ほかの女(ひと)より先にお逢いした方なのだから、大切に思っているのだけど・・・・」とため息をつく光源氏。
葵の上はとにかく完全な妻で、欠点は何もないどすぇ。
だれよりもいちばん最初に結婚した女性であるから、どんなに心の中では尊重していても、それがわからない間はまだしかたがない。
将来はきっと自分の思うような妻になりうるだろうと光源氏は考えてますぇ。
葵の上が些細なことで源氏から離れるような軽率な行為に出ない性格であることも源氏は信じて疑っていませんどす。
永久に結ばれた夫婦として、光源氏が葵の上を思う愛は特別なものだったのどす。
(妻を愛する=妻はひとりだけとならないのが平安貴族どす、
多様な遺伝子を残して少しでも未来の生存確率を上げる種の遺伝子の多様性には則っておすぇ。
平安時代は人間も野生動物の1種なんどすかねぇ。
こうしてみると、光源氏のように愛する人が複数いるのは自然なことのような気もしてきますどす。)
三条藤壺邸 藤壺は出産準備で実家に戻っています。
「宮さま(藤壺)のご機嫌はいかがでしょう。」と光源氏は訪ねていきます。
「すこやかにお過ごしでごさいます。」と王命婦。
藤壺の心を乱されたくない王命婦は、光源氏と直接の面会はさせてくれません。
(藤壺の女房たちは、お腹の子の父親が光源氏だとは知らないので王命婦は秘密を守るために必死に毎日を過ごしていたのでしょうね。お疲れ様どすぇ。)
そんな王命婦の藤壺への気遣いも知らず
「こうして王命婦など女房ばかり対面させなさる・・・。他人行儀な扱いが悲しいものよ」と光源氏は嘆いています。
そこへ兵部卿の宮(藤壺のお兄さん、若紫の父ちゃん)がひょっこり現れます。
「これはこれは、源氏の君がおいでとお聞きしたもので」
「お邪魔しております」と光源氏。
(若紫の父君だが、私が若紫を引き取っていることはまだご存じない)
兵部卿の宮は光源氏が女性を自宅に迎え入れた噂は知らないのですかねぇ。
自分の娘が一人行方不明になっているのに、子供が沢山いるのでさほど気にしない??
確かに、若紫はもし父に引き取られていたらこれまでの経緯からあまり大切にはされていないかもしれませんどすぇ。
面白いのは、光源氏と兵部卿の宮が初めて会った相手の印象です。
どちらも互いに
「もし女だったら、お相手したい美しさだ」と思っています。
藤壺のお兄ちゃん(兵部卿の宮)もさぞかしのモテ男子だったようどす。
う~ん、紫の敷布は男を観てもしこの人が女だったら魅力的だろうなんて思った事はないどすねぇ。
「それでは私は妹に会ってきますので失礼」と兵部卿は去ります。
光源氏は
「私は逢えないのに・・・、藤壺と兄妹の兵部卿の宮がうらやましいなぁ・・・」などと思っています。
二条院源氏邸 西の対(若紫の居宅)光源氏は人形が散らかったご座の上に居る若紫に声をかけます。
「これより元旦の朝拝に参内します。」
「年も改まりましたが、今日からは大人らしくおなりですか?」
若紫は犬君(若紫の遊び相手の女童)が壊してしまった人形を繕いながら
「はい、犬君がこんなに壊してしまったので直していますの」と答えます。
「(犬君のしたことは)心無い仕業ですが今日はお正月、不吉なことは言わずお泣きになりませんように」
(若紫はまだまだ子供扱いのようどすぇ)
若紫は素直に
「はい」と返事をします。
光源氏は6人の従者が引くピカピカの牛車(特別な行事に参内するときには牛ではなく人がひくようどす)に乗り込み、内裏に向かいます。
それを見送る女房たちは
「なんと威風堂々のお姿かしら」
「ひときわご立派な」と見とれておりますぇ・
若紫も
「ほら少納言(若紫が北山から引き取られるときに若紫の着物を持って同行した乳母)、
源氏の君がご参内なさるところ」と声をかけます。
少納言は
「姫君、十歳を過ぎた方はもう人形遊びなどお止めなさいませ」
「源氏の君にも奥方らしくお相手されなければ」と話します。
若紫はこの時、自分が光源氏の妻になることを初めて知ります。
「・・・・・・・では私にはもう夫ができていたのだわ・・・」
「すてきな夫が・・・・❤️❤️」
と光源氏に見立てた人形を抱きしめます。
(若紫は将来は誰か別の男性と結婚させられるのだろうと何となく思っていたのでしょうね。楽しく遊んでくれる光源氏が夫と聞かされて天にも昇る気持ちどすぇ)
この瞬間から若紫は女として目覚めていきます。
正月も過ぎ、2月になった内裏
「藤壺の宮様に男皇子がお生まれになりました」
「若君の誕生でございます」と女房が桐壺帝に報告しています。
「まずはめでたい」
「師走にもと心待たれたがいっこうに吉報が入らず物の怪のせいかとも案じていたがよかった」と桐壺帝は喜んでいます。
そうなのです、桐壺帝は自分の子が年末にも生まれると予測していたのですが、藤壺が療養の為に実家に帰っていた間に宿した光源氏の子なので日数が合いません。
ここでも物の怪のせいにして自分を納得させています。
こうしてみると超便利な言い訳に使われていたのですね、物の怪😮
(光る君へのまひろは物の怪の仕業にせず、正直に夫に告白しましたどすぇ。
夫も分かっていてまひろの全てを受け入れるところも凄いどすなぁ)
藤壺に男皇子が誕生と聞いたあのうんち弘徽殿女御は
「ふん、さてどのようなお子がお生まれやら」と敵対心丸出しの反応どすぇ
さて、光源氏の姿は三条藤壺邸にあります。
王命婦が応対しています。
「源氏の君さま、ようこそのおなりで」
「帝が早く息子と対面したいと申されるので、まずは私めがお逢いしてと思いまして」
と光源氏。そりゃ、光源氏の息子なのでいの一番に会いたいどすわなぁ。
「お伝えしましょう」と王命婦。
寝殿の塗籠(ぬりごめ)に起居している藤壺に
「源氏の君がお越しでございますが・・・」と伝えます。
藤壺は生まれたばかりの赤子を抱きながら
「お生まれになったばかりなのでまだ無理と」と答えながら
「源氏の君にこれほど生き写しとは・・・・、私が気をしっかり持たねばこの皇子の行く末が・・・・」
とあくまで帝の子として育て上げる決意を心に誓います。
光源氏は
「なぜ一目だけでも」と残念がりますが、王命婦が
「そのうちお目にかかれることですから」と慰めます。
内裏、4月 藤壺が赤ちぁんを連れて内裏を訪れています。
女房たちが
「藤壺様の若宮がご参内でございます」
「またとないご器量でお育ちもお早くて、もう起き返りあそばすそうです」と帝に案内をしています。
帝は若君を抱きあげ
「ほれほれ何と愛らしい」
そして目の前に控えている光源氏に
「(私に)息子は大勢いるが私はお前だけをこのように明け暮れ見ていたのだよ」と話しかけます。
光源氏は
「ありがたいことでございます」とかしこまっています。
若宮の顔を嬉しそうに見ながら、帝は
「そのせいだろうか、この皇子は実にお前に似ている」
「幼い頃は皆こうかな」と率直に感想を漏らします。
これを側で聞いた光源氏と藤壺は「ギクッ!🤐」と生きた心地がしないのどすぇ。
その夜、二条源氏邸に戻った光源氏は
「空恐ろしいほどにお可愛らしい皇子だった」
「ああ・・・(あれほどまでに自分に似ているとは・・・)」
「胸がやるかたない、これ今夜は左大臣邸(妻の葵の上)へ参るぞ」とお付きの女房に伝えます。
ふと庭の見ると常夏(なでしこ)の花が咲き始めています。
光源氏はこの花に添えて藤壺に歌を送ります。
「よそへつつ 見るに心は 慰(なぐさみ)まで 露けさまさる なでしこの花」
(この撫子の花をあなたになぞらえてみましても心は慰められず 花の上の露にもまして 涙が溢れるばかりです)
すると直ぐに藤壺から返歌が返ってきます。光源氏の歌を読み、筆を取って書き記し従者に手渡したどすぇ。
「袖ぬるる 露のゆかりと 思ふにも なほうとまれぬ やまとなでしこ」
(この大和なでしこ(若宮)が私の袖を濡らす露の縁と思っても、それでも恨む気にはなれません)
藤壺さんも光源氏に心を寄せていたどすぇ。
藤壺からの返歌を読み
「ああ、珍しくお返しを下さった。けれどなんと悲しい・・・」と珍しく気持ちが落ち込んだ光源氏は
「気散じには若紫と遊ぶに限る」と笛を持って若紫の居る西の対を訪れます。
すると若紫は源氏から顔を背けて、うつ向いています。
「おや、どうなさいました」
「さあ、こちらへ」と誘う光源氏。
若紫は光源氏のほうを寂しげに見つめて
「入りぬる磯の・・・」と小声で話しかけます。
「入りぬる磯の」は万葉集の
「潮満てば入りぬる磯の草なれや 見らく少なく恋ふらくの多き」の一節で、稀にしか訪れない光源氏をさりげなく恨む思いが込めらているどす。
これを聞いて光源氏は
「心憎いことを、そうしたことをおっしゃるようになったのですね」
と若紫の女としての成長を微笑ましく思いながら
「けれどみるめ(海草のこと、見る目とかけている)にあくはよくありませんからね」
と古今和歌集の
「伊勢の海 人の朝な夕なに潜くてふ みるめに人を飽くよしもなが」
の一節を話しかけます。
「みる」という言葉を海草とかけて、あなたを飽きるほど見る方法があればよいのだがずっと見ていたい、逢っていたという気持ちの歌を逆にとり、いつもいつも満足するほど見るのはよくないのだ、たまに見るからこそ喜びも大きいのですと教えています。
う~ん、万葉集や古今和歌集が出てくると解釈が難しおすぇ😥
「さあ琴でも弾いて下さい、筝(そう)の琴は中の細尾の切れやすいのが面倒でして」と光源氏は琴を音叉なしで素早くチューニングし、若紫に弾き方を指南し始めます。
女房たちはこの様子を
「お優しくお教えになられること」
「姫君は覚えがお早いわ」と感心しながら見ています。
廊下で光源氏が葵の上の元に出かけるのをずっと待っていた惟光は、コホンと軽く咳をしてから
「雨が降りそうな気配ですが」と声をかけます。
「今宵は出かけぬことになった」と疲れて光源氏の膝元で寝てしまった若紫をいつくしみながら答えます。
正妻の葵の上より、若紫の可愛らしいが上回ってしまった光源氏どす。
現代でもよくある浮気のパターンどすぇ🤷♂️。
さて帝の耳にも、光源氏が女性を囲っているとの噂が聞こえてきます。
スキャンダルに近い噂ほどあっという間に広がるのは、いつの時代も同じどす。
内裏、清涼殿
光源氏は父である帝と対面しています。その横には帝のお世話をする女房の筆頭格である源典侍(げんのないしのすけ、御年57歳と極めて長寿)が控えています。
「二条の邸に誰か人を引き入れているという噂だが、左大臣(葵の上の父)が気の毒とは思わないか。」
「一人前でなかった頃から世話してくれたことを考えてみよ」とあくまでお世話になっている左大臣に失礼だろうと光源氏に説教しています。
帝は視点が違い妻の葵の上がかわいそうだとは言わないところが、おもしろいどすぇ。
光源氏は妻の葵の上や義理の母からこの件で目の敵にされていますが、義父の左大臣の立場も考えてやれと言われたのは初めてでしょうねぇ。
平安貴族は何人の妻や愛人の元に通っても、文句はいわれなかったようですが、家に女性を引き取るのはどうも次元が違うとみなされていたようどすぇ。
光源氏は「はい」とだけ、答えます。しかし、あの可愛らしい若紫を手放すつもりは毛頭ありませんどす。
帝は「さて、装束を改めよう」と面会用の着物から着替えに退出します。
すると源典侍御年57歳が、「森の下草おいぬれば」と書き入れた扇子を光源氏に手渡します。
「森の下草おいぬれば」は古今和歌集
「大荒木(おおあらき)の森の下草老いぬれば 駒もすさめず狩る人もなし」
(そこ(陰部の意味どす🤔)の下草が枯れたので、馬も食わず刈る人もない。要するに年取って誰も相手にしてくれないの意味どす。確かにおばあさんをナンパする人は財産目当て以外にはいないでしょうねぇ。介護の面倒を看させらたらたいへんどすけんねぇ。でも女性にとっては残酷な真実かも😰)
それを読んだ光源氏は
「森の下草老いぬれば・・・・か、森こそ夏のやどりなるらめ・・ですね」と答えます。
「森こそ夏の・・・・」は信明集の「ほととぎす来鳴くを聞けば大あらきの森こそ夏のやどりなるらめ」の一節で、ほととぎすに、大荒木の森(源典侍のところ)に通う男たちをたとえ、貴女のところに通う男はたくさんいるでしょう。私などとてもその中の一人には入れてもらえませんの意味。
すると源典侍は
「君し来ば手なれの駒に刈り飼はむ さかり過ぎたる 下葉なりとも」
と光源氏に色っぽく一夜の共をいかがでしょうと誘ってきます。
(あなたがおいで下さるならばお召の馬にご馳走しましょう。盛りを過ぎた下葉ではありますが❤️)
源典侍は人柄もよく、才気もあり、上品で、人のおぼえも高いが、たいそう好色じみた性分で、光源氏は、こんな年になってまでどうしてこんなにもお盛んなのだろうと興味深く思ってますぇ。
戯れ言を言いかけて試してみると、源典侍はそうした好色さが自分の年に似つかわしくないとも思っていないスーパー元気なおばあさんどす。
光源氏の返歌は
「笹分けば人や咎めむ いつとなく 駒なつくめる 森の木がくれ」
(笹を分けて入っていったら、人が咎めるでしょう。いつもたくさんの馬が懐いている、森の木陰たる貴女のことだから🤷♂️)
「それがわづらはしいのです」といって光源氏が立ち上がると、源典侍は光源氏の袖をひかえて、
「このような物思いは初めてでございます。この歳で今さら恥ずかしいことですよ」といって泣くのどすぇ😅。老いても色恋ざたで泣けるこの女性は凄いキャラどす😮
着替えが終わった帝は二人のこのやり取りを聞いており
「ははは」
「光源氏を堅すぎて困ると思っていたがそなた(源典侍)を見過ごしはしなかったか」と言っておもしろそうに笑っておます。
さてこの二人のやり取りは、すぐに女房連中たちの間で噂になり
それを聞きつけた頭中将が
「やや!!光源氏が源典侍と・・・」
「さすがの私もあの女にはまだだった」と光源氏とは女性関係のライバルという闘争心が沸き出てきます。
そして源典侍と男女の関係を持ちます。オフィスラブどすな。
(何と行動が素早い頭中将😮😮)
これまた直ぐに内裏で噂になり、光源氏の耳に入ります。
「なに、頭中将が源典侍と懇ろになったとな。これはまた・・・・・」
しかしながら源典侍の本心は、あのつれない人(光源氏)と逢えないことの慰めとして(頭中将と関係を持とう)と思いますが、やはり逢いたいのは光源氏なのどす。
それゆえ、源典侍は光源氏を見つけると、まず恨み言を言うのどすぇ。女心とは怖いものどす。
それでも光源氏は源典侍の高齢を思うと気の毒なので、慰めようと思いますが、あまり気が進まないので、しばらく顔を合わせないようにしています。
ある日の夕方、光源氏が内裏内を歩いていると琵琶の音が聞こえてきます。
「源典侍か。帝の御前でも男に交じって負けない腕前だ。実に見事」
琵琶をひきながら源典侍が情を込めた歌をしみじみと歌いあげています。
弾き終わって、たいそう深く思い悩んでいる様子なので、光源氏は催馬楽の「東屋《あづまや》」を低く謡って、源典侍に近づくと
「おし開いて来ませ」(私の元に来てぇ~)と源典侍が歌を合わせてきます。
続けて
「立ち濡るる・・・・・」
(立ち寄って濡れてくれる人などいないだろう東屋に、恨めしいことに雨だれが降り掛かっていることですよ。)
と嘆きます。光源氏は、私一人が老人の嘆きをきいてやることもないだろうに、嫌なことだ、何事をここまで言うのかなぁと思います。
光源氏は
「人妻は・・・・」といって、そのまま立ち去ろうとしますが、それはあまりに無愛想かと思い直します。
(人妻は、ああ面倒だ。東屋の、真屋の軒端に立つようには、あまり慣れ親しまないようにしよう)
源典侍とすこしはずんだ冗談など言い合って、こうしたこともたまには一興だと思い直していますどす。
その様子を頭中将に気づかれてしまいます。頭中将は光源氏にいたずらをしてやれと思いたち、二人が夜横になるのを待ちます。
そして刀を抜いて、二人の所に押し入ります。
驚いたのは源典侍、彼女の夫が殴り込んできたのかと勘違いして
「あなた、あなたぁ~」と大声で叫びます。
光源氏は頭中将のいたずらであることを見抜いています。大の親友ですからねぇ。
光源氏と頭中将は互いに顔を見合わせて
「くくくく」
「やぁ」と爆笑します。
「まったく正気ですか、頭中将」
「あははは、見破られたぁ」
光源氏が直衣(平服)に着替えようとしますが、頭中将が
「そのままでいいじゃん」
と袖を引っ張ると服が破れてしまいます。ビリ。
光源氏がお返しだと言って、頭中将の服をビリ。
こうして互いの服をビリビリ破きながら、二人は楽しそうに去っていきます。
その様子を源典侍は「若いっていいわねぇ」となかばあきれ顔で見送っています。
内裏 藤壺の宮が皇后になり、光源氏は宰相(参議で近衛中将を兼ねる)に昇格します。
藤壺の立后後初めての参内が特別な儀式として盛大に執り行われ、藤壺は大勢が担ぐ華やかな神輿に乗り大勢の従者と共に参内してきます。
宰相としてこの儀式に参列した光源氏は
「尽きもせぬ 心の闇にくるるかな 雲居に人を 見るにつけても」
(どこまでも尽きることのない心の闇に目が眩むばかりです。雲の上の人となってしまったあなたを見るにつけても)
と帝を欺き続けなければならない良心の呵責を吐露します。
若君出生の秘密は光源氏、藤壺そして王命婦の3人で死ぬまで隠し通さなくてならないのです。
おも~~~いどすぇ。
第七話完どす。
第八話 花宴(はなのえん)
光源氏20歳の春
二月の二十日すぎに、南殿(紫宸殿)で桜の宴が催されます。
あの、うんち弘徽殿女御は、中宮(藤壺)がこんなにも高く扱われてことを、何か行事があるたびに思い知らされて心穏やかではありません。
中宮(皇后)は、女御より格が上なのでいたしかたありませんがね。
(でも実は藤壺も桐壺のように殺したるでぇ~と思っているかも🤐、こわぁ~い)
そうはいっても今回のような素晴らしい物見を見たさに宴に参列しています。
「どんなんかなぁ~、何が見れるのかなぁ~」
この日はよく晴れて、空のようす、鳥の声も心地よげです。It’s a beautiful day!!
親王たち、上達部から始まって、詩文の道に心得のある者たちは、みな探韻を賜わって漢詩を作ります。
注:探韻/詩会で、列席者が韻にする字(句末で韻を踏んでいる字)を出し、くじ引きで1字ずつをもらい受け、漢詩を作ること。平安時代、花宴などの際に行われた。
光源氏は詩文の才能の豊かさをこの宴でも存分に発揮して、人々の感嘆を誘います。
宰相中将(源氏の君)が、「春という文字を賜りました」と発表する声さえ、並の人とは違って聞こえてきますぇ。
また、光源氏は春鶯囀(しゅんおうでん)、頭中将は柳花宴(りゅうかえん)という舞を舞いますが、宴はさながら二人の独壇場であり、人々を大いに魅了します。
この二人は平安芸能界の大スターなのです。
昭和ならこんな感じですかねぇ。懐かしい~い😍
わざとらしい「YOUNG」の文字が時代を感じさせますね。レッツゴーヤングとかヤングオーオーとかの番組ありましたね。
今、ヤングなんて言おうものなら即刻高齢者扱いされてしまいますねぇ😅
さて、問題は大盛会で宴が終わった夜。光源氏がその本領をまたまた発揮しますどすぇ。
皆が寝静まった後、光源氏は何とか藤壺と密会するすべはないかと宮中の庭をさまよい歩いていると、弘徽殿の三の口が開いているのを見つけます。
「おや、三の口が開いている。弘徽殿女御は今夜は帝とお寝んねだと聞いたが不用心なこよ」
(弘徽殿女御もたまには帝にお相手してもらえたようどすぇ、藤壺ばかり寵愛していると恐ろしい女の闘いの元になることを帝は分かっていたのでしょうね)
「奥の枢戸(くるるど、回転式の扉)も開いている。皆、寝ているようだな」
と思ったその時、
「朧月夜に似るものぞなき♫」
と若い女性が歌を歌いながら歩いてきます。咄嗟に光源氏のいい女センサーが反応し、ナンパ開始。藤壺に逢いたくて徘徊していたのに、当初の目的を瞬時に忘れ去るところが光源氏の常人離れしたところどすなぁ~。
「もし」と若い女性(この後、彼女は朧月夜(おぼろづきよ)と呼ばれます)の袖を掴みます。
「まあ、怖い。どなたですか?」
光源氏は
「深き夜の あわれを知るも 入る月の おぼろけならぬ 契りとぞ思ふ」
(あなたが夜更けの風情を感じられるのも 入り際の朧月夜に誘われてのことでしょう。
同様に誘われてきた私と出逢ったのは並々ならぬ約束事と思います)
要するに、初めて出逢った女性に私とあなたは赤い糸で結ばれていますと迫ったのどすぇ。今ならストカー行為で完全のアウトどす👎
それを聞いて朧月夜は相手が「光る君」だと悟ります。
光源氏は続けて
「お名前を聞かせて下さいな。このままではお手紙がだせませんからね。」
今ならLINE ID教えてといったところですね。
朧月夜の返歌です。
「うき身世に やがて消えなば 尋ねても 草の原をば 問はじとや思ふ」
(不幸せな私がこの世から今すぐ消えてしまったとしたら、貴方は私の名前を知らなくても、草の原をかきわけて、訪ねてきてはくれないのかと思います)
光源氏は朧月夜を抱き寄せて枢木1を閉めてしまいますが、夜が明けて女房たちが動きだす気配がするので、あわただしく扇を交換して別れます。
光源氏は宿直所に戻りますが、なかなか寝付けません。
その気配を察知した女房たちは
「光る君ときたら今お帰りですわ。ご熱心な忍び歩きですこと」
と今夜は一体どの女性と契ってきたの?と小声で噂話をしています。
壁に耳あり、障子に目あり。
光源氏は早速優秀な探偵の惟光(これみつ)に朧月夜の正体を探らせます。
惟光は直ぐに調べて、朧月夜があのうんち弘徽殿女御の妹であることが判明します。
その報告を聞き、光源氏は
「やはりそうか。これは面倒だなぁ・・・。扇を取り交わしたのは五の君か六の君、どちらかだろう。」
弘徽殿女御は右大臣の娘です。その政敵である左大臣の娘、葵の上の婿である光源氏が朧月夜に近づけば政権がらみのトラブルは必至。
「朧月夜の父君の右大臣の耳に入って、右大臣から大袈裟に婿扱いされるのも煩わしいしまだ人柄もよくわからないし・・」
(自分から朧月夜に言い寄っておいてまだ人柄もよくわからないしとはよくぞ言えたものである。紫の敷布 心の声)
でも光源氏は朧月夜がいとしくて仕方がありません。
「世に知らぬ 心地こそすれ 有明の月の ゆくへを 空にまがへて」
(今まで経験したことのない、切ない気持ちがしますよ。有明の月のゆくえを空の途中で見失ってしまって)
と交換した扇に歌を記します。
花宴のひと月後、三月二十日に右大臣邸で藤の宴が催されています。
宴に招待された光源氏の目的は、当然朧月夜に会うことです。
芸達者な光源氏は飲み過ぎた振りをして
「ああ、苦しい。お酒を無理強いされて・・・こちらで隠れさせて下さい」
と姫君たちがいる寝殿に上がりこみます。
姫君たちは
「まあ困ります。(光る君のような高貴な方が)まるで下ざまの者のように・・」
と騒いだところで、頭の良い光源氏は
「扇を取られて辛きめを見る」
と学のある人のみが分かる冗談を言います。
催馬楽「石川」の一節を言い換えたもので
「あら、それなら扇でなくて帯でしょう。高麗人(こまうど)に帯をとられて辛き悔・・・ですわ」と姫君たちとその女房たちが
「変わった高麗人ですこと、ホホホ」
と皆笑いますが、ただ一人笑わない姫がいます。
そう朧月夜です。扇を交換した覚えがあるので、「私のことだわ」と直感して皆と同じように単なる冗談として笑えません。
(紫式部の物語の内容には、ほんとうに感心しますね。このようなシーンをよく思いつくものですね)
早速、朧月夜に歌を送ります。
「あづさ弓いるさの山に まどふかな ほのみし月の 影や見ゆると」
(いつぞやほのかに見た有明の月の姿を再び見られぬものかと、いるさの山をさまよっております)
朧月夜の返歌
「心いる方ならませば ゆみはりの つきなき空に 迷はましやは」
(ほんとうにお心にかけてくださっているのなら、月のない空でも見当違いの部屋にお迷いの筈はありません)
しかし、後にこの朧月夜との関係が発覚し、光源氏は窮地に追い込まれていくことになります。
花宴 おしまいおしまい👋
- 「枢木」を名詞で「くるるぎ」と読むときの意味は、「ドア(戸)に取り付け敷居に差し込む形にして、戸締まり(鍵かけ)ができるようにした木」になります。 ↩︎
第九話 葵(あおい)
第八話花宴から2年の歳月が経っていますどす。
光源氏22歳、今なら平安大学政治経済学部芸能科の4年生どすぇ。
ちなみに葵の上26歳、紫の上14歳、六条御息所29歳の頃の物語どす。
その間に、光源氏の父桐壺帝は譲位しうんち弘徽殿女御との一宮(長男)の朱雀帝が即位しています。
これに伴い次期帝となる東宮には、藤壺の皇子(父は光源氏)が立ち、光源氏と藤壺の不義を知らない桐壺院(譲位した桐壺帝のこと)はその東宮の後見に光源氏を任命します。
また弘徽殿女御は右大臣の娘なので、政治的権力も光源氏が婿となった左大臣から右大臣に移っていますどすぇ。
光源氏は右大将(宮中の警固などを司る左右の近衛府の長官。左近衛府には左近衛大将(さこんえのだいしょう)、右近衛府には右近衛大将(うこんえのだいしょう)が置かれ、それぞれ略して「左大将」「右大将」ともいい、左大将がより高位である。定員は各1名で権官はない。常設武官の最高職で、馬御監の兼任とされた。)に出世し、軽々しく忍び歩きをするのも控えるようになります。
光源氏のお忍びが減り、多くの女性が心細い夜を過ごすことになり、お供の惟光も忍び先の女房を口説く楽しみが無くなり残念そうです。
(光源氏はいったい何人の女性の元に通っていたのどすかねぇ??😮、両手・両足では収まらない?🤔🤔🤔、まぁまだ二十歳前後の元気な若者ですからねぇ)
そんな折、六条御息所の娘が斎宮に任命されます。
(斎宮:伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女または王女)
六条御息所は光源氏があまり通ってこず心細く思っており、この機会に自分も伊勢に下ってしまおうかと考えているという噂が桐壺院の耳に入ります。六条御息所は桐壺院の弟のお嫁さんだったので、弟が早逝した後も何かと彼女を気にかけてますどすぇ。
桐壺院は光源氏を呼び出し
「御息所は亡き春宮が愛されたお方。そなたが粗略な扱いをしているそうだが、まことに可哀そうな事。気まぐれでこのような色事をするのは、世間の批判を受けるべきこと…」
「女性に恥をかかせることなく、どの方とも親しくして、恨みを受けないようにしなさい」
とご説教。
光源氏はなるほどと思い当たる事もあるので(そりゃそうどす!!自分の非をきちんと受け止める所は、元兵庫県知事も見習ってほしいおすぇ)
「あいわかりました・・・」
と神妙に答えます。
でも面白いのは、桐壺院となって帝を退いた後は、一層絶え間なく藤壷が桐壺院のお側に寄り添って、何はばかることなく一緒に暮らしているので、新皇太后(弘徽殿・こきでん)は、それを大層不愉快に思っている点です。桐壺院も実の所は「女性に恥をかかせることなく、女性に恥をかかせることなく、どの方とも親しくして、恨みを受けないようにしなさい」にはできていないのどすぇ。
いやぁ~、客観的に眺めればめっちゃ面白い親子の会話どす😮
六条御息所は
「院のお耳に入るほど噂は広まっているのに、源氏の君はつれなくなさる。年甲斐もなく胸が乱れる・・・・」
と光源氏への思いが断ち切れずに苦しい日々を過ごしています。
左大臣邸に光源氏が訪れ、妻の葵の上と対面しています。
「ご気分はいかかですか」
と光源氏。
「初めての懐妊で少々疲れております」
と葵の上。
「お大事になさって下さい」と声をかけて光源氏は退出します。
葵の上の心細げな様子を見て、光源氏は妻をいとおしく思います。
妻を愛おしいということは、必然的に六条御息所を訪れる気持ちも萎えてきて「女性に恥をかかせることなく、どの方とも親しくして、恨みを受けないように」とはいかなくなります。
そんなおり、加茂神社の斎院(加茂神社に奉仕する皇女または女王で独身を通す決まり)に皇太后(弘徽殿)の娘の女三の宮が立つことになり、その儀式が加茂の祭の時に盛大に催されることになります。
賀茂の祭の折、公事 にさらに多くの儀式が付け加えられ、見どころ沢山です。御禊(ごけい)の日(祭の前日賀茂川で行われる禊 (みそぎ)の儀式)上達部(かんだちめ)など特に人望が高く容貌の優れた方々が、下襲(したがさね) の色や表袴(うえのはかま) の紋、馬・鞍まで全てに見事に整えて仕えます。
(上達部:かんだちめ、摂政、関白、太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、大納言、中納言、参議、及び三位以上の人の総称。参議は四位であるがこれに準ぜられた。)
さらに宣旨(せんじ・天皇の勅命)によって、源氏の大将も仕えることになり、スーパスター光源氏を一目見ようと地方からも多くの見物客が訪れ加茂神社のある一条大路は人でごった返しています。
内裏の行事を一般の人が見る機会はないのですが、今回の賀茂の祭では光源氏含む多くの貴族が着飾って行列を組むので、それはそれはすごい人気です。
「これが平安貴族かぁ~」 平民には拝む機会すら殆どなかったのどすぇ~。
左大臣邸では加茂の祭りには行く気がない葵の上に対して、彼女の女房たちが
「お気晴らしにお出かけ下さいまし」
「上達部(かんだちめ)など衣や馬までご立派に調えられてそれは見ものでございます」
「それにもちろん源氏の大将も帝の宣旨で特別にお出になります。ご正室の葵の上がご覧にならないのはあまりにも残念でございます。」
女房たちも見たくて見たくて仕方がないので、必死で葵の上を説得しています。
これを大宮(葵の上の母君)が聞いて、
「ご気分も良い頃です。お仕えする人々も残念がっていますので、お出かけなさいませ」とお勧めし、供人にもお仕えするよう仰せになりましたので、皆で祭り見物に出かけることになります。 鶴の一声どすえ。
葵の上とその女房たちを乗せた高級牛車(馬ならフェラーリなのにね)は大混雑の一条大路に入り、御禊(ごけい)の行列を見る事ができる場所に向けて先に着いている車をどかせながら進んでいきます。
「どいたどいた、左大臣家のお車だぞ」
身分の高い女房の車が多い中で、牛車に付きそう人のいない車を見定めて、立ち退かせていると、その中に網代車(あじろぐるま)で少し古びてはいるものの、下簾の様子など趣の深く、大層控えめな物見車が二台あります。六条御息所が物思いの気慰めになるかと、出かけてきていました。簾の下から見える袖口や裳(も)の裾や汗衫(かざみ・平絹)など、その色合いが大層清らかに美しく、誰と知られないようにと、なにげない様子を装っていますが、自然に誰か解ってしまいます。
酔った左大臣家の車の供人を誰も止める事ができなくなり、六条御息所の車を無理やり行列の見えない位置まで押しどけてしまいます。車の一部も壊れてしまい、みじめな姿に!!
六条御息所は直ぐに帰ろうとしましたが、混雑で身動きがとれません。
忍びできたのに、正体が明かされた上にこの仕打ち!!自分が情けなくて仕方がありません。(Youは何しに加茂の祭りに??)
しかし、「行列が来た!」との声が聞こえると源氏の君を一目見たいという気持ちが湧いてきて、ああ・・・、女心の何と弱いことでしょう。
光源氏は女房たちが乗っている多くの車の前を何気ない顔つきで通りますが、時折微笑んでいる車もあります。
忍び歩きしたことのある姫君なのでしょうねぇ~、このスケコマシ~。
左大臣家の車の前では当然葵の上を意識して、「はぁ~い、ハニー」とは言わずに真面目な表情で通り過ぎていきます。多くの供人たちも失礼のないように畏まり見送っています。
六条御息所は葵の上に圧倒された自分の立場を、この上なく悔しく思い涙します。
「影をのみ みたらし川のつれなきに 身のうきほどぞいとど知らるる」
(影をのみ写して流れる御手洗川のような源氏の君のつれないお振る舞いに
水面に浮かぶうき程度の我が身の儚さがいよいよ思い知らされました。)
悔しさに涙がこぼれるのを、人に見られるのはきまりが悪いが、目にも眩しいほど立派な光源氏の姿や容貌を見なかったなら、もっと残念だったろうとも思いました。
光源氏にとことん惚れているのです。罪つくりな源ちゃん!!
行列は、供人それぞれの身分に応じて、装束や身なりを立派に整えてありますが、光源氏輝く美しさは、完全に他を圧倒しています。まるで大谷翔平どすな。
その随身たちも容貌・姿など眩いほどに立派で、世間に大切に尊重されておられる光源氏の様子は「木草もなびかぬものはあるまい……」と思われるほどどすぇ。
普段見ることのないつまらぬ受領の娘など(まひろの身分の女性たちですね)でさえ、精一杯飾りたてた御車に乗り、わざとらしく気取っているのも、それぞれに興味深い見物です。
まして光源氏がお忍びで通っている女性の中には、自分がものの数でないことに気付いて、心から嘆いています。
光源氏のモテ度は桁外れですなぁ。平安の大谷翔平!!またはBTSが兵役で活動を止めている間にのしてきたセブンチか!!
(家内が大ファンで毎日、YouTube見て喜んでますまんがな😅)
さてこの場所取り争奪戦の騒ぎは光源氏の耳にも入り
「葵の上の情味の乏しいところが下々の者にもそうした横暴をさせるのだろう・・・」
「御息所は大層慎み深く上品なので、どんなにか気落ちなさったことだろう……」と、いとおしく思い、御息所を訪ねます。
ところが、「斎宮(姫君)がまだおいでになりますので……」と榊の神事への遠慮を口実に、御息所は対面しません。
光源氏は当然のことかと思いますが、
「どうしてだろう。そんなに角張らずにおいでになれば良いのに……」
とつぶやきます。
そう、御息所は愛され上手ではないのです。
歳上でプライドも高いので
「あぁ~ん、怖かったぁ~ん😭」
とぶりっ子して素直に甘えられないのどす。
ここで読者の皆様にアンケートです。
もしあなたの彼氏が7歳年下だとしたら、
A : 何でも素直に甘えられる。
B : 甘えたいが、躊躇する場面が多い
C : かかあ天下を目指しているので、女王様のように命令調で接する
D: 若い女と浮気されないよう、何かと縛りつけておく(自由に行動させない)
LINEも毎日チェックする😅
E: 若い女に負けないよう、いとう らん先生とマイナス10歳を目指して美容にいそしむ。
F: 若い女には負けるはずがないので、自信を持って彼を愛する。
お答え、お待ちしております。
さて日にち変わって祭りの当日。
二条院源氏邸では光源氏が若紫とその女房たちに
「さあ加茂の祭りに出かけましょう。可愛い女房たちも出かけるのかな」
と話しかけています。
若紫の髪が久しく削がれていない事に気が付いた光源氏は
「私がお削ぎしよう」
と器用に若紫の髪を整えていきます。光源氏は美容師もできるのですねぇ。
「はかりなき千尋の底の海松(みる)ぶさの 生いゆく末は 我のみぞ見る」
(測ることのできないほど深い海底の海松ぶさのように、
この黒髪の伸びゆく末は,私ただ一人で見守りましょう)
光源氏が詠むと、
「千尋ともいかでか知らむ定めなく 満ち干る潮ののどけからぬに」
(千尋までも一人で見守るなどと、どうして信じられましょう。
満ち干る潮のように頼りない貴方様を……)
と、若紫が返します。
歌の詠みぶりは、なかなか洗練されていますが、まだまだ若々しく可愛らしいのを心から愛しく思う光源氏なのでした。(今日のワンコみたいな言い方どすぇ)
さて加茂の祭り見物では意外な女性(紅葉賀で光源氏に言い寄って関係を持とうとした典侍(ないしのすけ)おばあちゃん)と出逢い、祭り見物の一等席を譲ってもらいますが、話が長くなるので割愛します。
さて六条御息所、御禊(ごけい)の行列の車争いでの口惜しいさがつのる日々を過ごしています。
左大臣邸では葵の上の容態が芳しくなく、著名なお坊さんたちが祈祷を唱えています。
当時は病気は物の怪がとりつくのが原因と考えられており、祈祷でその物の怪を取り払うという行為が普通に行われていたどす。
(確かに地震、台風、大雨、干ばつ、落雷などきちんと説明できない自然事象が身近に起きると、物の怪のせいとしか考えようがないどすねぇ)
女房たちは原因はある方の生霊(いきすだま)ではないかと噂しています。
この噂が六条御息所の耳にも入り
「まさか噂どうり、わが怨念が左大臣邸に?」
「こんな噂を立てられて何と辛い運命、生霊とは罪深く恐ろしいことなのに・・
すべて源氏の君とのことを思い患いすぎてのことなので、もうこれ以上は、思うまい」と決心します。
女房が、葵の上が早くも産気づかれたと光源氏に報告します。
葵の上はもう生息吐息の状態で、
「御祈祷を少しゆるめて下さい。大将(光源氏)にお話ししたいことが・・・」
と生き絶え絶えに話します。
葵の上の両親も、もういよいよ・・・・と悲しんでいます。
光源氏は
「私につらい想いをおさせになる」
と涙を流しています。
「あまり深く思いつめられますな。前世の深い縁があれば生まれ変わってもまた・・・」
と光源氏が葵の上に話しかけると
「なげきわび空に乱るるわが魂(たま)を 結びとどめよ下がひのつま」
(嘆きに堪えかねて空をさまよう私の魂を着物の褄をむすんで結び留めてほしい。)
との声が聞こえてきますが、それは葵の上の声ではありません。
光源氏には聞き覚えがある声、そう六条御息所の生霊がとりついていたのです😮
(ああ~ん、怖い~~~ん)
物の怪のついた声が少し静かになり、葵の上は男の子を無事出産します。
「おぎゃあ🙅♂️」
産婦にとりついた物の怪はいったん憑巫(よりまし、神霊を乗り移させる人形等)にのり移らせ、米を撒いて悪鬼を追い払います。
後産も滞りなく済み、
「なんとか無事に済みましたな」
と葵の上の両親(左大臣)もほっとしています。
葵の上、無事出産の報を受けた六条御息所は
「それはまあ忌々しい」
と吐き捨てます。
ふと自分の衣の匂いを嗅ぐと芥子(けし)の香が染みついています。
(注:物の怪を退散させる護摩には、芥子の実を油などと一緒に焚く)
「ああ情けなや、自分の生霊が・・・・」
と嘆くのでした。
光源氏は無事出産して横たわる葵の上に
「若君誕生を院(光源氏の父)に報告して直ぐに戻ってきます」
「ちゃんとお薬を召し上がって下さいね。母君に甘えてばかりでは、いつまでも治りませんよ。」「もう、あなたは母君なのですから」
と話しかけると、葵の上は素直に小さな声で
「はい・・・」
と答えます。
結婚後、初めて見る光源氏と葵の上の仲睦まじい姿に女房たちもニコニコしています。
「行ってらっしゃいませ・・・」
と葵の上。でもこれが、葵の上の最後の言葉になってしまうのどすぇ😮。
その夜、葵の上の容態が急変し亡くなってしまうのです。😭
訃報に触れた光源氏は
「なぜ私は気まぐれな浮気などして恨まれるようなことばかりしてきたのだろう・・・」
「長い年月、あの方は私をよそよそしい夫と思われたままで亡くなられてしまった」
とひどく落ちこみます。(浮気はやめられないのに、後悔先に立たずどすねぇ)
光源氏は、鈍色(みびいろ)の喪服を着ていても、まだ信じられない心地がして(もし私が先立っていれば、葵の上は喪服の色をもっと深い色に染めただろうに……)と思い、
「限りあれば薄墨衣 (うすずみごろも)あさけれど 涙で袖を淵となしける」
(喪のきまりがあるので、私の喪服は色が薄くて愛情も薄いようだが、私の悲しみは大層深く、涙が袖を深い淵の色にしたのです)
光源氏が慣れないひとり寝(いつもは色々な女性と夜を過ごしていたのどすぇ)で秋の夜長を過ごしていると、明け方に今にも咲きそうな菊の枝に濃い青鈍色(あおにびいろ)の紙の手紙を結びつけて、誰かが置いて帰ります。(郵便でぇ~す)
光源氏は、
「今風の粋なことをするものよ」
と手紙を見ると、六条御息所の筆跡です。
「長くお便り申し上げなかった間のことは、ご推察くださっておられましょうか。」
「人の世をあはれときくも露けきに おくるる袖を思いこそやれ」
(人の世の無情を聞きましても、菊に露が下りるように涙がこぼれます。
まして残された貴方様の袖は涙で濡れていることとお察し申し上げています。)
光源氏は心の葛藤があるもののわざわざ送ってくれた便りに返事をしなくては情けなかろうと、
「長くご無沙汰してしまいました。いつも心にかけておりましたが、喪中ですので、遠慮申し上げておりました。」
「とまる身も消えしも同じ露の世に、心おくらむほどぞはかなき」
(後に残された身も亡き者も同じです。はかない露のようなこの世に心を残すのは、
空しい事です。)
六条御息所は里の自邸に居たので、忍んでこれを読みますが、光源氏が生霊のことを暗示しているのを、はっきりと理解して、
「やはり、ご存じだったのか……、私の生霊が葵の上を死に追いやったのを・・・」
と、自分を責めます。
葵の上の法要が済み、49日まで光源氏は左大臣邸に籠っています。
慣れぬ退屈な日々を気の毒に思って、頭中将(葵の上の兄)はいつも光源氏の側に来ます。(ナイスガイどすな👍)
世の中の物語、真面目なこと、いつもの浮気話などをして慰めていますが、かの源典侍 (みなもとのないしのすけ)のことが笑い話のタネになります。
(あのおばあさん、色々と凄いどすからねぇ)
光源氏は「気の毒なことよ、あのお婆さまのことを、そんなに軽く見てはいけないよ」と頭中将を諌めるものの、いつも可笑しく笑いそうになります。
お互いに包み隠さず話をするものの、果ては無情な人の世を嘆いて、ついつい泣いてしまいます。
光源氏は夫婦としてはあまりうまくはいかなかった正妻の葵の上を真剣に愛していたのですね。
この気持ちがプライドの高い六条御息所を正妻として扱わず怨念をかうのですが・・・・・
時雨が降って、ものあわれな夕暮れ時、
頭中将も大層悲しい眼差しで、空を眺めています。
「雨となり時雨る空の浮き雲を いづれの方とわきてながめむ」
(雨となって時雨を降らせているのだろう。空にわく浮き雲のどれを
亡き妹・葵の上の魂とながめようか)
と独り言を言います。これを聞いて光源氏は、
「見し人の雨となりにし雲居さへ いとど時雨にかき暮らす頃」
(亡き妻の魂が、雨となってしまった空をみつめ、涙を流して暮らす今日この頃です)
と詠みます。
光源氏は葵の上の女房たちに幼い若君(夕霧)の世話を頼んで、左大臣家を後にします。
女房たちも寂しくなると悲しんでいます。紫の上の代わりに夜のお相手をしてきた女房はとりわけ別れを惜しんでいます。
(う~ん、光源氏はどこへ行ってもモテモテどすぇ😅)
光源氏はもう、左大臣家の婿ではないのです。
左大臣は娘葵の上との別れだけでなく光源氏を失う悲しみに耐えながら、葵の上の女房たちに、形見分けをするのでした。
(形見分けは、ずい分昔からある風習なのどすなぁ~。)
49日が明け、光源氏はまず父桐壺院に面会に行きます。
「ひどい面やつれよ。精進で日を過ごしたからか。食事をしていくがよい」
と自分の面前で食事をとらせながら、ねぎらいます。父としては息子のやつれ具合を見るのは忍びないでしょうね。
その後、光源氏は久しぶりに二条院源氏邸に帰ります。
若紫が可愛らしく
「お帰りなさいませ」
と挨拶します。
「しばらくの間にすっかり大人になられましたね」
と光源氏。
「まるで藤壺の中宮に違うところもなく成長しているではないか・・・」
と驚きます。若紫は藤壺さんの姪ですからねぇ。
「しばらく留守にしていましたが、これからはうるさいほどお目にかかりましょう」
少納言の乳母は嬉しく聞きながらも、やはり不安に思い、(源氏の君は 高貴なお忍び相手の女性と多く関わり合いがあるので、また葵の上の代わりとして、外に通いになるのでしょう)と心配しています。
これまでの光源氏の浮気性な行動を見るにつけ、ごもっともな心配どすなぁ。
光源氏は寂しさにまかせて、ただずっと西の対屋で若紫と碁を打ち、偏つぎ(漢字遊び)などして、一日過ごしています。平安にまだ任天堂はありませんどす。
結婚相手として気にもかけなかった年月の間は、ただ幼い少女として可愛いく思っていましたが、今、若紫はいかにも気品があり魅力的で、ちょっとした遊びでもとても愛くるしいので、もう我慢ができなくなります。
(喪に服していた期間の疲労が癒えて元気を取り戻したのどすねぇ。いったい何を??アレどすなぁ😅、愛と性は車の両輪どす。ならばやし先生談!!)
「純真な若紫には可哀想だけれど、どうしたものだろうと……。」
次の日の朝、若紫はなかなか起きて来ません。昨晩、光源氏と突然新枕を結び、うぶで純真な若紫は大変ショックを受けています。
将来妻になると聞いてはいたものの、あんなことされるなんて・・・・
こういうことは意外に強引な光源氏どすなぁ~。
光源氏は、硯箱を御帳の内に差し入れて、自分の部屋に戻ります。
若紫はかろうじて頭を持ち上げ、枕元に引き結んだ手紙(結婚翌朝の後朝(きぬぎぬ)の文)を見つけます。理由も解らず、その手紙を開けてみると、
あやなくも隔てけるかな夜を重ね さすがに馴れし夜の衣を
(理由もなく夜の衣を隔てて幾夜も過ごしてきました。
ずっと添い寝になれておりましたが、やはり私たち二人は夜の衣を共に着ましょう。)
若紫は光源氏の正妻、紫の上になったのどすぇ。
本来なら、若紫は光源氏の手紙に対する返歌を硯箱に入りておくのがお決まりなのですが、硯箱には何も入っていません。
そのような事を何も知らない若紫を光源氏はかわいらしいとおもうのでしたぁ。(ようござんしたね。あばたもえくぼ)
光源氏は、惟光に餅を作って紫の上に届けるように命じます。
惟光は光源氏と紫の上が結ばれた事を悟り、大喜びで準備に向かいます。
葵の上を亡くしたものの、紫の上を正妻とした光源氏ですがこのままハッピーエンドといかないところが源氏物語の凄いところでんがなまんがなどすぇ。
第八話 花宴(はなのえん)で登場した朧月夜が光源氏にぞっこんになってしまいます。
彼女の父右大臣が娘のそのような様子を見て
「このように正妻の葵の上もお亡くなりになったのだから、源氏の君の正妻になったとしても、どうして不足があろうか」
と思うようになります。娘の幸せを思う親心は永遠に不滅どすぇ。
それを知った皇后のうんち弘徽殿は、光源氏を大層憎いたらしいと思い(あの憎き桐壺更衣の息子め!!) そうさせないように妹の朧月夜を宮仕えにあげようと、入内することを真剣に考えるようになります。
弘徽殿は自分の恨みが最優先で、妹の幸せを考えないとこが怖いどすなぁ。
でも入内(帝の妃候補)する娘にはいくつかの条件がありますが、絶対に処女でなくてはなりません。
その後、朧月夜とも密会を重ねている光源氏は人生最大のピンチを迎えることになるのどすぇぇぇぇぇぇぇ~~え。
第九話 おしまい。
第10話 賢木(さかき)
光源氏24歳、藤壷29歳、紫の上16歳、六条御息所31歳どす。
光源氏の正妻葵の上が亡くなった事で、世間では六条御息所が正妻になるのではという噂が流れています。
でもそれはあり得ないことだと六条御息所が一番分かっています。葵の上を六条御息所の生霊が死に追いやったのどすからねぇ~、光源氏としてもとても許す気にはならんどすなぁ。
さて、六条御息所は娘が斎宮(さいぐう、伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女)に決まったので、その前準備として1年間野宮(ののみや、現在の西京から嵯峨野の地)に住んで潔斎(けっさい、肉食を断ち、行いを謹んで身を清めること)する娘に同行しています。
光源氏は六条御息所を許すことができないものの、野々宮に尋ねて行きます。六条御息所は娘に同行して伊勢に下るので、最後の別れを告げるためどす。
尋ねてきた光源氏に、六条御息所の心は激しく揺れ動きます。
「さて、どうしたものでしょうか。女房たちの手前、大層見苦しいけど、源氏の君も私を幼くすねているとお思いになるでしょう。
しかし直接お会いすることは更に遠慮すべきことですのに……。
でも御対面をお断りするほど気が強くもないですし……、こまっちゃう~なぁ~」と、1966年の山本リンダのようにあれこれ嘆き躊躇(ためら)いながらも、ようやく奥からにじり出てきます。
それを見つけた光源氏は榊を手にしながら、
「榊のように色の変わらぬ私の心をしるべに神垣(しんえん、神社の境内の周りに巡らした垣)も越えて参りました」
と話しかけます。
それを聞いた六条御息所は
「神垣はしるしの杉もなきものを いかにまがへて折れるさかきぞ」
(ここの神垣にはしるしとなる杉も立ててありませんのに どうお間違えになって榊を折って訪ねられたのでしょうか?)
光源氏、
「少女子(おとめご)があたりと思へば榊葉の 香をなつかしみとめてこそ折れ」
(神様にお仕えする少女のおられるあたりと思い、榊葉の香に惹かれてきたのです)
「斎宮とご一緒に伊勢へお下りとは・・・これまでの私との縁はどうなるのでございましょう」
正直、今まで思いのままに逢いに来て、御息所も光源氏を慕っていた頃には、思い上がりから、それほど御息所を愛しく想ってはいなかった光源氏。
御息所の欠点が気になりだしてからは愛しさもすっかり冷めて冷え冷えどす。
しかし、心惹かれた頃の対面を思い出させる今は、この上なく愛しいと思い乱れているのどす。昔はよかったなぁ~☺️。そうどすぇ~、どんなに仲の悪いカップルでも昔は良かったのどすぇ~。
そして、過去のこと将来のことを憂い、弱々しく泣きます。
光源氏、女々しかぁ~!!
そして、女々しさついでに御息所に何とか伊勢下向を思いとどまるように話しをするのです。行かないでぇ~~~😅
御息所としては、生殺しのような状況どすなぁ。
光源氏から弱々しく「いかないでぇ~」と言われた御息所は
「斎宮がまだ若いので・・・(伊勢に同行します)」
と自分の気持ちではなく、あくまで娘が若いのでその後見として行きますとの理由付けて答えます。最後まで、プライドを優先して素直になれない御息所なのでしたぁ。
御息所の別れの歌。
「暁の別れはいつも露けきを こは世に知らぬ秋の空かな」
(夜明けの別れはいつも涙に濡れてしまいます。今朝は特に今まで経験したことのないほど悲しい 秋の空です。)
光源氏の返歌
「おほかたの秋の別れも悲しきに、鳴く音な添えぞ野辺の松虫」
(秋の別れはいつも悲しいものですが、さらに寂しく鳴いて、悲しさを添えないで下さい、野辺の松虫よ。)
光源氏は後悔しながら早々に朝露の道を涙に濡れながら帰ります。やっぱり女々しかぁ~。
御息所も心細げにただぼんやりと物思いに沈んでいます。
月の光の中でちらっと見えた光源氏の容貌を見て、御息所の若い女房たちは男女の過ちも起こしてしまうほどに魅力的な男だと思っています。
「どういう訳があって、御息所はこの素晴らしい光源氏を見捨ててお別れなさるのでしょうか」と皆、涙ぐんでいます。
「めっちゃいい男で社会的地位があり大金持ちやのに、なんと勿体なぁ~」どすぇ。
御息所の本当の気持ちが、お仕えの女房たちに理解してもらえないのが辛いところどすな。
ここで読者の皆様にアンケートどす。
あなたが六条御息所ならば
A:プライドを優先して別れる
B:やっぱり大好きと言って今後も寄添う、愛人でかまわない。
C:伊勢に行くのを止めるので、正妻にしてねと光源氏に迫る
D:その他(どうなさるのか教えてね)
六条御息所が伊勢に出立する朝、光源氏は惟光に歌を届けさせます。
「行く方をながめもやらむ この秋は あふさか山を霧なへだてそ」
(貴女の行く東の方をずっと眺めていましょう。せめてこの秋は逢坂山を霧が隔てて隠さないでほしいものです。)
そうこうしている間に、桐壺院(光源氏の父)の具合がよくありません。
朱雀帝(桐壺院とうんち弘徽殿の長男、ちなみにうんち弘徽殿は朱雀帝の母なので大后おおきさきと呼ばれている)も父桐壺院の命が尽きようとしている事を悟り、心細い日々を過ごしています。
それもそのはず、事実上の政務は朱雀帝ではなく退位した桐壺院が行っていたのどす。(院政といいます)
(紫式部は平安の政治システムに精通していただけではなく、将来このような政治形態も現れるだろうと予見して物語を書いていたのどすぇ。
ここで帝を退位した桐壺院の院政(帝を退位した後も政治を行うこと)の話が出てきますが、この話が書かれたのが1006年、実際に初めて白河天皇が院政を行ったのが1086年どす。つまり紫式部は、80年後に実際に出現する院政を予見して源氏物語を書いていたのどす。紫式部は本当に凄い女性だったのどすぇ~😮)
朱雀帝は桐壺院のお見舞いに行きます。
桐壺院は
「春宮(とうぐう、光源氏と藤壺の不義の子)をくれぐれもよろしく頼む」
「光源氏のことも変わらずよろしく頼む」
「あれ(光源氏)は大きな器です。 世の乱れを恐れて臣下に降ろしましたが、そのことを肝に銘じておいてください。」
と朱雀帝に託します。
朱雀帝は桐壺院のこの遺言に背く事はありませんと桐壺院に約束します。
春宮は日を改めて、桐壺院を見舞います。
中宮藤壺と光源氏も同席しています。
桐壺院は光源氏に
「そなたは幼い春宮の後見として、世の政(まつりごと)の行く末に心いたせよ」
と春宮の将来を託します。
中宮藤壺はただただ涙にくれています。
さて大后(弘徽殿)も夫である桐壺院を見舞おうとしていましたが、中宮藤壺が桐壺院の側に寄添っていたので遠慮している間に桐壺院が亡くなります。
訃報を聞いた大后は、桐壺院が亡くなって悲しむ気持ちよりも藤壺が邪魔になってお見舞いにも行けなかった事が癪に障り、
「藤壺のせいでお逢いすることもできなかった。かえすがえすも恨めしい😤😤😤😤」
と最後に面会した藤壺と光源氏に対して強い恨みを持ちます。
客観的に見て、大后(うんち弘徽殿)は藤壺に女として負けたのですから仕方ないと思うのどすが、夫の死に際にこのような厳しい現実を突きつけられた大后は
「絶対に復讐してやる~~~~😡😡😡」という殺意に似た思いに支配されます。
怖いどすなぁ~。
光源氏は立て続けに正妻の葵の上と実父の桐壺院を失い
「まことにむなしい。もう出家してしまいたいよぉ~」
と落ち込んでいるどすぇ。
でも出家しなかったのは、ひとえにまだ若い紫上の事が気がかりだったからどす。
また、藤壺と春宮から直々に
「故院の言われたこと、春宮のご後見を大将の君(光源氏のこと)にはくれぐれもお願いいたします。」
と念を押されているので、さすがに出家して逃げる訳にはいかないどすぇ。
桐壺院が亡くなったことで、内裏の権力は左大臣から大后の父である右大臣に移っていきます。
殿上の間で左大臣と右大臣の意見がぶつかっても、左大臣の意見は通らなくなり、右大臣の横暴に左大臣は参内しなくなります。
光源氏も右大臣の横暴をこころよくは思っていません。
そのような情勢の中、光源氏は自分と葵の上の息子(夕霧)に会いに頻繁に左大臣を訪れるようになります。
一方、右大臣の娘である大后(うんち弘徽殿)は以前、左大臣の娘の葵の上を朱雀帝の后に迎えようとしたにもかかわらず、左大臣が光源氏と結婚させてしまった事をいまだに恨んでいます。
今の大后(うんち弘徽殿)の生きがいは、桐壺院が存命の頃には遠慮していた過去の数々の恨みを晴らすことどすぇ。
自分が光源氏の母、桐壺更衣をいじめ倒して死に追いやったことなど屁とも思っていない所が自分勝手で怖い女どすなぁ😮。
清涼殿で光源氏は朱雀帝と面会をしています。
「私は若く、政(まつりごと)も思いどうりになりません。故桐壺院の遺言どうりあなたを大切にしたいのですが・・・・・(母の大后や祖父である右大臣に背くことはできない)」
と話しかけます。
朱雀帝は父桐壺院の遺言と母、祖父との板挟みに苦しい日々を過ごしています。
この頃の内裏の弘徽殿(ここでは人名ではなく建物の名前どす)には大后(おおきさき)となったうんち弘徽殿は住んでおらず、代わりに大后の妹の朧月夜が尚侍(かん、女官長、女御・更衣に準ずる地位)として住んでいます。
位の高い女御ではなく、更衣のさらに下の尚侍として入内することになったのは光源氏がお手付きして処女ではないからどすぇ。
紫式部は、そんな事で位が決まる男社会のルールを皮肉を込めて描写しているのどす。
さて光源氏は人目を忍んで、大胆にも内裏内で気が合い心休まる朧月夜の元に通うようになります。朧月夜も光源氏に入れ込んでおり、二人でラブラブな夜を過ごしています。
夜が明け始めると朧月夜が光源氏に
「そろそろお出になりませんと・・」と声をかけます。
「心からかたがた袖をぬらすかな あくとをしふる声につけても」朧月夜
(夜が明けると告げる声を聞くと、それがあなたが私に飽きると聞こえて、涙が袖を濡らしてしまいます)
「嘆きつつわがよはかくて過ぐせとや 胸のあくべき時ぞともなく」光源氏
(一生こうして嘆きながら過ごせというのだろうか、夜は明けても胸の思いの晴れることはなくて)
そんな二人だけのロマンチックな関係も、光源氏が弘徽殿から出てくる所を藤少将(初登場、朱雀帝の女御承香殿の兄、右大臣側の人物)に目撃されて終わりをつげることになるのどす。まあ、スキャンダルとして文春の一面を飾るようなもんどすな。
さてそんなヤバい事になりそうな気配にまだ気が付いていない光源氏は、他の色々な女性との逢瀬を思い出しながら、やっぱり藤壺さんがいちばぁ~ん素晴らしい❤️❤️との思いをつねらせます。
暢気な光源氏どすなぁ。
紫式部も男の身勝手さや女性に対する思いやり・優しさを履き違えている男の性を批判を込めてしっかり描いているどすぇ。
ある意味、ジェンダーギャップを1000年も前に問題提起している先進性は凄いどす😮😮😮。
藤壺は光源氏に光源氏との不義の子(後の冷泉帝)の後見としてしっかり春宮(次の帝)を支えてほしいのですが、そんな事より光源氏が相変わらず自分に対して執着しているのが気懸かりでなりません。春宮の出生の秘密が公になることは、春宮が帝の子供でないことがバレて春宮の資格はく奪になってしまいます。
光源氏との噂が立つことは、春宮の未来の致命傷になるどすぇ。
藤壺は光源氏の自分に対する気持ちを変えようと御祈祷までさせますが、一向に効果は見られません。
まぁ、普通そうでどすなぁ。御祈禱で人の気持ちが変えられるなら、世の中お坊さんだらけになり、御祈禱で変えた気持ちをまた別の人が御祈禱で変えて訳の分からない御祈禱合戦の世になるどすぇ~。キィ~トゥ~、キィ~トゥ~🤐
そんな藤壺の気持ちを何も知らずに、光源氏は三条藤壺邸の寝床に忍び込みます。
就寝中の藤壺に
「宮さま(藤壺は中宮なので宮さま)・・・、私です。源氏です。」
と声を掛けます。
「(やっぱり懲りずにまた来たか)いけません。お帰りを」と藤壺。
光源氏は「これほど危険をおかして参った私の気持をおわかり下さいませ。どうか少しのあいだだけでも」と我を忘れて強引に藤壺を抱こうと迫ります。
しかし藤壺は疎遠な態度で頑なに拒み続けます。
明け方近く藤壺の胸に激痛が走り
「ああ~胸が・・・・」
と叫び倒れてしまいます。
その声を聞き、藤壺の女御の王命婦と弁が急いで駆け込んできます。
「何事・・・ あ、源氏の君がなぜここに??」
アホな光源氏は、普通なら大切な女性の一大事と痛みで苦しんでいる藤壺を介抱するのにまだ抱きしめようとしています。う~ん、ほんまにこういう時の光源氏は役立たずのアホどすなぁ。
王命婦は、光源氏に夜が明けるのですぐに帰るように促しますが、人の気配を察して光源氏を塗籠(納戸)に閉じ込めます。
藤壺が倒れたとの急報を受け、兄の兵部卿の宮が見舞いに駆け付けます。
「中宮のお加減はどうだ、御祈祷の僧は呼ばれたか」
当時は病気は物の怪が取り付いたせいと信じられていたので、急病になったら救急車の代わりに御祈禱する坊さんを呼ぶのが通例どしたぇ。
来るときのサイレンは、キィ~トウ~、キィ~トゥ~だったとか😀(はぁ~)
この時代、長生き出来るのはほんと奇跡なのどすぇ。😅
さて女房たちは、光源氏を塗籠に隠したことを藤壺を安心させるために伝えていません。
日が傾く頃になり、藤壺の容態もよくなり見舞いにきてくれた兄に
「だいぶ気分もよくなりました。お見舞い、ありがとうございます。」
と挨拶し、兄は
「それはよかった、くれぐれもお大事に」
と帰っていきます。
それにしても兵部卿の宮は妹の藤壺と仲が良かったのどすなぁ。以前にも、藤壺を見舞うシーンが描かれていたどす。
一方の女房たちは、いかにして人目につかないように塗籠の中の光源氏を帰そうかと思い悩んでいます。光源氏の無鉄砲さは、全く迷惑な話どすぇ。
ちなみに、半日以上閉じ込められていた光源氏はトイレとか食事はどうしていたのどすかなぁ?? 差し入れられたお丸とお膳で過ごしていたのでしょうねぇ。
さて、そっと塗籠から抜け出した光源氏は戸の隙間から藤壺を見つめています。
「やはり紫の上とそっくりだ(藤壺の姪どすからね)」
「それにしても気高くお美しいことよ。昼の光でお姿を拝見したのは元服前のこと、お懐かしい・・・」
そしてストーカーのごとく藤壺に忍びより、
「藤壺さま(今度は宮さまではなく名前で慣れ慣れしく呼びかけます)、どうしてもこのせつない心をおわかりいただきたくて・・・」
今朝、慌てて帰っていったと思っていた光源氏が突然現れて藤壺はびっくり仰天、
「なりませぬ~~~」と叫んで逃げようとしますが、光源氏は藤壺の着物の裾を掴んで離しません。
その声を聞いて、女御の王命婦と弁がかけつけます。
「手荒なまねはいたしません(既にしてまんがな🤐)、話だけでもお聞き下さい」
と光源氏。
藤壺は一言
「気分がすぐれないのです」
と聞く耳を持ちません。
光源氏はかけつけた王命婦と弁に
「お帰りを!(はよ帰らんか、おんどりゃ!このボケ・カス!)」と迫られ、しぶしぶ藤壺邸を後にします。
さて、光源氏のこの行動の結末はいかに?
二条源氏邸に戻った光源氏は、紫の上の弾く琴を耳にしながら
「藤壺の宮のつれなさを思うと出家を願いたくなるが・・・。でも、いじらしいこの紫の上を振り捨てることもできない。」
と相もかわらず女性に対してはどっちつかずの思案に暮れています。
(みんな好きなのぉ~、まぁ~ある意味バカ正直どすなぁ~😅)
同じ頃、三条藤壺邸では
「春宮の将来を考えれば、後見役の源氏の君をないがしろにできない。
しかし、源氏の君の思いを叶えればいずれ人に知られて春宮がどうなるか・・・」と母親として息子の将来を案じています。
「源氏の君が(私の態度を)あじきないとご出家されたら春宮の後見がなくなる」
「大后(うんち弘徽殿のこと)があるまじきことと仰せられている中宮の位(うんち弘徽殿は、後妻の藤壺が自分の女御という位を飛び越えていきなり中宮になったことを恨んでいる)を捨て私が出家しよう」
と決断します。
母として、息子の将来にベストの手段に打って出ます。
息子への愛 > 光源氏への愛 どすな。
桐壺院の一周忌の法要の後、
12月10余日、中宮の御八講が行われます。
(法華経全8巻を8回に分けて講ずる法華八講会。最終日に結願する)
藤壺は
「私は今日より結願として出家いたします」
と宣言。
それを知った内裏は
「なんと」「入道なさるとは・・」
と大騒ぎどす。
出家の為に髪を降ろす儀式では、藤壺の女房たちが
「おいたわしい」
と嘆き、その場に立ち会っている兄の兵部卿の宮も神妙な面持ちです。
その後、左大臣(ひだりのおとど)も、公私共に、昔と変わってしまった世に嫌気がさし辞職願を出しますが、朱雀帝は故桐壺院が「左大臣を重要な御後見人として、長い世の中心に……」との遺言を考え辞職願を受けとりません。
しかし、左大臣は強いて辞退し続け、邸にこもってしまいます。
今は右大臣の一族のみが栄える一方で、左大臣がこのように政界を逃れ、朱雀帝も大層心細く思っています。
光源氏も世の中がすっかり変わってしまったと元気がありません。
このとばっちりを受けたのは左大臣の息子で光源氏の親友である頭中将です。
今は出世して三位中将になっています。彼の妻は右大臣の娘ですが、「思い知れ!」とばかりに娘婿として扱いません。その後の出世も遅れてしまいます。
そう、右大臣は裁量が狭く意地の悪い人柄として描かれ、その娘の大后(うんち弘徽殿)もその人柄をしっかり父から受けついでいますどす。
一方の左大臣は大らかで人情味がある人物としてえがかれていますぇ。
三位中将は光源氏をたびたび訪ねて、学問や管弦の遊び、酒宴などを一緒にして光源氏の気持ちを和らげようと努めてくれます。
持つべきものは、友どすなぁ~。
さて問題の朧月夜は病気を理由に内裏を離れ、実家の右大臣邸に帰省しています。
光源氏はノコノコとほぼ毎晩、右大臣邸の西の対の朧月夜の元に通っています。
(今で言うなら、気の合うホステスさんの元に癒しを求めて足げく通う社長さんのような感じなのどすかねぇ🥸。
どうも平安時代には社会的地位が高い人が遊ぶいわゆる遊郭のような施設はまだ存在していなったようどすぇ。
だから光源氏のように個人的に気に入った色々な女性の元に通うのが通例だったようどす。)
さてそんなある夜
「こうして夜毎にお逢いしていますが、病気はすっかりいいようですね」
と光源氏。
「治ってほしくはありません。病気のおかげで里下がりできたので、源氏の君にお逢いできるのですもの」
と朧月夜。
相変わらずのラブラブどすなぁ~。
その時、突然天罰?が下ります。
西の対に雷が落ち、邸内は大騒ぎになります。
娘の安否心配をした右大臣は急いで西の対に駆け付けますが、朧月夜付きの女御たちは光源氏が御帳(みちょう、室内や外部との境などに垂らして、区切りや隔てとするたれぬの。)から出られなくなってしまいうろたえています。大ピ~ンチ!!どす。
右大臣は
「大丈夫でしたか?大変な雷でしたが、どうですか?」
「は・・はい、なんとも・・」
と朧月夜。
ところが運悪く、朧月夜の背中に帯が掛かっているのを見つけられてしまいます。
「や、それは男帯、それにその手習いの紙は!」
と光源氏が記した歌も見つかります。
「そこをどきなさい」
と朧月夜を押しのけて、御帳の中を確かめると
「なんと男が・・・・」
光源氏は右大臣に見つかってしまいますが、当時は部屋の中は暗いので光源氏とは直接確認できません。
しかし、手習いの紙に書かれた筆跡から光源氏とバレてしまいます。
朧月夜は自分が誰かも分からないほど呆然としています。
光源氏は(遂に私の無責任な振る舞いが積もって、結局は世間の批判を受けることになってしまった……)と健気にも反省しますが、時すでに遅しどす。
そして朧月夜の痛ましい様子を大層いとおしいと思い、あれこれ慰めます。
こんな時、いったいどのようにして慰めたのどすかねぇ?
「どうにかなるさぁ~??」
右大臣は怒り心頭。
直ぐに娘の大后(うんち弘徽殿)の元に赴き、
「昔も親の許しを得ずにわりない仲になったのを、当家の婿にと申し出たのに断っておいてまったく不届きな!!」
「それで朧月夜を入内させたものの穢れた娘のこととて(要するに光源氏のせいで処女ではない)后として女御とも言わせられないのに・・・またしてもとは」
大后は
「朱雀帝(うんち弘徽殿の息子)は昔から軽んぜられて・・・」
「辞職した左大臣にしても御兄の帝には葵の上を差し出さず(入内させず)弟の光源氏の添臥(そいぶし)にしてしまったし・・・・・」
「ほんとうに腹立たしいことばかりなのに、当の本人(朧月夜)はこっそり光源氏と逢っているとはどういうわけです、父君!!」
と今度は父の右大臣に、あんたの監督不行届きだがねぇ~と当たり散らします。
怖い娘どすなぁ~、父ちゃん顔なしどすぇ~。
「ま、とにかく帝のお耳には・・(入れておきます)。これくらいの間違いがあってもお見捨てにはならないとあれも甘えているのでしょうし・・・」
「ひとつ邸にいるというのに、忍び込むとは」
「よくよく軽んぜられたもの、この折に仕返しの手段はないものか・・・」
大后は光源氏への復讐を誓います。
これにより、権力を持つ右大臣陣営に対して四面楚歌になった光源氏は平安京を離れ須磨に退くことになるのです。
まぁ~、しょうがないどすなぁ🤷♂️
第十話 終わり。
第十一話 花散里(はなちるさと)
光源氏25歳の頃のお話し
朧月夜とのスキャンダルがバレて、当然彼女とはもう逢えません。
政治も右大臣側がわが世の春を謳歌しており、光源氏の父桐壺院の話をする人もいなくなっています。
故桐壺院には麗景殿(れいけいでん)というあまり故桐壺院には寵愛されてなかった女御がいます。
そのせいか子供もなく、桐壺院が亡くなってからは生活も困窮していきます。
同じ女御なのに、一の宮を生んだうんち弘徽殿は息子が帝となり、今は大后となり富と権力をほしいままにしているのとは大違いの人生です。
平安の姫君たちは、皇子(みこ、男の子)を生むか生まないかでその後の人生が激変するという自分の力ではどうにもならない世界に生きていたのどすぇ。
「光る君へ」でも道長が娘の彰子に一条天皇の皇子を生ませるため、まひろに源氏物語を書かせて一条天皇に奉納するというストーリーで、何としても皇子を生ませるために奔走する姿が描かれていた理由がよくわかるどすなぁ。
でもこの男の子を生む嫁はいい嫁だという考えは、昭和中頃までは世の中の主流であったように思うし、日本の皇室も議論はあるもののいまだ男子継承のルールのままどすなぁ。
愛子さまが天皇になられる姿を見てみたいものどす。
さて麗景殿女御は、光源氏の心遣いに守られて、日々を過ごしています。
光源氏は、父ゆかりの女性も見捨てずにサポートしているのどす。
でも父ゆかりの縁だけかというと、そこは姫君たちにはめっぽう目がない光源氏、その妹の三の君 (花散里)と以前、内裏でちゃっかり関係を結んでいたのどすぇ。
光源氏は、一度契りを結んだ女性は忘れずに、いつも心にかけており、さすがに全く忘れてしまうこともなく、と言って、きちんと妻としての取りなしもしません。
中途半端やなぁ~!! 姫君を生殺しにしてはいけんでごわすどす。
きっとこんな歌も口ずさんでいたかもしれないどすぇ。
(新入社員時代の同期にxxxひろし君というのがいて、ある日彼のアパートのドアに口紅で大きく「バカ」と落書きされる事件が発生。それ以来、彼はそんなヒロシと呼ばれるようになったどす。そんな有事があったので、紫の敷布はこの曲をよく聴いていたどすぇ。)
この頃の光源氏は、この世の全てが辛いと思い乱れる理由のひとつとして、辛い思いをさせた姫君の心を思い出し、逢わずにいられなくなります。
相手に辛い思いをさせることが分かっていながら、ついつい手を出してしまうという男の性(さが)を紫式部は本心では何と思っていたのどすかねぇ??
五月雨の空が珍しく晴れた雲の合間に、光源氏は麗景殿女御邸に出かけていきます。
いつものように惟光が手筈を整え、御簾ごしに対面します。
庭では、ホトトギスが鳴いています。
「橘の香をなつかしみほととぎす 花散る里を訪ねてぞとふ」 光源氏
(昔を思い出させる橘 の花の香りが懐かしいので、ほととぎすがこの花散る里を訪れて来ます。私が訪れたように……)
「人目なく 荒れたる宿のは橘の 花こそ軒のつまとなりけれ」 麗景殿女御
(訪れる人もなく荒れ果てた家では、昔を偲ばせる橘の花が軒端に咲いて、
貴方の訪れの手がかりになったのです。)
「それでは妹君にもご挨拶申し上げますので」
と退座し、長い間ほったらかしにしておいた花散里の部屋に向かいます。
光源氏は、寝殿の西側の部屋をわざわざ訪ねて来たようにではなく、なにげない様子で覗きます。
花散里にとっては、珍しい人の訪問なのに加えて、誠に比類ないほど美しい光源氏の姿を見て、長く忍び通いの絶えていた辛さもすっかり忘れているようです。
「取りまぎれてお伺いできませんでしたが、お変わりありませんか」
「はい、おかげさまで」と花散里
花散里の穏やかで控えめな人柄に、光源氏の心は癒されていきます。
光源氏が逢瀬を重ねる女性は、皆自分こそ並の人と違って、より優れたものを持っている愛らしい人と思っています。
それゆえ、光源氏の態度に不本意だと思い心変わりする女性もおますどすが、それもこの世の無理もない運命なのどすぇ。
〽 お久しぶりね
ホトトギスのいた垣根の姫君も、そういう訳で、心変わりなさったようどす。
第十二話 須磨
光源氏26歳、紫の上18歳、夕霧5歳(光源氏と葵の上の男子)のお話し
光源氏は朧月夜とのスキャンダル(彼女は入内しているので、帝の女に手を出したと因縁をつけられたのどす)が露呈し、謀反の罪で官位を剥奪されますが、それでも大后(うんち弘徽殿)の怒りが納まりそうになく流罪になるのを心配しています。
当時、流罪は死罪に次ぐ重罪でほぼ都の地が二度と踏めなくなることを意味しているどすぇ。
光源氏は流罪を避けるため、先手をとり須磨に引き籠ることを決意します。
謀反の意志などないことを示すためです。
ところで、紫式部が光源氏の蟄居(ちっきょ)先としてなぜ須磨を選んだのどすかね?
在原行平(ありわらのゆきひら)の和歌の影響と考えられています。
「わくらばに問ふ人あらば 須磨の浦に藻塩垂れつゝわぶとこたへよ」
(古今集 雑 在原行平朝臣)
(もし、たまたまわたしのことを尋ねる人があったなら
須磨の浦で水を藻にかけ(涙を流して)思い悩んでいると答えてくれ)
光源氏はこの決意をまず正妻の紫の上に話します。
「そんなに悲しまずともよろしいのですよ」 光源氏
「けれどこれから先何年もお逢いできないかと思うと・・・」紫の上
「須磨は波風のほかは往来のない寂しい所、そんな所へあなたを伴う訳にはいかないのですよ」 光源氏
藤壺入道の宮(出家したので入道)も、心配してそっと便りを送っています。
でも内心は、東宮の後見役をあれほど頼んでおいたのに、女が原因で謀反の罪を着せられ官位剥奪とは随分やっちゃてくれるじゃないのぉ~と思っているかもしれないどすねぇ😮
須磨に立つ前に、光源氏は前左大臣邸を正体がバレないように女車を装って訪問します。
姫君たちは、牛車で出かける時に着ている十二単の袖の一部をチラ見せして、身分やセンスの良さをアピールしながら移動します。
これに倣い、光源氏の乗る牛車にはダミーの十二単をチラ見せさせ姫が乗っているように偽装しています。
大后に光源氏があっちこっち出歩いていることが知れると、また何をされるか分からないからどす。
今は長いものには巻かれろ状態の光源氏なのでしたぁ~。
5歳になる光源氏の息子の夕霧は、嬉しそうに光源氏に駆け寄ってきます。
「しばらく逢わないのに忘れずにいてくれたか」 光源氏
「可愛がっていただきなさいませ、これから先どうなるか・」 故葵の上の女房たち
「不憫な子よ」と光源氏
「天地を逆さにした末世のようです。長生きするものではありません」 前左大臣
「何もかも前世の報いと申します。これ以上の辱めを受けぬうち自分から世を逃れようと思います。」
と光源氏。
そこに
「源氏の君・・・」と大親友の三位中将(もと頭中将)が現れます。
「おお、三位中将の君(お会いできてうれしい・・)」と光源氏
「せっかくこうして見えたのだから、酒など召し上がって今夜はぜひお泊り下され」と誘われます。
その様子をじっと黙って熱い目で見つめている故葵の上の女房がいます。
「では、泊っちゃう!!」と光源氏。
勿論、その目的は「おんな」に決まりキンタマどすぇ。(お下品どす!!)
源氏物語では
「光源氏が外泊する=お気に入りの女性と朝まで過ごす」
という方程式が成り立つどす。そんなヒロシ君も遠く足元にも及ばないどすぇ😮
その女房の名は中納言の君。
彼女は、故葵の上が訪ねてきた光源氏に逢うのを拒ばんだり、故葵の上が旗日だった時に代わりに朝までお相手を務めた光源氏お気に入りの女房です。
勿論、その夜光源氏は中納言の君と二人だけで過ごします。
光源氏は旧左大臣邸の庭をしみじみと眺めながら
「秋の夜の哀れにまさる風情だ・・・」
「中納言の君よ、二度と逢うのも難しくなった。いつでも逢える時はあったのになぁ」
と寂しく語りかけ、旧左大臣邸を後にします。
ところで、光源氏の付き人惟光は光源氏が色々な姫君と二人だけの夜を過ごしている間、どこで待機していたのどすかねぇ。
朝になったら、目立たないよう夜が明けきらぬうちに引き上げなくてはいけないどすぇ。姫君に夜這いするには、その姫君の女房と交渉して中に導いてもらいますが、その段取りは惟光の重要な仕事。光源氏が帰るまで、惟光は懇ろになった姫君の女房と過ごしていたようどす。光源氏が謹慎して出歩かなくなると、惟光もお気に入りの女房と逢えず寂しかったようどすぇ。
二条院源氏邸
紫の上とその女房たちは、光源氏の帰りを寝ずに待っています。
「おや、皆起きて私を待っていてくれたの(遅くなってごめんねぇ)」
「昨夜は、前左大臣へお別れのご挨拶に行ったのです」
と言い訳上手な光源氏。
さすがに、中納言の君と別れを惜しんでいたとは言えませんどすなぁ🤔
「須磨へ発たれたら、いつまたお逢いできるかわからないのですもの」
と紫の上。
「さあ、ご機嫌を直して。今日はあなたとゆっくり過ごしますから」
「身はかくてさすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の かけは離れじ」 光源氏。
(我が身はこのように須磨へ去っても、鏡に映った私の影は貴女の側を離れません。)
「別れても影だに留まるものならば 鏡を見ても慰めてまし」 紫の上
(別れても、鏡に映る貴方のお姿だけでもここに留まるものなら、その鏡のお姿を見て心を慰めましょう。)
柱の陰に隠れて涙を紛らわしている紫の上の姿を、光源氏は「今まで逢った沢山の女性の中でも、比べようもなく素晴らしい方だ」と心底思うのでしたぁ。
光源氏は、どの姫君と逢っても「やっぱりxxxだね」と必ず何か長所を見出だし
「いいね👍」をしますが、これを単なる浮気性とみるのか人、の長所を上手く引き出せる素晴らしい人格とみるかで評価が分かれるところどす。
あなたは、どっち?
光源氏のお別れ行脚は続きます。
麗景殿(れいけいでん)の女御(にょうご)邸では、妹の花散里が、光源氏の離京を心細く思っています。
光源氏は、
「あの花散里にも今一度逢っておかないと、私を冷たい人と思うだろうか……」
と、紫の上に気兼ねして、夜遅くなってから出かけていきます。
女御は、光源氏がわざわざ訪ねて来てくれたことをたいそう喜んでいます。
妹の花散里とは、歌を交わします。
「月かげの宿れる袖はせばくとも 留めても見ばやあかね光を」 花散里
(月光の宿るわが袖は魅力がなくとも、ここにお引留めしたいのです。飽きることなく美しい月の光(源氏の君)を……。)
「行き巡りつひにすむべき月影の しばし雲らむ空な眺めそ」 光源氏
(月のようにまた巡ってきて、最後には澄み渡るはずの月(私)が、暫くは曇って見えない空を眺めるのはおよしなさい。)
光源氏は、夜が明けぬ暗いうちに二条院に戻ります。
急いで、自分が留守の間の万事のことを準備させます。引っ越しの「さかい」に丸投げするわけにはいきまへんどすぇ。
まず、御殿の管理等を執り行う役人を決め、更に須磨へお供する者を選びます。
家財道具は、必要最小限の物を特に飾りつけることもなく簡素な物にして、漢籍の類や文集などの入っている箱、その他に琴を一つだけ持っていくことにします。
二条院にある置き場のないほどの調度や華やかな衣裳などは、一つとして持たず、貧しい山里人のように繕います。
紫の上には、仕える女房たちの事をはじめ、万事のことを申し送り、更に領有する荘園や牧場をはじめ、大切な領地の権利証なども全て預けます。
それ以外の御倉町(みくらまち、蓄財物の倉庫)、納殿 (おさめどの、金 銀 ・ 衣装 ・ 調度品 など各種の品物を納めて置く場所、今なら金庫どすな)ことは、乳母の少納言をしっかり者と見込んでいたので、信頼できる家司などをつけて、今後紫の上が管理するように預けます。
光源氏は、
「命があってまた都に帰ることもあろうから、その日を待とうと思う人は、ここで紫の上にお仕えしなさい」と話し、全ての女房たちを見捨てずに(首にせずに)紫の上のもとに参上させます。
更に、若君(亡葵上の御子・夕霧)の乳母たちや花散里などにも、素晴らしい贈り物や暮らしむきの心遣いを、万事に行き届いて指示します。
姫君には超まめな光源氏!!
ちなみに、光源氏の留守の間に意外にも紫の上は素晴らしいリーダーシップを発揮します。
広大な二条源氏邸の人心と財産を全て掌握し、光源氏が帰るまで二条院の主としての務めを完璧にこなす事になるのどすぇ😮。
こうしてみると、光源氏が自分の妻にする女性を選ぶ目は確かなものだということが分かります。
六条御息所の性格では、恐らくこうはいかないでしょうね。
さて、お別れ行脚の続きどす。
さすがに朧月夜には直接逢いに行けないので、密かに文を出します。
「逢瀬なき涙の川に沈みしや 流るるみをのはじめなりけむ」 光源氏
(貴女に逢うこともできず涙の川に沈んだのが、流離の身の始まりなのでしょうか。)
「涙川うかぶ水泡(みなわ)も消えぬべし 流れてのちの瀬をも待たずて」 朧月夜
(涙川に浮かぶ水の泡のように、私も儚く消えてしまうに違いありません。流離のあとの逢瀬を待つこともなく……)
藤壺入道の官邸
「いよいよお別れでございます」
「思いもよらぬ罪をこうむるにつけましても、思い当たる一つのことが空恐ろしくございます。この身はどうあれただ春宮(光源氏と藤壺の不義の子)の御代だけがご安泰ならばと・・・」
藤壺も同じ事を考えており、
「・・・・ほんとうに・・・・」
と心細そうに頷きます。
「故桐壺院の御墓へ参りますが、お伝言はおありでしょうか」
と光源氏。
しばらくの沈黙の後に
「見しはなく あるは悲しき世のはてを 背きしかひもなくなくぞ経る」 藤壺入道
(桐壺院は今は亡く、後に残った私は人生の終末を出家した甲斐もなく、泣きながら暮らしております。)
「別れしに悲しきことは尽きにしを またぞこの世の憂さはまされる」 光源氏
(父院に別れた悲しみは尽きることがありませんでしたのに、今また離京する辛さは、それに勝っております。)
故桐壺院の墓の前に正座してお参りする光源氏の前に、故桐壺院の姿が鮮やかに蘇ります。
「なきかげや いかが見るらむ よそへつつ眺むる月も雲隠れぬる」
(亡き父院は、この私をどうご覧になっているのでしょうか。父院として見ていた月も雲隠れしてしまいましたのは、私へのお怒りでしょうか。)
春宮には、文を出します。
春宮御所
以前、藤壺に仕えていた王命婦は今は春宮に仕えています。彼女は、光源氏と藤壺の不義の恋を知る唯一の女房です。
王命婦は、春宮に光源氏の文を手渡します。
文は今の光源氏の境遇を表すかのように桜の散り落ちた枝に、結びつけてあります。(光源氏のセンスは秀逸どすぇ)
「いつかまた春の都の花を見む 時うしなへる山賤(やまがつ)にして」
(いつかまた春の都の花(春宮の栄える御代)を見ることができましょうか。今の私は時勢に見捨てられた山人として……)
「お返事はいかがいたしましょう」と問いかける王命婦に、春宮は
「少しの間も逢わずにいれば恋しいものを、遠くに行かれたらどんなだろうと伝えておくれ」 と答えます。
王命婦の光源氏への返事は、
「春宮にはお伝えいたしましたが、源氏の君の御心をすべてはお伝えしきれません。春宮が心細げになさっているご様子も誠に悲しうございます。」
「咲きてとく散るは憂けれど行く春は 花の都をたちかへり見よ」
(桜の花が咲いてすぐ散るのは辛いことですが、行く春は巡り来るように、都を去る源氏の君も再び立ち帰って、花の都をご覧ください。)
と桜を題材とした歌を送ります。(王命婦のセンスも凄いどすなぁ。)
光源氏は須磨への出発の日、紫の上と一日中ゆっくり過ごします。まだ夜の暗い内に出発しようと、狩衣など目立たぬように旅の支度をします。
そして二条源氏邸で、紫の上と最後の夜を過ごします。
「生ける世の別れを知らで契りつつ 命のひとに限りけるかな」 光源氏
(生き別れになるとは知らずに貴女と契りました。貴女だけに限り私の命をかけてきましたのに……。)
光源氏が、涙をこらえて歌を伝えると、
「惜しからぬ命にかえて目の前の 別れをしばしとどめてしかな」 紫の上
(惜しくもないこの私の命にかえて、目の前の悲しい別れを少しの間でも、引き留めてしまいたいものです。)
光源氏は紫の上のこの気持を大層愛しいと思いますが、夜が明けてからの旅立ちは見苦しいに違いないと、急いで須磨に旅立ちます。
道すがら、紫の上の面影が光源氏にそっと寄り添っているようで、胸がいっぱいになります。 (紫ちゃ~ん、愛してるよぉ~ん❤️)
京都を出て淀川を舟で下ります。
追い風がずっと添い吹いて、日の長い頃で、まだ午後四時頃なのに、須磨の浦に着きます。
着くの早ぁ~、もう着いたの?😮
随分と京から近い所を選んだ光源氏なのでしたぁ~😅
京の方を振り返えると、遥かに見える山々には霞がかかって、まるで三千里も遠く離れた土地に来てしまったような心地がして、櫂の雫を見るにつけても、流れる涙を抑えることができません。(京から随分と近いのにねぇ~😅、めちゃ大げさどす)
「ふるさとを峰の霞が隔つれど ながむる空は同じ雲居か」 光源氏
(住み慣れた都を山の霞が隔てて見ることができないけれど、私がながめる空は紫上が眺める空と同じなのでしょうか。)
須磨の住まいは、在原行平 (ありわらゆきひら)の中納言が涙にくれながら侘び住まいした家の近くにあります。
光源氏は、この近くの荘園の管理人たちを呼び、家屋の修理などを指示します。
良清(播磨守(はりまのかみ)の子)が家来として仕え、庭の水路を深くし、植木なども植え、瞬く間に大層見所のあるようになります。
けれども光源氏にとっては、ここに落ち着くことなど、まだ夢でも見ているかのように信じられないことです。
摂津(せっつ)の国守も光源氏に親しく仕えていた人なので、公には内密にしながらも、色々気配りしてあれこれ面倒を見ています。
光源氏、地方でも人気物なのどすぇ。
このような旅の住まいとは思えないほど、人の出入りが多いものの、光源氏にとってはあれこれと相談できる人は誰もいないので、まるで見知らぬ国にいるような心地がして、世間から埋もれたように心細く、今後どうやって年月を過ごしたら良かろう……と心配に思っています。
何となく、定年退職して明日から何しよう?どうやって社会と繋がっていこう?と思案している元仕事一辺倒のサラリーマンの気持ちに似ているような・・・。
次第に気持ちが落ち着いてきて、長雨の頃となります。
光源氏はおのずと京のこと等を思い出し、多くの姫君を恋しく思います。
「寂しいよぉ~😭」
なかでも紫の上の愛らしい様子や、春宮の事、そして若宮(夕霧)が無心に女房に懐いていたこと等を思い出し、更にここかしこの女性のことなどをも思いやっています。
女、沢山どすぇ~🤷♂️🤷♂️
そこで、お手紙大作戦!!
藤壷の入道には、
「松島のあまの苫屋もいかならむ 須磨の浦人しほたるるころ」
(貴女のお住まいではいかがお過ごしでしょう。須磨の浦人になった私は涙に濡れて過ごしております。)
いつもただ嘆き過ごしております。これまでの事、これからの事を考えますと、目の前が真っ暗になり、涙の川の水が増したようです。
光源氏、女々しかぁ!!
朧月夜の尚侍(ないしのかみ) のところには、これまで通り、その女房の中納言宛の個人的な手紙のようにして
「こりずまの浦のみるめのゆかしきを 塩焼く海人やいかが思はむ」
(懲りることなく貴女にお逢いしたい。須磨の浦で塩を焼く海人(私)を貴女はどう想っていらっしゃるのでしょうか。)
左大臣邸の若宮(夕霧)に仕える宰相 (さいしょう)の乳母(めのと)にも「若宮によくお仕えするように……」などと書きます。
京では、光源氏からの手紙を読み、多くの人々の心が乱れたようどすぇ。
藤壺の入道からは
「しほたるることをやくにて松島に 年ふる海人も嘆きをぞ積む」
(涙の流れることを日々の努めとして、松島で年を過ごす海人の私も嘆きを重ねております。)
尚侍(かん)の君(朧月夜)からの返事は、
「浦にたく海人だにつつむ恋なれば くゆる煙よ行く方ぞなき」
(須磨の浦で塩を焼く海人でさえ人に包み隠す恋ですから、胸の中にくすぶる恋の煙は行く方もありません。)
紫の上からは、光源氏が特別に心を込めて書いた手紙の返事が、心打つしみじみとした事が多く書かれ、
「浦人のしほくむ袖に比べ見よ 波路へだつる夜の衣を」
(須磨で潮を汲む浦人(源氏の君)の涙に濡れる袖に比べて見てください。
波路を遠く隔てる都で、独り寝の夜の私の寂しさを、ここにお送りした夜具を見て思いやってください。)
と紫の上が送ってきた夜具の色合いや仕立てが大層美しいのを見て、紫の上が何事も洗練されているのを感じ取り、なお一層愛しく思います。
「紫ちゃ~~~~~ん❤️❤️❤️」
光源氏は、あの伊勢の斎宮(六条御息所の娘)にも手紙を出します。ある日、六条の御息所のもとより、わざわざお遣いが返事を持って須磨に訪ねてきます。
手紙には深い御心のうちなどが書かれています。
「やはり現実のこととは思えない須磨の御住処のご様子を承りますと、私の心は明けぬ闇の中を迷っているように思われます。源氏の君がそう長く都を離れていることはないと思いますにつけても、私は罪深き身ですから、また貴方にお逢いできるのは遥か先のことでしょうけれど……。」
「うきめ刈る伊勢をのあまを思いやれ もしほたるてふ須磨の浦にて」
(浮き布(海藻)を刈る海人とおなじように、この伊勢で辛い思いでいる私を思いやって欲しい。涙に濡れるという須磨の海辺で……。)
「昔、愛しく想っていた方なのに、生霊となって葵の上を殺したという思い込みがあり、更に御息所も私を疎んじて、伊勢に別れて行ってしまった……」
と光源氏いまだに心慕わしく思います。
こういう折にもらう手紙は大層心打つもので、その遣者まで親しい気がして、二、三日滞在してもらい、京の物語などを聞きます。
光源氏は返事を書きます。
「このように、都を離れることが前もって分かっておりましたら、貴女を慕って伊勢に参りましたのに等と思っております。所在もなく心細いままに、」
「伊勢人の池に上漕ぐ小舟にも うきめは刈らでのらましものを」
(伊勢人のあなたが波の上を漕ぐ小舟に乗ってご一緒しましたものを……。須磨で海藻を刈るような辛い目に遭わずに、」
いつまた逢るのか分らないので、尽きせず悲しく思われます等々とあります。
一方、花散里は悲しいと思うままを、あれこれ光源氏に書き綴ります。
「荒れ勝る軒のしのぶをながめつつ しげくも露のかかる袖かな」
(源氏の君が京を去ってから、ますます荒れてきた家の軒に生える忍ぶ草が
長雨に濡れるのを見つつ、貴方を想って私の袖は涙に濡れております。)
光源氏は、「雑草より他に、後見してくれる者がないのか……」と気の毒に思い、「長雨に塀が所々崩れて……」と書いてあったので、京の邸の家司に命じて、修理するよう命じます。
光源氏は官位を剥奪されて朝廷から給料を貰えなくなっても、荘園や牧場を所有しているので須磨でプーしててもお金には不自由しないのどすぇ。羨ましい限りどす。🤩
そのころ、都の朱雀帝は管弦の遊びの折、「あの人(源氏の君)がいないのが、まったく寂しいものだ。私以上にそう思う人も多いことだろう。何事にも誠に光が失せたような心地がする」と話し、
更に、
「桐壺院のご遺言に背いてしまいました。私は後の世で罪を受けることになるだろう」と涙ぐみます。
帝は、「桐壺院の遺言通り、春宮(藤壷の御子)を皇太子につけようと思うけれど、よからぬこと(右大臣や大后の反対)も出てくるようなので、誠に辛いことです」と話します。この若い朱雀帝の御心に反して、政治の実権を握る人々がいます。
この帝はまだ意志も強くない年齢なので仕方ないのですが、内心では、光源氏を大層気の毒に思っています。
京を離れて寂しい思いをしているのは、光源氏の供人も同じどす。
題して、雁の歌三連チャン!!
「初雁は恋しき人のつらなれや 旅の空飛ぶ声の悲しき」
(初雁は都に残してきた恋しい人の仲間なのだろうか。旅の空を飛んでいく声が悲しく聞こえてます。)
と光源氏が詠むと、良清が、
「書き連ね 昔のことぞおもはゆる 雁はその世の友ならねども」
(雁の列のように次々と昔のことが思い出されます。雁はあの頃の友でないのに……)
更に、民部の大輔(惟光)が、
「心から常世を捨てて鳴く雁を 雲のよそにも思ひけるかな」
(自分からすすんで常世(ふるさと)を捨てて鳴く雁を昔は別世界のことと思っていました。)
師(そち・太宰府の長官)が、源氏の君に便りを送ります。
「遥か遠い任地から京に上ります折に、思いがけなく源氏の君がこのように寂しい須磨においでになり、そのお住まいを私が通り過ぎますことは、畏れ多くも悲しいことでございます。知り合いの人々が沢山迎えに来ておりますので、気遣いをして遠慮すべき事等多々ありまして、お伺いできないことが心残りでございます。あらためて、お伺いすることになりましょう」と書かれています。
万が一、光源氏の元を訪ねた事が右大臣や大后(うんち弘徽殿)にバレると、どんなしっぺ返しを受けるか分からないので、皆警戒しているどすぇ。
代わりに子の筑前の守がこの手紙を持って参上します。この人は以前、光源氏が蔵人に取り立て目をかけた人なので、光源氏派の一人です、
光源氏は、
「都を離れてのち、昔親しかった人々に逢うことさえ難しくなりましたのに、このように、わざわざお立ち寄り下さるのは、大層嬉しいことです」と話しますが、他人の目があり噂にたつことを気遣って、須磨にゆっくり引き留めもできません。
「北の方は姫君たちはお達者か」と光源氏。
「はい、あれに見えます船にて(京に向かっております)」
須磨を通りすぎる船には、姫君(五節の君)とその女房たちが乗っています。
光源氏は、その昔に五節の君とも契ったことがあるのでしたぁ~。
一体、何人の姫君と契ったのかようわかりまへんどす。
五節の姫君はあれこれ手を尽くして、光源氏に歌を送っていました。
「琴の音に 引き留めらるる綱手縄 たゆたふ心君知るらめや」
(琴の美しい音に引き留められた私です。綱手縄のように揺れ動いてためらう私の心を貴方はご存知でしょうか)
光源氏はにっこり微笑みながら、その歌を見ています。
「心ありて引き手の綱のたゆたはば うち過ぎましや須磨の浦波」
(私を想う心があって、引き手綱のようにためらって留まっていらっしゃるなら、須磨の浦をこのまま通り過ぎることは、なさらないでしょう。
私はこんな所で漁をするとは思ってもいませんでした)と返します。
五節の姫君は、ここに留まってしまいたい……、そんな気持です。
さて、場面変わり惟光が、同じ光源氏の供人の良清と話しをしています。
「どうした良清、元気がないな」
「別に・・・・」
「隠してもわかっておるぞ」
「何がでございます」
「明石の姫君へ手紙を出しただろうが、お返事が来ぬのじゃろう」
「・・・・・・(ズボシだがねぇ)」
光源氏の供人たちも、主人を見習って皆なかなかお盛んだったようどすぇ😮
さて、その「明石の君」の父親の明石の入道は、娘を大切に育て大出世させようと考えています。この話は第五話 若紫で良清が明石の入道の噂話をする場面で前ぶりとして登場してますどすぇ。
そこに光源氏が明石と目と鼻の先の須磨に一人で来ていると知って、娘を何とかして光源氏の妻にさせたいと考えるようになります。
ちなみに、明石の入道の奥様(北の方)はそんなだんなの野望を聞いて「あんた、アホちゃう。あの光源氏が田舎の娘など相手にするわけおまへんがな」と呆れています。
そんなある日、突然光源氏の大親友の三位中将(元頭中将)が訪ねてきます。
「おお」光源氏
「もうじっとしていられず、たとえ罪をこうむっても構わないと思ってやってきましたよ」三位中将
「宰相にもおなりになったと伺ったのによくぞ来て下さいました」 光源氏
二人は一晩中寝ずに、詩文を作って夜を明かします。さすがにこの夜は女性の品定めの話はなったようどすぇ。三位中将は、たとえ咎められようとも……と思っていましたが、今は世間の評判を気にして、急いで帰ることになります。
二人で別れの御盃を交わし、「酔って悲しみの涙が、春の盃の中に注がれる……」と一緒に吟詠します。
一般人なら「じゃぁ、元気でなぁ~」でおしまいどすが、知識人の別れは超風流どす。
「雲近く 飛びかふたづも空に見よ われは春日の曇りなき身ぞ」光源氏
(雲近く飛び交う鶴のように、宮中におられる貴方も空から下にいる私を
見てほしいものです。私は春の日のように、一点の曇りもない清らかな身です。)
「世間から信頼されながら、流罪になった人(菅原道真)のように、昔の賢い人でさえ 再び世間に戻ることは難しかったことを思うと、どういう訳か、私もまた、都を見る事が出来るとは思えないのです」などと弱気な発言をします。
宰相の中将は、
「たづかなき雲居にひとりねをぞなく 翼ならべし友を恋ひつつ」
(頼りない宮中で、私はひとり寂しい思いをして泣いております。昔ともに翼を並べた親しい友を恋い慕いながら……。)
「かたじけなくも親しくしていましたのに、こんなに辛い目に遭うならば、いっそ逢わなければよかったと、悔しく思う折が多くございます」と言って、しんみりと別れを惜しむ暇もなく、急いで京に帰ります。バイバイ👋
三月初めの巳の日、供人が
「今日は何か思い悩みのある人は、禊(みそぎ) をなさらないといけません」と進言します。光源氏は、海辺の景色も見たいと思っていたので、早速海辺に出かけます。
浜辺に幔幕(まんまく)を囲いめぐらして、摂津国に都から通ってきた陰陽師(おんようじ・役人)を召し、御祓(みそぎ)をさせます。
模型の舟に、大袈裟な人形を乗せて流すのをわが身になぞらえて、
「知らざりし 大海の原に流れ来て ひとかたにやはものは悲しき」
(見知らぬ大海原に流される人形のように、私は須磨に流れ来て、何とも悲しいことです。)
その時、突然に風が吹き出して、空も真っ暗になります。
御祓もまだ終わりきっていないのに、肘笠雨(ひじかさあめ)という土砂降りのにわか雨が降り出し、雨笠を取る暇もなく皆急いで帰ろうとします。
急に今まで例のないほどの強風が全てを吹き散らし、人々は足が地につかないほど大慌てです。
高波は大層恐ろしげに打ち寄せ、海面は布団を張り詰めたように色付いて光り、雷が轟き稲妻がひらめき、雷が頭上に落ちるような心地がする中を、やっとのことで邸に辿り着きます。
ああ、ヤバかった、怖かったよぉ~🤐🤐🤐😶🌫️
雷はなお鳴り止まず、雨脚が当たる所を突き通しそうな勢いで、バタバタ音をたてており、「こうして、この世は終わるのか……」と皆心細く思い惑っている中で、光源氏はゆったりとお経を唱えています。
女性と別れる時の女々しさとは真逆の、しっかり肝が据わっている光源氏なのでしたぁ~。
日が暮れると、雷は少し鳴り止みますが、風は夜になっても吹き続けます。
供人たちは「津波というものに、急に人の命が損なわれる事があると聞くけれど、全くこんなに恐ろしいことは、今まで経験したことがない」等と言い合っています。
平安時代にも、津波の恐ろしさは伝わっていたようどす。
明け方、光源氏が少し寝入る、夢に誰とも分からない人影が現れて、
「宮中からお召しがあるのに、どうして参上なさらないのか……」と歩き回ります。
その姿を見て、光源氏はハット目を覚まし、
「さては海の中の竜王が、大層美しいもの好きで、この私に目をつけて現れたのか……、気味が悪いことだ。もうこれ以上、ここに住むのは堪えがたい……」と思います。
「こんなところ、もういやぁぁぁぁぁ~~~~~~あ」
光源氏、魂の叫びどす。😅
第十二話 おしまい。