糖尿病性ケトアシドーシス

食欲廃絶、高血糖、ケトン尿、元気消失、5%以上の脱水、多飲・多尿

臨床病理

インスリンの減少によって,肝臓での遊離脂肪酸がトリグリセライドに変換されずにアセチルCoAに変換され肝臓におけるアセチルCoAの蓄積は順次アセトアセチルCoAへ変換され,最終的に肝臓は多量のアセトアセチル酸,ベータヒドロキシブチル,アセトンなどを生成し始める。

血中でのケトン体と乳酸の蓄積および電解質および水分の尿中への喪失は,重大な脱水,循環血液量の減少,代謝性アシドーシスおよびショックに発展する。

ケトン血症と高血糖は大脳の嘔吐中枢を刺激し,吐気,食欲不振,嘔吐などを引き起こす。

ケトン尿症と尿糖に起因する浸透圧利尿作用は尿中へのNaとKの排泄を促進する。

その結果,粘稠性の増加,血栓栓塞症,重度の代謝性アシドーシス,腎不全および死などに発展する。

治療アプローチ

  • インスリンで血糖を下げる
  • 輸液で脱水・電解質異常の補正(低Na,低K、低Cl)
  • アシドーシスの補正

初期治療

  1. 生食500ml+コンクライトPK5ml 10ml/kg/h)
    • リン補正血清Pにかかわらず《輸液(生理食塩水)にコンクライトPK(0.5mol/LのK2HPO4)を5mL/500mL加する。10mI/kg/hrで輸液するとリン酸として0.05mol/kg/hrになる。この濃度(5mL/500mL)のコンクライトPKは10mEq/Lのカリウムを含むので、必要に応じてKClの添加量を調節する(減らす)こと。リンゲル液にはカルシウムが含まれているので、血清リン補正のためにリン酸カリウムを添加すると白濁する。生理食塩水を用いること
  2. K補充(コンクライトPKが含むKを考慮して)
    • 血中K:3.0~3.5mEQ/l→20mEq/L
    • 血中K:2.5~3.0mEQ/l→40mEq/L
    • 血中K:<2.5mEQ/l→60mEq/L
  3. レギュラーインスリン0.1U/kg/h
    • 50mlシリンジに生食50mlレギュラーインスリン1U/kg
    • 最初の10mlは捨て、シリンジポンプで5ml/hで側注する。
  4. モニタリング4時間ごと
    • 最初の2~4時間で利尿がなければ、輸液はいったん中止して急性腎不全の治療を考慮する。
  5. 血糖値250~300mg/dlまでさがったら
    • 生食、5%ブドウ糖液等量混合
    • 脱水が改善されたら3~5ml/kgまで減量
  6. 2~3日で摂食、飲水が可能になったら持続型インスリン皮下投与に変える
  7. 輸液を中止して維持療法に移行

犬や猫の糖尿病では血糖値が700mg/dl超えることはほとんどない。それ以上のクルコースは尿に排泄されてしまう。
DKAと考える動物の血糖値が700mg/dl以上あるとき急性腎不全で乏尿または無尿になっていると考える。

高血糖の動物が急性腎不全で乏尿または無尿になっていたら、1/2生理食塩水(整理食塩水と注射用蒸留水を等量混和したものノをゆっくりと点滴して水和するくらいしか手がない。この場合は1時間ごと血液横査をして血液浸透圧を計算し、浸透圧があまり変動しないようにする。しかしこのような動物の予後はきわめて悪い。

糖尿病性ケトアシドーシス治療マニュアル

1. 輸液療法をショック用量として0.9%生食から開始する.血糖値が250mg/dl以下に低下したら輸液剤を0.45%生食と2.5%デキストロースに
変更する.
2. インスリン療法(低用量のレギュラーインスリンを筋注または静注する)
3. 電解質補給(塩化カリウムまたはリン酸カリウム)
4. 代謝性アシドーシスの補正

レギュラーインスリンを250mlの生食バッグに混合し猫の場合1.1 U/kgの用量で投与する.

インスリンはプラスティック製チューブに結合してしまうため,およそ50mlのインスリン混合液が静脈輸液セットを通過した時点で廃棄しなければならない.

レンテ,ウルトラレンテ,NPHなどのインスリン製剤は絶対に静脈から投与してはならない

筋注療法(0.1 U/kg every hour until glucose <250 mg/dl)の欠点は,事前に投与されたインスリンが十分筋肉組織から吸収されないで残っているような場合,急激に血糖値が低下する可能性があることである

糖尿病性ケトアシドーシス(以下DKA)で血清Kが正常か上昇していても,この猫はいづれ全身性のK欠乏に陥ることになる.

さらに,代謝性アシドーシスの改善とインスリンの投与によりKは水素イオンとの交換作用により細胞内にドンドン取り込まれて行く.

一般指標としては塩化カリウムは40-80 meq/Lであるがそれ以上必要になる可能性がある.血清カリウム濃度はDKAの治療中は頻繁にモニターする必要がある.

血清および組織中のリンはDKA危機中に激減が予想され,リンの補充としてリン酸カリウム(0.01-0.03 nml phosphate/kg/hr for 6 hours)を低リン血症にに起因する溶血を予防するため投与する必要がある.

同様に,ハインツ小体性貧血が赤血球寿命の短縮によりDKAの猫では起こり溶血性の危機が増大する

代謝性アルカローシスの補正は非常に困難であるため,重炭酸療法(によるアシドーシスの補正療法は)は注意深く行う必要がある.

人の場合,非ケトン性高浸透圧性糖尿病とは高血糖(glucose>600 mg/dl),高浸透圧(>350 mOsm/L),重度脱水,ケトン体の不在,代謝性アシドーシスの不在および中枢性の沈鬱症状が認められないことと定義される.

糖尿病の猫では,およそ1/3で血清浸透圧は388 mOsm/L前後にあり,高浸透圧症候群と定義する事が出来る治療は難しい.

輸液療法は注意深くアプローチし補液剤の要求量を十分評価しながら24時間かけて 不足量の80%を補正して行く.

高血糖は非常にゆっくりと補正して行くべきで (1.1 U/kg/24h regular insulin),補液療法開始後2-4時間経過してからインスリン療法を始める.

高浸透圧性昏睡の予後は非常に不良である.