炎症性腸疾患(IBD)

小腸または大腸の粘膜固有層における炎症性浸潤によって 特徴付けられる原因不明の慢性の腸障害を特徴とする症候群
IBDは犬や猫における慢性の咽吐や下痢の最も一般的な原因であると考えられているが、犬や猫では未だ十分に確立されていない症候群である。
何らかの原因で腸の粘膜透過性が亢進し、腸内の細菌や食物などの抗原物質が粘膜内に進入免疫学的反応として炎症が誘発され、炎症によってさらに透過性が冗進し、悪循環に陥る。
IBDの病理発生は不明な点も多いが、免疫学的背景や、腸免疫調節の 変化、腸透過性の亢進、そして特異的な微生物や食事抗原の曝露などが関与すると考えられている。リンパ球プラズマ細胞性腸炎(LPE)は、犬および猫のIBDの最も一般的な病理組織学的診断名である。本来はIBD=LPEではないので注意が必要。
診断
慢性持続性の臨床徴候と他の腸炎を引き起こす基礎疾患の除外に基づいて行われるが、完全には すべての疾患を除外できないことも多い。
ほとんどの場合、何らかの形で生検が必要である。
食物アレルギー除外のために、低アレルギー食や除去食を用いた食事試験を行う必要があるが、一部のIBD症例では低アレルギー食によって症状の軽減が認められることから、臨床的には完全 に食物アレルギーを除外するのは困難なケースが多い
確定診断には、小腸あるいは大腸の粘膜固有層におけるリンパ球やプラズマ細胞の浸潤を、生検材料を用いた病理組織学的検査で証明することが必要である。
生検は内視鏡下で、あるいは外科的に行うが、いずれの場合でも生検は複数箇所採取すべきである。
IBDの組織学的評価は主観的で ある場合も多いため、熟練した病理学者の診断が望ましい。
抗菌剤反応性腸症や食事反応性腸症(食物アレルギー)といわゆるIBDとを線引きする ことは難しい

治療
食事の変更や抗菌剤等を用いて抗原量を減らすことと、腸粘膜で起きている炎症を抑えることが主たる治療
低アレルギー性で、消化性がよく、中等度に脂肪制限されていて動物の栄養要求を満た すものがまず第一に推奨されるが食事だけで完全に症状が寛解することはない。
大腸炎に伴う大腸性下痢が主症状の場合、中等量の発酵性繊維を含むものが望ましい。
低残渣食を利用することも可能である。米、豆腐、おからなどIBDの治療に用いやすい素材がいくつもあり、ときに市販のフードよりも効果的である場合もある。食事療法は決して軽視すべきではなく、根気強くいろいろと試していく必要があ る。IBDの治療の最初は食事療法であり、最後もまた食事療法である。
抗菌剤 本来のIBDの治療ではなく、抗菌剤(メトロニダゾール)の併用はIBDの治療には不必要であるという報告もあるが少なくとも初期治療として抗菌剤を投与することには 症状の軽減やステロイドの減量ができる場合が多く意味があると考えられる。

ただ、抗菌剤反応性腸症単独の場合と異なり、多くのIBD では抗菌剤だけでは完全に寛解することはほとんどない。
使用される抗菌剤は、メトロニダゾール(10~15mg/kg、bid)、オキシテトラサイクリン(10~20mg/kg、bid)、タイロシン(20~40mg/kg、bid)などが一般的である。

免疫抑制剤の投与
食事内容の変更と抗菌剤に反応しない場合には、免疫 抑制剤の投与を考慮。
副腎皮質ステロイド製剤は、中程度から重度のIBDに対する第一選択薬である。
その有効性は、副腎皮質ステロイド剤の持つ抗炎症作用、抗プロスタグランジン作用、免疫抑制作用などによってもたらされると考えられる。
食欲不振・体重減少などの症状が重篤な場合や、重度の低蛋白血症を伴う場合には
、治療初期からステロイドを併用すべきであると考えられている。
犬や猫のIBDの治療にプレドニゾロン通常2~ 4mg/kg/dayの免疫抑制量から開始して、その後症状の 改善をみながら徐々に(3~4週毎に)漸減していくこと が多いが、完全には投薬を中止できない症例も多い。

消化吸収が悪いということと、蛋白が腸管から漏出することとは基本的に別問題で消化不良を引き起こす膵外分泌不全(EPI)は蛋白漏出性腸症ではなく、栄養不良によって軽度にアルブミンが低下するだけ、低蛋白(低ALB)は起こるが、通常軽度で腹水などの低ALB症状は起こさず、体重減少のみが進行する。

プレドニゾロンで効果が不十分な場合に、他の免疫抑制 剤の併用を考慮する。
犬や猫のIBDで使用される免疫抑制剤にはアザチオプリン、シクロスポリン、クロラムブシ ル、シクロホスファミド、メソトレキセー卜などがある。
その効果については十分には検討されておらず、個々の症例でひとつずつ試していくしかない。
その他の非ステロイド性消炎鎮痛剤は、消化管毒性の危険があるため一般的にIBDの治療には用いられない。
その他の治療
小腸性疾患ではビタミンB12(コバラミン)の吸収不良が起きるため、コバラミン が不足していることがある。コバラミン不足はIBDの発 症率や治療反応性に関与することが報告されているため、 血中のコバラミン濃度が減少している場合や、コバラミン 不足が疑われる場合には、非経口的にコバラミンを補給 (250~1,000ng、IMorSC、初期は週1回、その後月 1回)することが推奨されている。
乳酸菌製剤は経験的に臨 床の現場で多く用いられているが、犬や猫のIBDの治療効果に関するデータはまだ少ない
予後
症状のコントロールという観点からは 良好である場合が多い。しかし、ほとんどの症例では長期間治療が必要になる。
予後に関する報告は少ないが、寛解し、投薬の必要がなくなった症例は26%。
治療抵抗性のIBDが小リンパ球性の消化管型リンパ腫である可能性は否定できない

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